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2019.2.13
あなたには、羽を休める場所がありますか?『とまり木』
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本書「0章 鳥かごの妖精」より
‹‹「お嬢さん、いくつ?」
「四つ」
ちょっと驚いた。あきらかに年より幼く見える。
「二つくらいかと思った」
「ああ、からだが弱いんだ。言葉も少し遅れてるのか、あんまりしゃべらない。おとなしい子だよ。だけど、俺に似たのか、こういう工作は大好きだ」
「お名前は?」
「美羽。美しい羽って書く」
――美しい、羽。
その瞬間、伊津子の中にきらっ、と鋭いひらめきが降ってきた。遠い記憶の底に埋もれていた物語のようなものが、ぶわり、と湧きあがった。
幼い・・・・・・、翼・・・・・・。せつない夕暮れ。鳥かごの鳥・・・・・・。
男の肩にまわしていた自分の手を、自分自身で振り捨てるようにして、隣のアトリエに急いだ。インスピレーションが消えないうちに、作業台からスケッチブックと鉛筆をつかみあげ、その場にしゃがみ込んだ。
構図を決め、タテ、ヨコ、斜め。鉛筆を勢いよく走らせる。シャッ、シャッ、シャッ。消しゴムを使うのももどかしく、指の腹でこすって描きつづけた。シャドウを入れ、ハイライトをつけ、陰影をつくっていく。
4Bの鉛筆を三本も取り替え、ようやく一息ついた。
いつの間にか小林がやってきて、後ろから覗いていた。
「決まったのか」
伊津子はうなずいた。
制作中の個展のテーマは〝雲〟。そのしめくくりの一枚をどういう絵にするか、ずっと迷っていたのである。それをいま、思いついた。
スケッチブックを、相手に渡した。
男はさらさらした髪を搔きあげ、絵に見入った。
暮れ方らしき窓辺に、アーチ形の鳥かごが一つ、ぶら下がっている。中に透きとおった羽の妖精が一匹、後ろ姿でとまり木に腰かけている。見つめている空には花びらみたいな雲一つ、ほわり、とさみしく浮かんでいる。
小林が少し首をかしげ、
「飛べないのかな、この妖精さんは」
と、つぶやいた。
「そうね。でも――」
伊津子は立ちあがり、自分のスケッチブックを受け取った。
「やすらかな場所でもあるの」
にこっとした。
ぱたり、とページを閉じ、作業台に置いた。
「これ、先生の美羽ちゃんよ」
互いに見つめあった。四つの瞳がからまった。
「いや、これは伊津子だ」
大きなシャツの中に手が入ってきて、肩甲骨の上を指ですう、すう、と撫でられた。
「ここに美しい羽のはえている伊津子」››
孤独を抱える画家・青山伊津子と、伊津子が愛する男の娘・小林美羽。
それぞれの場所で闘う二人は、自らの命を絶った後、この世でもあの世でもないある〈不思議な世界〉で交わる。
もう、なにもかも投げ出したい・・・・・・。
そんなとき、羽を休めることができる〝とまり木〟のような場所が、あなたにはありますか――?
溢れる涙で心が潤う感動作。
全国の書店員さんから絶賛の声、続々!
「生きることをあきらめたくなった人へ。
希望という光を纏える〝とまり木〟がここにあります」
――うさぎやTSUTAYA矢坂店・山田恵理子さん
「心が疲れた人に贈りたい。
生きていれば、いつか光がさしてくるよ。
この本が光の手助けになることを願って」
――ジュンク堂書店滋賀草津店・山中真理さん
「登場人物に襲いかかる出来事に憤りを感じ落ち着かない気持ちになることもありましたが、人のせいにせずもう一度「生きる」ことを選んだ二人を見て、この物語は許しの物語でもあると思いました」
――ゲオ福江店・立花沙八加さん
「生きていれば光がある。
選ぶことが出来る。
生きよう!」
――未来屋書店高崎オーパ店・山本智子さん
「いいことばかりじゃない。
でも生きてさえいればいいこともある。
理不尽だと悩む人に読んでほしい、そんな一冊です」
――明林堂書店日出店・富田昭三さん
著/周防 柳
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