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2019.3.2

大ヒット上映中!『映画ドラえもん のび太の月面探査記』の脚本を担当した辻村深月さんインタビュー全5回を公開!

大ヒット上映中!『映画ドラえもん のび太の月面探査記』の脚本を担当した辻村深月さんインタビュー全5回を公開!

大ヒット上映中の『映画ドラえもん のび太の月面探査記』の脚本を担当した辻村深月さんが、自らの手で映画のノベライズに挑戦しました。『かがみの孤城』で2018年本屋大賞を受賞後、初の書き下ろしとなる長編冒険小説です。大の『ドラえもん』ファンとして知られる辻村さんは、いったいどんな思いで物語を紡ぎ、キャラクターに命を吹き込んでいったのでしょう? 全5回でご紹介します。

 

【第2回】

私はやっぱり小説家だ。

小説と脚本の流儀は、まったく違うものでした。たとえば登場人物の長いセリフ。小説では読者に状況や気持ちを伝えるために言葉を尽くしがちですが、映画は違う。「声優さんの演技と絵があれば充分に伝わりますから、このひと言で大丈夫です」と監督に指摘されたところが何カ所かありました。その言葉を聞いたとき、小説でできること、そしてアニメでできること、それぞれ得意な部分があるんだなと気が付いたんです。同じアイデアや設定から発信しても、アプローチの仕方がこんなに違うんだと。勉強になることがとてもたくさんありました。

 

脚本を書いていて、まるでドラえもんのひみつ道具みたいだと思ったんですよ。「ミステリアスな月」って書いたら、書いた本人はそれが何色なのか知らなくても、「ミステリアスな月」がアニメでは仕上がってくるんです(笑)。なんて素敵な道具なんだろう、これはひみつ道具を手に入れたようなものだと。他にも、「荒涼とした大地」と書いておけば、「荒涼とした大地」が絵になってできあがってくる。すごく楽しい!とはしゃいでいたんですけど、いざ小説にするとき、その作業がすべて自分にはね返ってきたんです。ああ、私が一人で描写しなきゃいけないんだって(笑)。

 

この小説は、自分が脚本で書いたものって何だったんだろうと、その意味をひとつひとつ再確認するような気持ちで書きました。できあがっていくアニメの絵を参考にして書いた部分もありますが、もちろんそうではないところも。たとえば、このとき登場人物がどんな思いでいたのか、といったような部分ですね。そうした部分を書くことが本当に楽しくて。すでに絵のある場面のほうが早く書けると思っていたら、そうではなかった。何もない、一から文章で描写して書かなければいけない場面や映画にはないシーンのほうが、楽しみながらスピード感を持って書くことができたんです。私はやっぱり小説家だ。ここで生きているんだなって。

 

年齢に関係なく読んでほしい

最初は子どもに読みやすいようにと思って小説を書いていましたが、途中からあんまり考えなくなりました。文章が難しいと思う子どもがいるかもしれないし、逆に簡単すぎると思う大人がいるかもしれない。けれど私は子どもの頃に、『ドラえもん』を子どもだけのものだと思って読んでいたわけではありません。大人になったいまも同様です。子どもも大人もみんな、『ドラえもん』が好きなんですよね。だから普段の小説を書くときと同じよう、年齢に関係なく読んでくれる人が読んでくれたらいいなと思って書きました。

 

もしも子どもが読んだとき、わからない言葉が出てきたら、その言葉の意味を前後の文章から想像してもらいたいですね。そうやって言葉を覚えてくれたらうれしいです。私自身、子どものときにそういう読み方をしてきたように思いますし、漢字もそうやってだいぶ覚えた。今回、ジュニア文庫版が出るので、そこでは漢字のフリガナもすべてつくし、あえてひらがなを多用するというのもやめました。

 

もうひとつ、『ドラえもん』を小説で書くにあたって、私の背中を押してくれたのが、瀬名秀明先生の『小説版ドラえもん のび太と鉄人兵団』の存在でした。瀬名さんが『鉄人兵団』を書かれたとき、編集者から「のび太たちの年代が読めるように」と最初は依頼されたそうなんです。そしたら瀬名さんが「のび太たちじゃなくて、(『エスパー魔美』の)魔美が読めるくらいでもいいですか?」とおっしゃった。そのやりとりを伺って、なんてオシャレで、すてきな返し方をされるんだろうと思ったんですね。ノベライズの依頼を受けて、真っ先に思い出したのがその言葉でした。その言葉が私の中でも基準になって、最後まで書き上げることができた。もともと私は学生時代、瀬名さんが「『ドラえもん』が好き」とインタビューなどでおっしゃっている姿を見て、いつか、自分も作家になったら「『ドラえもん』が好き」と言える作家になりたい、と思っていたんです。なので、私を今回の映画につないでくれたおひとりは瀬名さんだったと思っていますし、瀬名さんの『鉄人兵団』がなかったら、書き出すときにもっとずっと迷ったと思う。瀬名さんにも、心から感謝しています。

[第3回につづく]

 

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『小説 映画ドラえもん のび太の月面探査記』

原作:藤子・F・不二雄 著:辻村深月

四六判上製単行本 定価:本体1,800円+税

ジュニア文庫版 定価:本体800円+税

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