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2019.2.27
食べて成仏、天国行きの一皿。最期の晩餐ミステリー『冥土ごはん 洋食店 幽明軒』
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バイト先は、現世に思いを残した死者が訪れる洋食店だった・・・
二ヶ月前に人生で三つ目の職を失った和泉沢悠人(いずみさわ・ゆうと)は、懐に余裕もないのに、デミグラスソースの匂いに誘われて「洋食店 幽明軒(ゆうめいけん)」に入った。
食事を終えると、店主らしき人物がアルバイト募集の紙を貼りはじめた。
この店の洋食がただで食べられるかもしれない、そんな不純な動機から「幽明軒」で働くことになった悠人。
厨房で働くのはシェフの九原脩平(くはらしゅうへい)と妻・香子(こうこ)、フロアは娘の果菜子(かなこ)が担当している。
バイト初日、無事に営業を終えた午後8時、急に店内の温度が下がり、閉じたままのドアから着物姿の女性が姿を現した。
「ここは人生の最期に訪れる、幽冥(かくりよ)と顕世(うつしよ)を繋ぐ洋食店でございます」
そう、ここ幽明軒は、現世に思いを残した死者が訪れる洋食店だった。
死者たちは、好きな洋食を一品オーダーし、それを食べることで過去のわだかまりを解消することができるという。
悠人が接客した着物姿の女性は、大正時代に交通事故で亡くなった中野珠代(なかの・たまよ)だった。
オーダーは「ライスオムレツ」?
‹‹初めて見るライスオムレツは、半熟のように見える卵が山のようにこんもりと盛られ、茶色いソースがかかった代物だった。女給に促されるまま、スプーンを手に取り、そっと差し入れる。なかにはごはんが詰まっているようだ。
口に運ぶ。卵やごはんにソースが絡み、なんとも言えない不思議な味わいがひろがった。甘くもあり、酸っぱくもあり、でもそれだけではない、これまで味わったことのない複雑な旨みが口中で溶け合ってゆく。ひと口、二口と、噛みしめるように咀嚼する。
胸の奥に、温かな灯火が宿る。飯田信之介(いいだ・しんのすけ)の姿が、声が、よみがえる。初めて出会った日の凛々しい佇まい、無邪気な笑い声、悔しさに震わせる肩、口喧嘩して別れたときの寂しげな姿。無秩序に、さまざまな思い出が交錯する。
「お客さま、大丈夫ですか」
聞き慣れぬ声に、珠代の追憶が弾けた。声のしたほうを見やると、山のような大男が経っていた。けれど不思議に威圧感はない。
食事の手が止まり、ほろほろと大粒の涙をこぼしていたことに気づき、珠代は恥じ入るように袖で頬を拭った。
「失礼いたしました。お恥ずかしいところをお見せして」
「いえ、とんでもありません。申し遅れましたが、料理長の久原脩平です。本日のご来店、誠にありがとうございます。当店のオムライスはいかがでしょうか。お気に召しませんでしたか」
「おむらい・・・・・・」
目顔で戸惑いを返すと、彼のそばに控える女給が耳打ちをした。
「失礼いたしました。オムライスとは、ライスオムレツの別の呼び名です。お口に、合いませんでしたか」››
結婚を誓い合った恋人と一緒に食べる予定だったライスオムレツ。
脩平は珠代の話を聞きながら、恋人の本当の気持ちを導き出す。
食べて成仏、天国行きの一皿。
大正十五年、銀座のライスオムレツを供した――第一話「別れのオムライス」
大学を中退して料理人として独立した息子のことを認められないまま、自身はすべてを捧げた会社にリストラされた父親――第二話「親父とナポリタン」
元夫に毒殺されたと疑う女性が最期の夜に食べたのは――第三話「マカロニグラタンの暗い夜」
父はスープ? 母はクルトン? 二年前に亡くなった青年にとって、コーンポタージュは家族団らんの象徴だった――第四話「コーンポタージュの主役」
私の父親がミンチ・ステーク=ハンバーグの産みの親――第五話「焼け跡のハンバーグステーキ」
あの世に行く前に食べたい最期の晩餐から、生前の〝想いのこし〟や〝謎〟を読み解く五皿の食×異界ミステリー!
解説は書評家の大矢博子さん。
「オムライスやスパゲッティが時代によって姿を変えながら多くの人に愛され続けているように、私たちの人生もその時々の思い出を積み重ねながら、次の世代のための何かを残していく。食べ物も人も、そうして繫がっていくのだと本書は謳っている。
本書は軽やかなグルメミステリと見せかけ、その実は話を聞いただけで謎を解く安楽椅子探偵ものであり、食の文化史であり、救いと再生の物語でもあるのだ」
著/伽古屋圭市
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