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2019.2.1
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新章 神様のカルテ 第2回
広々とした病院入り口に立っている間にも、子供を乗せた車椅子を押していく母親の姿や、点滴棒を慣れた手で押しながら石畳を歩いていく二人組の少年の姿などが目に入る。私の半分ほどの背丈もない子供が、野球少年が扱うバットと同じくらいに点滴棒の操作に慣れているということは、それだけ入院期間が長いということの証左であって、この病院の背負う医療の特異さと困難さとを端的に示した景色であろう。
私も一応医師である。
しかし内科の医師であるから、小児科の病院に仕事はない。仕事もないのに平日の昼間からこども病院の玄関に立っているのは、暇をもてあまして安曇野に遊びに来たわけでもなければ、内科が嫌になって小児科に転職したわけでもない。
もっとはるかに大切な目的がある。
病院前の駐車場からのんびりと視線をめぐらせたところで、ちょうど入り口の大きな自動ドアが開くのが見えた。開いた先から出てきたのは、待ちわびていた我が細君である。
小柄な細君がすぐに私に気が付いて、大きく手を振るのが見えた。私はすぐに右手をあげつつ、細君の足元に丸々と太った小さな女の子を見つけて破顔した。
女の子の方も、前方の日当たりのよい場所に立つ実直の内科医を確かに認めたらしい。よちよちとまことに頼りない足取りで近づいてくる。
「経過は?」
「順調だそうです」
【つづく】
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