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2018.12.25

並外れた好奇心、無類の行動力、悪食嗜好。全学連元委員長、47年の軌跡。小学館文庫『唐牛伝 敗者の戦後漂流』

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並外れた好奇心、無類の行動力、悪食嗜好。全学連元委員長、47年の軌跡。小学館文庫『唐牛伝 敗者の戦後漂流』

ノンフィクション作家・佐野眞一が、60年安保のカリスマ・唐牛健太郎の人生に寄り添った本格評伝。

1997年「旅する巨人─宮本常一と渋沢敬三」で大宅壮一ノンフィクション賞受賞。

2009年「甘粕正彦 乱心の曠野」で第31回講談社ノンフィクション賞受賞。

「巨怪伝 正力松太郎と影武者たちの一世紀」「東電OL殺人事件」「あんぽん 孫正義伝」など多くの著作をもつノンフィクション作家・佐野眞一が、60年安保のカリスマ・唐牛健太郎(かろうじけんたろう)の心奥を描く。

 

‹‹私が唐牛という男に惹かれるのは、誰からもカリスマと持てはやされた全学連委員長時代ではない。むしろ27歳で刑務所を出所したあと、47歳で鬼籍に入るまでの20年間どんな人間と交流し、どのような人生遍歴を歩んだかに関心が向かう。

強いて言うなら、なぜ彼だけがその後の高度経済成長期の波に乗らず、一人だけ60年安保闘争の功罪を背負い込むようにして、短い生涯の幕を閉じたのかに興味がわく。

すべてのアイドルやスターと同様、唐牛が輝いたのはほんの一瞬だった。ただし、その一瞬はあまりにまばゆい。››(第一章「装甲車を乗り越えよ」より)

 

60年安保を闘った若者たちは、「祭り」が終わると社会に戻り、高度経済成長を享受する。

しかし、唐牛だけはヨットスクール経営、居酒屋店主、漁師と職を変え、日本中を漂流した。

「昭和の妖怪」岸信介と対峙し、「聖女」樺美智子の十字架を背負い、「三代目山口組組長」田岡一雄と「最後の黒幕」田中清玄の寵愛を受け、「思想界の巨人」吉本隆明と共闘し、「不随の病院王」徳田虎雄の参謀になった。

なぜ、彼は何者かになることを拒否したのか。

 

‹‹本書の主人公であるブント全学連委員長の唐牛健太郎は、左翼的言辞をほとんど弄することなく、好奇心丸出しに「何か面白いことはないか」と言うのが口癖だった。誤解を恐れずに言えば、唐牛はこれまでの革命運動では考えられない「不真面目」な男だった。

取材した実感で言うと、唐牛はグリップしたかと思うと、指の間からするりと抜け出し、遠くの方から「どうだい、オレが少しわかったかい」と笑っているようなところがあった。

それこそが唐牛の自己韜晦(とうかい)であり、他人にはめったに見せない唐牛なりの知性でもあった。

唐牛が闘争終了後、「転向右翼」の田中清玄や、山口組三代目組長の田岡一雄と対等に付き合い、晩年は徳洲会の徳田虎雄を手伝った「悪食」嗜好も、並外れた好奇心と無類の行動力から来ている。その唐牛を筆頭として、ブント全学連の幹部たちは、闘争終了後も、「大衆社会」に埋没することなく、己の信ずる道を進んだ。››(「あとがき」より)

 

強すぎる「個性」を持った唐牛健太郎の生きざまとはいかに?

60年安保時代に生きた日本人と、いまの時代に生きる日本人の「落差」を描く。

北は紋別、南は沖縄まで著者みずから現場に足を運び、唐牛の人生に寄り添った本格評伝。

文庫化に際して、青年期の唐牛に大きな影響を与えた「函館の番長」の追跡調査や、「盟友・西部邁の自裁死」についてなど、追加取材の上、大幅加筆!

 

解説は評論家の川本三郎さん。

‹‹「佐野眞一さんは「ノンフィクションは〝小文字〟で書く文芸」だと言う。その持論のとおり、本書は、政治闘争、イデオロギーの面よりも、唐牛健太郎の人間としての魅力を語ってゆく。

どういう生い立ちなのか。どういう学生時代だったのか。恋愛はしたのか。結婚は。そうした生の細部にこだわった人間ドキュメントになっている。

実によく取材をしている。往年のフランス映画の名作「舞踏会の手帖」のように、唐牛健太郎の関係者を一人一人、辿ってゆき、唐牛が生きた戦後という時代を浮き上がらせてゆく。まだ戦争の傷跡が鮮明に残り、人々に暮らしが貧しかった昭和二十年代、三十年代がよみがえってくる。その意味で、本書は、ひとつの時代史にもなっている。››(解説「敗者への深い想い」より)

 

小学館文庫

『唐牛伝 敗者の戦後漂流』

著/佐野眞一

 

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