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2018.11.19
アナタがこの本を手に取ることも仕組まれていた!? 小学館文庫『偶然屋』
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ブラックユーモアミステリーの名手、本領発揮!
司法試験に落ち、就職活動ガケっぷちの水氷里美(みずごおりさとみ)はある日、電信柱のしゃがまなければ読めないような低い位置に貼られた、「オフィス油炭(ゆずみ)」という会社の怪しい求人広告を発見する。
広告にはアシスタントディレクターというだけで、仕事の詳細には触れられていない。
ワラにもすがる思いで連絡を入れると、面接場所に指定されたのは、なんと錦糸町のパチンコ屋!?
疑念を抱きながらも、約束の時間より早めに入店した里美は、客のふりをするために、適当な台で打っていたら、いきなり大当たり!
気づいたら2時間が経っていた。
すっぽかされたのか?
それとも、この熱中する姿を見てあきれられたのか?
思わず「ファック!」と叫ぶと、隣の中年男性から声をかけられた。
‹‹「その服装はシューカツか」
男性の問いかけにうなずいた。白のブラウスにチャコールグレーのパンツスーツ。絵に描いたような就活スタイルだ。
「すっぽかされましたけどね」
「そりゃひどいな。まっ、それも運命だ。案外、そんなことがラッキーにつながることだってあるかもしれんぞ。たとえばその面接を受けなかったことで、お姉ちゃんは今日死なずに済んだかもしれない」
「なによ? それ」
「いや、だからさ。そういうことがあり得るって話だよ。たとえば面接を受けたその帰り道、交通事故に遭って死ぬかもしれないだろ。つまり面接を受けなければ死ななかったというわけさ。ラッキーじゃないか」
「まあ、たしかに・・・・・・絶対にないとは言い切れないわね」
浅はかで薄っぺらい運命論だと思ったが適当に相づちを打った。この時間にパチンコでさぼっているサラリーマンの話なんて程度が知れている。酔っ払いの与太話と変わらない。
「だけどな、偶然とか運命だと思っていたらそうじゃないこともある」
「ふうん。そんなことあるかな」
真面目に耳を傾けるのもバカバカしくなってきた。ろくな話題をもっていないおっさんが暇つぶしに無理やりそれらしい話を語ろうとしているに過ぎない。
「聞いた話だけど『偶然屋』ってのがあるらしい」
「偶然屋?」
聞き慣れない呼び名に思わず聞き返した。
「ああ、あくまでも噂だけどな。偶然を演出するプロらしいぞ」
「なんですか? それは」
「依頼すれば偶然の出会いとか事故とか起こしてくれるらしい」
「偶然って起こすものじゃないでしょう」
「あくまでも偶然に見せかけるということさ。そんなプロがここら界隈にいるって話だ」››
じつは水氷里美の就職試験は、パチンコ屋の69番台に座っている、このときからはじまっていた・・・・・・。
数々のミッションをなんとかクリアして、彼女に与えられたポジションは「〝アシスタント〟ディレクター」ならぬ「〝アクシデント〟ディレクター」という聞き慣れない仕事だった。
ここまでのあらすじから、コメディタッチのライトなミステリーを想像された方、半分はあっていて、半分は間違い。
口に入れた瞬間は甘いのに、噛めば噛むほど辛味が増してくる。
いい意味で、カクジツに裏切られること間違いナシのゾクゾク感!
ソフトだけどハード、笑えるけど苦い。
ドラマ化された「ドS刑事(デカ)」シリーズや、デビュー作「死亡フラグが立ちました!」などのヒット作を凌ぐ、著者にとって新たなる代表作といえる作品!
著/七尾与史
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