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2019.2.2
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『新章 神様のカルテ』第3回
歩み寄ってきた細君の返答に、張りつめていた空気がゆるんだように肩の力が抜けた。そんな私を見て、細君はくすりと笑う。
「そんなに心配なら一緒について来ればいいのに」
「ついて行ったが最後、私の大事な宝物に、針を突き刺したりX線を浴びせようとする乱暴な白衣の男たちと諍いを起こすこと疑いない」
「みんな優しい先生たちですよ」
私の出来の悪いユーモアを、細君はゆるぎない笑顔で受け流す。
私は黙然とうなずきつつ、とことこと足元までやってきた小さな天使を両手でそっと抱き上げた。
「おかえり、小春」
「たぁだいま、とと」
我が子、栗原小春は春の日差しに負けない明るい声を響かせた。
私こと栗原一止は、信州松本に住む実直にして生真面目の内科医である。
真面目というと、なにやら地味で面白みに欠けると思う向きもあるかもしれないが、これは浅薄な論評で、かの明治の文豪夏目漱石もこんな言葉を残している。
“真面目とはね、君、真剣勝負の意味だよ”
いかにも真面目に生きた大文豪らしい言葉であろう。
私もまたかかる意味において真面目に内科医の道を歩んで、現在すでに九年目。年月だけを数えればずいぶん立派に聞こえるかもしれないが、一人前の内科医の道はいまだはるか遠く、ようやく半人前といったところである。
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