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2022.5.24
ドヤ街の希望と理想だった男が教えてくれたこと。『マイホーム山谷』
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キーワード: ノンフィクション 山谷 介護 福祉 きぼうのいえ ルポルタージュ
星野博美氏、白石和彌氏、辻村深月氏絶賛!
第28回小学館ノンフィクション大賞受賞作!!
大阪の釜ヶ崎や神奈川の寿町に並ぶ三大寄せ場のひとつ、東京都の山谷地区。
江戸時代からあった「山谷」という地名は現存せず、ドヤ(簡易宿所)が建ち並ぶ台東区北部の地域をそう呼んでいる。
最盛期には222軒のドヤがあり、約1万5000人の労働者が住んでいた。
2002年、この地で民間ホスピス「きぼうのいえ」は誕生した。
創設者は山本雅基さんとその妻・美恵さん。
路上生活のまま年老いた人や認知症、アルコール依存など心身に深刻な疾患を持っている人、そのほか何らかの理由で生活に困窮している人などを積極的に受け入れ、最期を迎えるまでの時を、その人らしく過ごすための場所である。
中には保証人がいないなそうどの理由で一般の病院から受け入れてもらえなかった人も少なくない。
山田洋次監督の映画『おとうと』(2010)では、「きぼうのいえ」をモデルにしたホスピスが登場し、山本さんを小日向文世が、美恵さんを石田ゆり子が演じた。
同年12 月にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』で特集されるなど、多くのメディアで取り上げられた。
金銭的な損得を度外視し入居者に寄り添うふたりのことを、山谷のオスカー・シンドラー、山谷のマザー・テレサと呼ぶ人もいた。
ところが今、「きぼうのいえ」に山本夫妻の姿はない。
妻の美恵さんは『プロフェショナル仕事の流儀』がオンエアされた翌日に「これ以上魂に嘘はつけません」との書き置きを残し失踪した。
山本さんは「きぼうのいえ」の理事長を解任され、現在は生活保護を受給しながら山谷でひとり暮らす。
著者は2018年の半ばから、山本さんと定期的に連絡を取るようになった。
山本さんの人生に絡みつく謎を追う中で見えてきたのは、理想と思えた山谷のケアシステムが、実は非常に危ういバランスの上で成り立っているという事実だった。
山本氏はなぜ、介護を担う立場から受ける立場になったのか。
美恵さんはなぜ、山谷から出て行ってしまったのか。
山谷で「理想のケア」を追い求めた男の栄光と挫折を描く。
100作品を超える応募の中から選ばれた、第28回小学館ノンフィクション大賞受賞作。
選考委員絶賛!
■ 星野博美氏(ノンフィクション作家)――「助ける側と助けられる側の境界線が曖昧な、山谷の特異な寛容性を見事に描ききった」
■ 白石和彌氏(映画監督)――「人間を見つめるとは、どういうことか改めて勉強になりました」
■ 辻村深月氏(小説家)――「ユーモアを交えつつも、何かや誰かを否定するスタンスを決して取らないのが素晴らしい」
大賞受賞時の著者コメントはこちら↓↓↓
「物語のキーとなる人物に実際に会えたのは、2021年8月の初めだった。東京近郊、とある駅の駐輪場に2週間以上張り込み、もうほとんど諦めていたその時、美恵さんは現れた。蒸し暑い夏の日の夕暮れだった。声をかけ、話を聞きたい旨を伝えた。了承を得た瞬間、全身の力が抜けた。山谷の町に『きぼうのいえ』を作り上げたのは山本雅基さん・美恵さん夫妻だ。2人のどちらが欠けても事は成就しなかった筈だ。だからこそ、山本さんだけでなく、美恵さんの口からも生の言葉を聞いておく必要があった。しかし彼女の消息は杳として知れない。いくつかの偶然が重なり、ようやく出会えたのは締切まで約1か月というタイミングだった。それまで書き進めていた原稿を大幅に削り、そして大幅に加えた。推敲というより書き直しだった。途中『全部ほっぽらかして逃げ出したい』と何度本気で思ったことか──。2014年に両親が相次いで要介護状態になったことをきっかけに、私は介護や福祉に興味を持ち、今ではその分野を中心にライターの仕事を続けている。きぼうのいえの存在を知ったのもこうした背景があったからだ。山谷に初めて足を踏み入れてからちょうど10年、数えきれないほどの出会いと嘘みたいな偶然が重なってくれたおかげで、作品を仕上げることができた。今回の受賞は山谷という町の介護や福祉の分野で活動する人たちを讃えたものものだと考えている」
著/末並俊司
【著者プロフィール】
末並俊司(すえなみ・しゅんじ)
介護ジャーナリスト。
1968年、福岡県生まれ。日本大学芸術学部卒業後、1997年からTV番組制作会社に所属し、報道番組制作に携わる。2006年からライターとして活動。両親の介護を機に、2017年2月には介護職員初任者研修(旧ヘルパー2級)を取得。現在は介護・福祉を中心に取材・執筆している。
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