推薦者の言葉
- 高階秀爾氏
- 塩野七生氏
- 原田マハ氏
- 村上 隆氏
「それ美術は国の精華なり」という岡倉天心の言葉が示すように、優れた美術作品は、長い歴史に培われた一国の文化の精髄であり、その最良の遺産である。しかもそれらは、ただ単に過去の貴重な資料であるだけにとどまらない。遠い昔に生み出されたものであっても今なお鮮やかな輝きを放ち、われわれに深い感動を与え、精神の昂揚をもたらす。絵画彫刻工芸建築の名品の数々は、歴史からの豪華な贈物であり、豊かな記憶を伝える美の使者たちなのである。
かつて私は、小学館版『原色日本の美術』によって多くの新しい作品と出会い、また以前に作品を見た時の感動を改めて甦らせるという幸福な時間を持つことができた。それからほぼ半世紀、このたび装いも新たに、二十一世紀の時代にふさわしい『日本美術全集』全20巻が刊行されるという。まことに喜ばしい朗報であり、歓迎すべき快挙と言うべきだろう。事実、この半世紀ほどのあいだに、美術史学は急速な飛躍を見せ、幾多の新しい知見や研究成果が積み重ねられて来た。また、近年の緻密な修復作業によって、失われていた当初の輝きを取り戻した作品も少なくない。それらの成果は、新しい美術全集に充分に反映されることだろう。さらに、美術についての新しい視点、例えばその社会的在り方や、日本人の価値観、行動様式との深い結びつき、あるいは近年国際的にも注目を集めているデザイン、イラスト、マンガなど美術の表現領域の拡大などにも目配りをきかせている点も、新鮮であり大いに期待される。全体の編集にあたるのは、現在日本で最も信頼できる幅広い視野の美術史家たちであり、各巻の担当者はそれぞれの分野に通暁した気鋭の専門家たちである。専門研究者も含めて美術に携わる人びとはもちろん、一般の愛好者たちにとっても、是非手許に備えておきたい美の贈物であろう。
高階秀爾(たかしな しゅうじ)
美術史家、大原美術館館長、東京大学名誉教授。1932年東京生まれ。
東京大学教養学部卒業。東京大学教授、国立西洋美術館館長などを経て、現職。著書に、『名画を見る眼』『続名画を見る眼』(以上岩波新書)、『ルネサンスの光と闇』(中公文庫)、『世紀末芸術』(ちくま学術文庫)、『誰も知らない「名画の見方」』『「美人画」の系譜―心で感じる「日本絵画」の見方』(以上小学館)他多数。