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2021.12.9

平松洋子、初の自伝的エッセイ集。三世代による食と風土の記憶を紡ぐ。『父のビスコ』

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キーワード: エッセイ 食 風土 倉敷 平松洋子

平松洋子、初の自伝的エッセイ集。三世代による食と風土の記憶を紡ぐ。『父のビスコ』

「柔らかい宝石を食べている心地がする」

食と生活、文芸と作家をテーマに、幅広い執筆で知られる平松洋子さんによる初の自伝的エッセイ集。

幼少期や家族のこと、故郷、食、風土・・・昭和、平成、令和にまたがる三世代の記憶を紡ぐ。

 

«これまで、生まれ育った倉敷についてぽつりぽつりと断片的にしか書いてこなかったが、遅まきながらようやく私なりに遠い時間のなかに分け入り、ひと続きの流れを漕いでみたい心持ちになれたのは、倉敷という土地の諸相や係累が自分という人間を形成している動かしようのない事実に向き合わなければならないと、正直に告白すれば、自分で自分に追い込まれたからだ。書き始めたとき、父は晩年を過ごしており、書き終わったときは鬼籍に入っていた。だから、一冊の流れのなかで父とのやりとりの言葉の体温は微妙に違っているのだが、これもまた生の記録の一部なのだろう。自分の来し方について、書くべきことは、発酵物の表面に浮き上がってはぷっくり膨らむ大小のあぶくに似て際限がなく、今後も向き合いながら少しずつ言葉にしていきたい。あくまでも個人的でささやかな記憶や足取りの断片にすぎないが、こうして言葉を探り当てながらおずおずと郷里にまつわる有形無形に触れること自体、私にとって、土地や先人たちから施された赦しのように思われて仕方がない。»

(本書「支流 あとがきに代えて」より)

 

表題作「父のビスコ」には、九十二歳で亡くなった父の幕引きが綴られている。

 

「父と母はずっと二人暮らしでやってきたんですが、自宅で倒れた父を母が一人で世話するのが難しいという事情があり、父はみずから施設に入ることを選びました。そうした出来事を通じて、父が人生の終盤をどう考え、どう生きようとしているかをつぶさに見ることになった。晩年を迎えた父から初めてじかに聞く言葉がたくさんあり、父という一個の人間に近づく実感がありました。私はそれまでずっと、父を理解できていないという自覚があり、後ろめたい気持ちを抱き続けてきたので、救われたような心持ちにもなりました」

(本書『父のビスコ』ついての著者インタビューより。全文はこちら▶▶▶https://shosetsu-maru.com/interviews/their-window/11

 

«「ビスコが食べたいそうです」

えっビスコ? あのビスコ?

食べたいものは何でも食べさせてあげてくださいと主治医にうながされ、私はコートを着直して表へ飛び出し、あの赤い箱を買いに走った。お父さんはビスコが食べたい。病院から帰りたい、食べて生きたい。»

(本書「父のビスコ」より)

 

「旅館倉敷」創業者による名随筆「倉敷川 流れるままに」を同時収録。

 

「『倉敷川 流れるままに』は老舗旅館をめぐる時代の証言であり、風土記であり、倉敷という土地に生きた女性の一代記でもあります。昭和三十年代、繁子さんは江戸時代の砂糖問屋の邸を引き継がないかと、地元の財閥である大原家から名指しで持ちかけられますが、その背景には繁子さんのそれまでの献身的な働きぶりや、大原家が二代に亘って倉敷の景観を守るために粉骨砕身してきたことが刻まれています。これは倉敷という土地にとって欠かすことのできない書物だ、その一部であっても読み継がれなくてはならない、と一読して感じました」

(前述著者インタビューより)

 

〈目次〉

父のどんぐり

母の金平糖

風呂とみかん

冬の鉄棒

白木蓮の家

ピンクの「つ」

ばらばらのすし

ふ、ぷかり

やっぱり牡蠣めし

「悲しくてやりきれない」

「四季よ志」のこと

饅頭の夢

おじいさんのコッペパン

すいんきょがでた

眠狂四郎とコロッケ     

インスタント時代

ショーケン一九七一

ミノムシ、蓑虫

「旅館くらしき」のこと

『倉敷川 流れるままに』畠山繁子著より

流れない川

民芸ととんかつ

祖父の水筒

場所

父のビスコ

支流 あとがきに代えて

 

『父のビスコ』

著/平松洋子

 

【著者プロフィール】

平松洋子(ひらまつ・ようこ)

1958年岡山県倉敷市生まれ。東京女子大学文理学部社会学科卒業。食と生活、文芸と作家をテーマに幅広い執筆で知られる。2006年『買えない味』で Bunkamura ドゥマゴ文学賞、12年『野蛮な読書』で講談社エッセイ賞を受賞。著書に『夜中にジャムを煮る』『サンドウィッチは銀座で』『食べる私』『日本のすごい味 おいしさは進化する』『忘れない味』『肉とすっぽん』『下着の捨てどき』『遺したい味 わたしの東京、わたしの京都』(共著)など。

 

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