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2019.5.7
15歳の夏、わたしの体の奥底でなにかが蠢いた。『もう二度と食べることのない果実の味を』
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痛くて切ない優等生ふたりの「熱」を描く
16歳の時、「女による女のためのR-18文学賞」に応募した短編「ジェリー・フィッシュ」が最終候補に選出。
同作で小説家デビューをはたし、のちに金子修介監督で映画化されるなど、10代からその才能に注目が集まった雛倉さりえ。
あれから6年が経ち、大学院在学中の彼女が描いたのは、15歳の言い知れぬ〝衝動〟です。
「一般的には、若い方たちの恋愛は爽やかで切なく、華やかなイメージがあるかもしれません。でも、もっと醜くて汚い、生々しい関係があってもいいはず。むしろ醜くて汚い恋愛の方が、多いのかもしれない。その醜さをとことん突きつめたい。おしゃれじゃない恋愛を書いてみたかった。恋愛という言葉ではくくれない、生身の男女の関係性に迫りたいと思いました」(「小説丸」著者インタビューより)
ひなびた温泉街に育った中学3年生の冴(さえ)は夏休み直前のある日、掃除当番を押しつけられ、学年で成績トップの優等生、土屋くんと理科準備室で二人きりになった。
勉強に向かう姿勢と同じく、黙々と脚立の上で拭き掃除をする土屋くんの姿に、学年2位の自分が信じる〝正しさ〟を重ねる冴。
次の瞬間、室内に鈍い音がひびき、土屋くんの体は床に倒れていた。
‹‹わたしは、言った。
「出して」
「え?」
「足、出して。見せて。捻挫してるかも」
彼はおずおずと、右足を前に立てた。上履きと靴下を脱ぎ、制服の裾をまくる。
とたんに、ぐろぐろと濃い体毛が目にとびこんできた。肌のうえで凶悪にのたうつ、黒い毛。一本一本が見たこともないくらい太くて、長い。
おとこのひとは、みんなこうなのだろうか。みてはいけないものをみてしまったようで、心臓の鼓動が速くなった。けれど、なぜか目を逸らせない。果実のようなのどぼとけ。大きなくるぶし。ごつごつとした骨と、筋ばった肌。のたうつ毛。どれもわたしの体にはない。異質なものだ。幼い顔立ちに似合わない、男のからだ。
ふいに、おなかの奥が熱くなった。
なにか大きなものが、ゆるりと頭をもたげる。熱に浮かされたときにも似た、あるいは喉の渇きにも似た、あまく気だるい疼きが、全身にひろがってゆく。
››
夏休みに入り、ホテルの廃墟で逢瀬を重ねるようになったふたり。
――――夏休み明け、テストの結果は悲惨なものだった。
上に、上に、こつこつ積み上げてきたふたりが、下に、下に、落ちていく。
「ふたりを誰よりも深くむすびあわせ、同時に破滅をもたらしたもの。
それが、セックスだった」
受験、アンバランスな心と体、性への限りない渇望、誰かに承認してもらいたいという欲求。
思春期のとまどいと無鉄砲な強さを、みずみずしい筆致で紡ぎだす。
装幀写真は今、話題沸騰の写真家、岩倉しおり氏。
◆ 3月よりデジタル少女漫画誌「&フラワー」で、藤峰やまとさんによるコミカライズ「もう二度と食べることのない果実の味を~甘くて苦い、15歳の衝動~」が大好評連載中!▶▶▶https://andflower.shogakukan.co.jp/comiclist.html
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この機会にぜひ〝果実の味〟をご賞味ください!
著/雛倉さりえ
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