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2019.3.6
やけどしそうなほどの熱量で迫る、感涙必至の青春クロニクル『漫画ひりひり』
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野球部を引退した歩は、新たな夢=漫画に出会い、まっすぐ突き進んでいく
‹‹地区予選で敗退し、野球部を引退しても夏は終わらなかった。なぜか僕は、引退と同時に季節が変わるような気がしていたが、庭では蝉がひっきりなしに鳴いている。
いざ野球をやめると時間をもてあましてしまう。これが東京だったら、ホコ天などであそべるのだろう。ずっと天ぷらの種類かと思っていたくらい、大分には縁がない文化だ。田舎だからもともと車の通りも少ないし、こどもはそのへんの道路であそんでいる。
僕は居間でひたすらテレビを観ていた。みんな、なにをして時間をつぶすのだろう。絨毯の上で寝転んでいると、母がかける掃除機の吸引音が耳をつんざいた。
「もう、ゴロゴロしてばっかでうっとうしい。街の図書館にでも行きよ。千夏はときどき、あそこで課題しちょるで」
「えー、ガリ勉みてえや」
勉強する人を笑っちょると、足もとすくわれるけんね。歩、進路どうするんよ」
「まあ、てきとーに」
「歩の人生やけん勝手やけど。目に覇気がない男はいややね」
うるさい。母も掃除機も蝉も。
僕は追い立てられるようにして市営図書館へでかけた。将来どうするかなんて考えてない。毎日毎日、野球ばかりして。野球をはじめる前、自分がどうやって生活を送っていたのかも忘れてしまった。
図書館に一歩踏み入れると、ひんやりした空気にふっといらだちがやわらいだ。
しずかだ。利用者はみんな他人を気にしていないし、冷房が効いていて快適だ。なかばヤケで図書館にきたが、あんがい穴場かもしれない。
ふだん本など読まないけど、これを機に読書をはじめてみようか。そう高くない本棚に本がみっちり詰まっていて、どれもむずかしそうだ。坪内逍遥の小説をめくったが、旧仮名遣いでなにを書いているのかまったく理解できず断念した。まず作家名の読み方がわからない。
うろうろしていると、十代くらいの若者が集まっているコーナーにさしかかった。見ると、棚の分類札には<漫画>と記されている。
僕はいっそう感動した。むずかしい漢字ばかりの本は読めないけど、漫画はさすがに読める。知らない漫画家の単行本ばかりだが、そもそもあまりくわしくないのだ。野球部の連中だったらぜったい、鳥山明がないとか文句を言うだろう。
物色していると、ある作家名に目が吸い寄せられた。手塚治虫。国民的漫画「鉄腕アトム」の作者だから、さすがに知っている。
でもなあ。アトムってなんか、説教くさそうなんだよな。となりの「バンパイヤ」ってやつを読んでみるか。
表紙をひらく。そこからは、雪崩のようだった。››
平成元年、主人公・歩は、夢への一歩を踏み出すべく大分にある鳥羽デザイン専門学校漫画コースに入学。
いざ教室に入ってみると、腕に筋肉があるのは歩だけ。
半年前、漫画に目覚めたばかりの歩には、画材の使い方もわからなかった。
同じくクラスで仲良くなったふたり――軽薄で口の悪い黒田、いつも冷静で親切な宇治山――の画力も、歩より数段上だった。
それでも、歩は漫画家になる夢に向かってまっすぐ歩んでいく。
世の中の片隅で生きる小さき者たちの大きな野望を描いた感涙必至の青春小説。
じつは著者の風カオルも漫画家を目指していたことがある。
本書を読んだ書店員さん、編集者から熱いコメントが続々!
「本当に良かった。読んでいて楽しくて涙が出ましたとよ」――有隣堂伊勢佐木町店・佐伯さん
「歩くんの姿に読んだ人達は涙するに違いない!!」――書泉ブックタワー・江連さん
「面白い! 漫画雑誌の編集長みんなに読ませたい」――ベツコミ編集長・H
「サンデー編集長時代を思い出して複雑な気持ちになった」――元少年サンデー編集長・O
「漫ひり、感動しました! セリフのリアリティーと気持ちがこもっていて、後半は泣きました」――小学館クロスメディア事業センター編集長・B
著/風 カオル
【著者プロフィール】
風カオル(かぜ・かおる)
1981年大分生まれ。短大卒業後、県の臨時職員、古書店、100円ショップアルバイトなど様々な経験をしながら小説を執筆。2014年に「ハガキ職人タカギ!」で第15回小学館文庫小説賞を受賞しデビュー。2016年「ラーメンにシャンデリア」を刊行。
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