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2019.1.13
一家心中の被害者と加害者が出会った時、宿命の針が動き出す。『悲願花』
この記事は掲載から10か月が経過しています。記事中の発売日、イベント日程等には十分ご注意ください。
乱歩賞作家が新たなアプローチで挑んだ慟哭のミステリー
夜闇に輝くパレード、大好物ばかりのご馳走、笑顔の父と母。
家族で遊園地に行ったあの日、幸子は夢のような時間を過ごした。
そして――
両親は家に火をつけて一家心中を図り、幸子だけが生き残った。
工場の事務員として働き始めた幸子は、桐生隆哉と出会い、惹かれ合うようになる。
しかし、幸子は隆哉に「一家心中の生き残り」であることを告げられずにいた。
隆哉の部屋で料理を作ろうとした幸子は、コンロの火を見てパニックを起こしてしまう。
過去に決別しようと両親の墓を訪れた幸子は、雪絵という女性に出会う。
「あたしが、子供たちを殺したんです」
子供たちを乗せた車で海に飛び込み、一家心中を図ったシングルマザーの雪絵は、自分だけ生き残ってしまったのだという。
‹‹幸子は雪絵の目を真っすぐ見返した。
「私なら――命で償う」
雪絵は心臓に杭を打ち込まれたような顔をした。絶句したまま、言葉を探すように目をさ迷わせる。
「命――?」
「はい。だって、そうでしょ。元々、一緒に死ぬつもりだったのに、のうのうと生き延びてしまって・・・・・・そんな状況だったら、私なら子供の後を追います」
雪絵は傷ついた顔で言った。
「ずいぶんひどい言い草ね」
――当然でしょ。赤の他人でもあなたは私の〝母親〟なんだから。
親に殺された子供は――殺されそうになった子供は、どんなふうに生きていけばいいのか。殺した側の罪の償い方より、分からない。だからこそ、苦しみ続けている。
「自分が生き残ってしまったら、それはもう〝心中〟じゃなく、ただの〝殺人〟じゃないですか」
本音を言えば、一家全員が死んだとしても、殺人には違いない。巷で増えている児童の虐待死と何が違うのか。〝心中〟の名のもとに自分も死んでしまえば、不幸な出来事として世間から同情されるのか。赦されるのか。
間違っている。
幸子は皮膚に爪が突き刺さるほど強く拳を握り締めた。
あの夜、両親がちゃんと殺してくれていたら、こんなに苦しみ悩まずにすんだのに――。››
雪絵と出会い、心を強くかき乱される幸子。
一家心中の<被害者>と<加害者>の思いが交錯した時、衝撃の真実が明らかになる――。
「闇に香る嘘」「黙過」で最注目の乱歩賞作家が「初めてラストを決めずに書き始めた」慟哭のミステリー!!
全国の書店員さんからもイチ推しのコメントが届いています。
「せつなくも、最後まで息がつけない。
憑依的なミステリーに衝撃!」
(うさぎや矢坂店 山田恵理子さん)
著/下村敦史
【著者プロフィール】
下村敦史(しもむら・あつし)
1981年京都生まれ。2014年「闇に香る嘘」で第60回江戸川乱歩賞受賞。その後、意欲的に新作を刊行。「生還者」は第69回日本推理作家協会賞の長編及び連作短編賞部門の候補になる。他の著書に「難民調査官」シリーズ、「叛徒」「真実の檻」「失踪者」「告白の余白」「緑の窓口 樹木トラブル解決します」「サハラの薔薇」「黙過」など。ミステリー仕立てのエンターテイメント小説の新たな旗手として、注目を集める若手作家。
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