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2019.6.2
安楽死はなぜ「希望」なのか――スイスに渡った彼女の選択 『安楽死を遂げた日本人』
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「安楽死は私に残された最後の希望の光です」
昨年8月、筆者にメールが届いた。
〈寝たきりになる前に自分の人生を閉じることを願います〉
送り主は、全身の自由を失う神経の難病を患い、いずれ胃ろうや人工呼吸に頼ることになる女性だった。
彼女は、寝たきりになる前に、死を遂げたいと切望する。
彼女は、筆者が前作『安楽死を遂げるまで』で取材したスイスの安楽死団体への入会を望み、そして、こう続ける。
〈私が私であるうちに安楽死を望みます〉
筆者は、彼女と面会し、彼女のスイス行きへの思いの強さを知った。
彼女は言った。
「死にたくても死ねない私にとって、安楽死は〝お守り〟のようなものです。安楽死は私に残された最後の希望の光です」
「私のような状態になった人間にあなたはどんな言葉をかけますか? 『かんばって生きて』とも『死んでくれ』とも言えないでしょう。かける言葉がないと思うんです」
一方で、彼女は家族から愛されていた。
また、身体は動かなくとも、読書やブログ執筆などをしながら、充実した一日を過ごしていた。
その姿を見聞きし、筆者はこう悩む。
‹‹初めて会った感触では、彼女が安楽死をどこまで真剣に考えているのかを理解することが難しかった。この先、生きる望みを見出すかもしれないとさえ思えた。あの笑顔とユーモア、そして知性があれば、絶望から抜け出せるのではないか››
日本では安楽死は違法だ。
日本人が自らの意志によって死を遂げるには、「自殺幇助(ほうじょ)」が容認されているスイスに向かうしかない。
自殺幇助とは、「医師から与えられた致死薬で、患者自身が命を絶つ行為」を指す。
スイスや米国・オーストラリアの一部の州で認められている行為だ。
しかしそれにはお金も時間もかかる。
彼女は病によって体の自由も失われている。
ハードルはあまりに高かった。
‹‹正直に言えば、彼女が安楽死をすることはまず不可能だと考えていた。そもそも安楽死を希望する難病患者を、日本の病院がそう簡単に退院させるはずがないのではないか。
私は、彼女がスイスに旅立つまでを密着取材しようとしたのではない。日本人がどのような逡巡(しゅんじゅん)を重ねながら安楽死を望むに至るのかという経緯に、その時は価値を置いていた。››
しかし、彼女の強い思いは、海を越え、人々を動かしていった。
患者、家族、そして筆者の葛藤までをありのままに描き、日本人の死生観を揺さぶる渾身ドキュメント。
◆ この女性は、NHKスペシャル「彼女は安楽死を選んだ」(6月2日〈日〉午後9時00分~9時49分放送)でも特集されています。同番組には、筆者が取材コーディネーターとして関わっています。
著/宮下洋一
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