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2019.2.25

ひたむきに生きることの大切さを謳い上げた長編時代小説『遙かなる城沼』

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ひたむきに生きることの大切さを謳い上げた長編時代小説『遙かなる城沼』

家族、友人、恩師――。

人との絆を守るにも覚悟がいる。

惣一郎(そういちろう)は館林藩の武士である村瀬家の長男。

ひとつ下の弟・芳之助(よしのすけ)や、そのふたつ下の妹・千佳(ちか)と塾や道場通いを続けていた。

上級藩士の跡取りたちが藩校に通うのに対して、下級藩士の子弟たちは私塾に通うのが通例だが、幼い頃から頭抜けて頭のいい芳之助が私塾から藩校に移ることになった。

妹の千佳には剣の才があり、道場の一番弟子になる勢いで、惣一郎は、兄としての立場がない。

父・源吾(げんご)は「頭が良い者だけが優れているわけではない。人は良い心がけで成長していくものではないか」と話してくれた。

 

ある日、幼馴染みの寿太郎(じゅたろう)たちが芳之助のことを妬んで乱暴し、止めにはいった惣一郎も怪我を負った。

この件で塾長から咎められた寿太郎は、癇癪持ちの母親に言われ、塾や道場を変えた。

 

‹‹(これで、本当に縁が切れてしまったのだな、寿太郎)

惣一郎は複雑だった。

寿太郎が何を思い、何を考え、どんな気持ちなのかまったくわからなくなった。

(もう子どもの頃の寿太郎ではなくなったのだな)

城沼の畔で振り返った寿太郎の目には、気まずさがあった。

しかし、饗庭塾(あいばじゅく)で先生に叱責されていたときの寿太郎にはそれが消えていた。不満と寂しそうな暗い眼差しで、どこか疎外感をもっているのではないかと思えた。

無邪気に城沼に青龍がいると話していた頃、見つけたら教え合おうと団子を食べていた頃、もうあの寿太郎ではないのだと惣一郎は痛切に感じた。››

 

やがて、惣一郎は病に倒れた父に代わって、藩の仕事を行うことになった。

藩では派閥争いがあり、村瀬家は館林藩から浜田藩への国替えが決まる。

子どもの頃から一緒だった綾を嫁に迎え、子どもも生まれた惣一郎は、主君の松平斉厚に従い、家族と浜田へ移った――。

 

歳月を経ても、思い出すのは故郷・城沼の風景だった。

風が渡り煌めく湖面、咲き誇る躑躅。

そこに、音信不通となっていた寿太郎から「もう一度惣一郎に会いたかった、話をしたかった」と悲痛な叫びが届く・・・・・・。

 

特別な才覚がないことに悩みつつも誠実に生きる惣一郎。

ひとりの男の成長を情感あふれる筆致で描きながら、ひたむきに生きることの大切さを謳い上げた長編時代小説。

 

解説は、立川談四楼さん。

 

「次男の芳之助は体は弱いものの頭脳明晰で、末は祐筆(ゆうひつ)にと願っています。末の千佳は女だてらに剣術に冴えがあり、後に起こる大事件では読者を驚かせます。惣一郎は総領の甚六(じんろく)の例え通りおっとりして、優秀な弟に引け目を感じたり、お転婆な妹から突き上げを食ったりしますが、大器晩成型で、少しずつゆっくり人として厚みを増してゆきます。

この三兄弟の成長が丹念に描かれます。仕事を得、結婚し、子を生(な)すまでです。それぞれが交流の中で得る友情も欠かせません。特に惣一郎、梅次、寿太郎のそれは特別で、私は山本周五郎が描く世界を鮮烈に思い出しました。

それらの物語の芯をお家騒動が貫きます。藩が真っ二つに割れ、さあどちらにつくかと、村瀬家もその権力闘争に巻き込まれます。その中で父源吾の秘密が浮かび上がります。そうかそういうことだったのかと読者は得心し、安堵もし、人としてどう生きるかを自ら問うわけです」

 

小学館文庫

『遙かなる城沼』

著/安住洋子

 

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