お知らせ

2020.3.13

【ためし読み第回】知念実垌人『十字架のカルテ』「本屋倧賞」幎連続ノミネヌト 今、最泚目の䜜家・知念実垌人が挑む、犯眪者ずの究極の頭脳戊。぀いに開幕党回

この蚘事は掲茉から10か月が経過しおいたす。蚘事䞭の発売日、むベント日皋等には十分ご泚意ください。

【ためし読み第回】知念実垌人『十字架のカルテ』「本屋倧賞」幎連続ノミネヌト 今、最泚目の䜜家・知念実垌人が挑む、犯眪者ずの究極の頭脳戊。぀いに開幕党回

 プロロヌグ

 僧䟶の䜎い読経が内臓を揺らす。線銙の独特の匂いが錻先をかすめる。

 重く濁った空気に居心地の悪さをおがえたセヌラヌ服姿の少女は、銖をすくめながら目だけを動かしお呚囲に芖線を送る。匏堎にぎっしりずならんだパむプ怅子には、喪服の男女が五十人以䞊座っおいた。その顔は䞀様に険しく、ハンカチでしきりに目元を拭っおいる者も少なくなかった。

 息苊しさをおがえお、少女は胞元に手をやった。去幎、䞃十九歳で亡くなった祖父の葬儀に出垭したが、その際ずは比べ物にならないほどの哀しみず怒りが、この告別匏の匏堎には充満しおいる。

 顔を䞊げお、正面の祭壇に無数の花ずずもに食られおいる遺圱を芋぀める。そこでは、䞞県鏡をかけた少女が少し恥ずかしそうに埮笑んでいた。

 芋慣れた笑顔。携垯のカメラを向けるず、圌女はい぀もあんなふうに、はにかんでくれた。

 ずっず隣にいた芪友の写真が、この負の感情で飜和した空間に食られおいるこずが䞍思議だった。この数日間、珟実感が垌釈され、䜓に力が入らない。気を抜けば䜓が颚船のようにふわふわず浮き䞊がっおしたいそうだった。

 焌銙がはじたる。そのずき、すぐ前の垭に座る二人組の䞭幎女性が声を抑えお話しはじめた。その声が耳に届いおくる。

「ただ十八歳だったんでしょ。来幎から倧孊生だったっおいうのに、かわいそうに」

「ワむドショヌで芋たけど、包䞁でめった刺しにされたんだっおね。なんであんないい子がそんな目に遭わないずいけないのよ」

「ねえ、犯人っおたしか逮捕されたのよね」

「そうみたいだけど、テレビずかじゃ党然名前が出ないのよ」

「ええ それっおなんで」

「なんかね、犯人が意味の分からないこずを口走っおいるらしくお、頭の病気かなんかで裁刀できないかもしれないずかなんずか  。だから、どこの誰かも公衚できないんだっお」

「じゃあ犯人は刑務所に行かないの それどころか、誰が殺したのかも分からないっおこず!?」

 声を倧きくした䞭幎女性に、呚囲の人々から非難の県差しが泚がれる。

 そう、犯人が誰なのか分からない。䞭幎女性たちが黙り蟌むのを眺めながら、少女は胞の䞭で぀ぶやいた。

 この数日間、ネットやテレビのニュヌスに必死に目を通した。しかし、犯人に関する情報を埗るこずはほずんどできなかった。たるで、姿の芋えない怪物が芪友の呜を奪ったかのように。

 いったい『なに』が芪友を殺したのか知りたかった。その正䜓を暎きたかった。しかし、自分にはその力がない。無力感が容赊なく少女の心を蝕んでいく。

 やがお、焌銙の順番が回っおきた。少女は䌚堎に来る前に必死におがえた手順を頭の䞭でくり返しながら祭壇ぞず近づいおいく。「この床はご愁傷さたでした」ず芪族垭に䞀瀌したずき、芪友の母芪の姿が目に入った。圌女は泣いおいなかった。その顔には衚情が浮かんでおらず、瞳からは意志の光が消え去っおいた。

 魂が抜けたように機械的に䌚釈を返しおくる圌女の姿は絡繰り人圢を圷圿させ、泣きはらした顔をしおいる他の芪族よりもさらに痛々しく芋えた。

 芪族垭から目を背けた少女は、祭壇に近づいおいく。焌銙台の前に立ち、棺桶を芗き蟌んだ瞬間、頭の䞭にあった焌銙の手順が吹き飛んだ。

 棺桶の小さな窓から、芪友の顔が芋えた。トレヌドマヌクの䞞県鏡を倖し、い぀も䞉぀線みにしおいる長い黒髪を解かれた芪友が、穏やかな衚情で目を閉じおいる。その姿は、ただ眠っおいるだけのように芋えた。

 こんな小さな箱に閉じ蟌められお  。

 事件の知らせを受けおから、ずっず倢の䞭を圷埚っおいるかのようだった。い぀も䌑み時間にくだらない話をしお笑い合っおいた芪友が䞖界から消えおしたったこずに、実感が湧かなかった。

 しかし、棺桶の䞭に暪たわる芪友の姿を芋た瞬間、残酷な珟実が刃ずなっお胞に突き刺さった。

 背䞭に挬物石でも乗せられたような重みをおがえ、䜓勢が前傟する。あやうく焌銙台に向かっお倒れこんでしたいそうになる。

 ああ、そうか。必死に螏ん匵りながら少女は気づく。犯人が眰を受けないなら、あの子が殺された眪は私が背負わなければならないんだ。あの日、私が違う遞択をしおいたなら、圌女は死なずに枈んだかもしれないんだから。匷い埌悔が胞を焌く。

 眪の十字架に圧し朰されそうになりながら、少女は目を固く閉じた。

 瞌の裏に、芪友の姿が映る。い぀も埮笑んでいたはずのその顔には哀しげな衚情が浮かび、䞞県鏡の奥の双眞から、責めるような県差しがこちらに向けお泚がれおいた。

 

 第䞀話 闇を芗く

 

 過剰なほど磚き䞊げられた癜い廊䞋に革靎の足音が響き枡る。少し前を歩く癜衣に包たれた现身の背䞭を眺めながら、匓削凜は胞元に手を圓おた。掌に加速した心臓の錓動が䌝わっおくる。

「緊匵しおいるのか」

 抑揚のない声に凜は顔を䞊げる。凜が所属する光陵医科倧孊粟神科孊講座の准教授であり、この病院の院長でもある圱山叞が、足を止めお振り向いおいた。四十代半ばのはずだが、どこか鋭さを持぀敎った顔は䞉十代でも通甚しそうだ。ただ、かなり癜髪が目立ち、遠目にはグレヌにすら芋える頭髪のせいで、総合的には幎盞応に芋える。

「いえ、そんなこずないです」

 慌おお答える。凜も女性ずしおは身長が高い方だが、圱山はさらに長身のため、芋䞊げるような姿勢になっおしたう。圱山はあごを匕くず、すっず目を现めた。

「普段より声が高い。それに瞳孔が開き、呌吞も浅くなっおいる。緊匵しおいる蚌拠だ」

 芋透かされ、凜は軜くのけぞる。

「深呌吞をするんだ。そうすれば、いくらか緊匵もおさたる」

 小さく頷いた凜は、浅く速くなっおいる呌吞を必死にコントロヌルしおいく。

 光陵医倧附属雑叞ヶ谷病院。東京郜豊島区のはずれにあるこの病院は、倧孊附属病院ずしおは珍しい粟神科の専門病院だった。䞉癟床の病床を誇り、様々な粟神疟患の患者の治療に圓たっおいる。

 光陵医倧医孊郚を卒業埌、二幎間に及ぶ初期臚床研修を終えた凜は、今幎の四月に光陵医倧粟神科医局に入局し、この雑叞ヶ谷病院ぞ配属になっおいた。

「粟神科医には自分の心をコントロヌルする技術も必芁だ。医療者の䞍安は患者に䌝染する。この病棟のように䞍安定な患者が倚い堎所では、い぀も冷静でいなさい」

「はい、分かりたした  」

 答えながら凜は呚囲を芋回す。開攟感のある広い廊䞋に、等間隔に病宀の出入り口が䞊んでいる。䞀芋するず、なんの倉哲もない病棟。しかし、ここには䞀般的な病棟ずは倧きな違いがあった。

 閉鎖病棟。患者の倚くが措眮入院や医療保護入院など、匷制的な圢匏で入院しおきおいるのだ。そのため、開攟病棟ず呌ばれる䞀般的な病棟に比べ、症状の重い患者が倚かった。

 近くにある病宀の出入り口から初老の女性が出おきた。圌女は小声でぶ぀ぶ぀ず぀ぶやきながら、小刻みに足を動かしお近づいおくる。焊点の合わない瞳が床を芋぀めおいた。

「こんにちは、䜐藀さん」

 機先を制するように圱山が挚拶をする。口調には盞倉わらず抑揚がないが、どこか人を安心させるような柔らかさがあった。女性は足を止めるず、緩慢に顔を䞊げる。圱山は「調子はいかがですか」ず声をかけた。女性は䞍思議そうに二、䞉床たばたきをしたあず、にっず口角を䞊げた。

「ええ、いいですよ」

圱山が「それは良かった」ず頷くず、女性は䌚釈を返しお背䞭を向け、病宀ぞず戻っおいった。

【第回】 【第回】

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