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2019.5.15
天安門事件から30年、劉暁波の想いが現代に蘇る。『11通の手紙』
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劉暁波夫妻の親友で劉暁波研究の第一人者が紡ぐ、渾身の創作書簡集
1989年6月4日、天安門。
民主化を求める群衆を威嚇するかのような戦車の隊列。
巨大な戦車を前に、「轢き殺すなら轢き殺せ」と言わんばかりに一歩も引き下がろうとしなかった1人の若者。
その衝撃の映像を記憶している方も多いと思います。
本書は天安門事件で民主化運動のリーダーとして活躍し、獄中においてノーベル平和賞を受賞した劉暁波(りゅうぎょうは 1955-2017)をモチーフにした創作書簡集です。
劉暁波夫妻の親友で劉暁波研究の第一人者・及川淳子氏(中央大学准教授・中国現代社会論)が、劉暁波の遺した発言や行動、実際の出来事を下敷きにして、劉暁波の想い、そして声なき声を現代に蘇らせ、平和の大切さを問いかけます。
「1989年の天安門事件から、30年。私は不思議な縁に導かれるように、劉暁波と劉霞(劉暁波の妻)に出会いました。彼を通して知り得たこと、感じたこと、考えたこと・・・・・・、正直に言えば、楽しいことよりも辛いことの方が多いのですが、それでも、彼らから本当の〝自由〟を教えられました。そして、どんなに切なくても、残された者は生きていかなければならない、ということ。それから、〝もの書き〟は、泣きながら書いて、書き続けていかなければならないということも。『11通の手紙』は、創作書簡集というスタイルで綴ったものです。劉暁波からの手紙として思い描いたのは、偶然ですが、また必然でもありました」
本書は11通の書簡から構成され、それぞれに、言論の自由や、表現の自由、良心の自由といったテーマが盛り込まれています。
‹‹あの日、あなたが、必死に引き留めたことを、僕は知っています。
「お願いだから、外に出ないで、母さんの言うことを聞いて」
あなたは、顔をしかめながら、やっと部屋に閉じ込めたのに、
彼は、するりと抜け出して、やはり、行ってしまったのでした。
「将来は、ジャーナリストになるんだ」
彼が目を輝かせながら、そう言っていたことを、
僕はよく覚えています。
小さなバイクは、誕生日のプレゼントでしたね。
「これで、どこへでも行けるんだよ。何でも見てやるのさ」
彼は、いたずらっ子のように笑っていました。
「毎日、すごいことが起きている。
だから、自分の目で見ておきたいんだ」
「あの日」、部屋を抜け出した彼は、バイクを走らせて広場を目指し、
そして、とうとう、帰らなかった。››
(本書「ある母への手紙より」)
巻末には及川淳子氏の「当事者」しか知りえないリアルなあとがきとともに、社会学者で民主化論の泰斗・笠原清志氏(跡見学園女子大学学長・立教大学名誉教授)による解説を収録。
「戦車の前にひとり立ち塞がった青年は、その後公安警察に逮捕され裁判もなく処刑されたと言われている。また、現在も天津のある刑務所で、名前も罪名も明らかにされないまま30年間も拘留されているとも聞く。天安門事件を象徴するこの出来事も、他の事件と同様に闇から闇へと葬られている。天安門事件から30年、社会の関心が政治から経済へ移行し、人々の意識も過去から未来志向へとシフトしていった。しかし、戦車の目に立ち塞がった青年の写真。そしてノーベル平和賞受賞式での空の椅子の写真は、いつも私たちが問い続けなければならないことは何であるのかを迫っている。
戦車の前にひとり立ち塞がった青年、そして獄中で生命の尽きるまで戦い抜いた劉暁波。世界を変えてきたのは、いつの時代も、人、ひとりひとりの強い意志と想い、そしてそれを忘れなかった一般の人たちである」
劉暁波の静かなる魂の叫びに心が震える一冊。
著/及川淳子 解説/笠原清志
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