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2019.2.19

中年検察官、難事件と若い女に悶える。『もつれ』

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中年検察官、難事件と若い女に悶える。『もつれ』

話題騒然のポーランド発の傑作ミステリー「シャツキ三部作」の第一作がいよいよ日本上陸!

‹‹シャツキはため息をつき、ミルクのように白い髪を指で梳(す)きながらキッチンにはいった。「いったいおれはどうしちまったんだ?」汚れた皿の下から食器洗い用のスポンジを取り出し、そう胸につぶやいた。まずはコーヒーをいれ、次に洗いものを終え、それから朝食を用意する。腹立たしくはあっても、ほんの三十分で家族みんなが幸せになれる。指のあいだからこぼれ落ちていく時間を思うと、彼はよけいに疲れを覚えた。渋滞に巻き込まれて立ち往生している時間、法廷で無駄に費やされるおびただしい時間、何かを待ち、誰かを待ち、待つために待っている、ひとり遊びのトランプくらいしかやることのない仕事の合間の無意味な時間。何もしないことの言いわけにはなっても、待つことほどこの世で疲れる仕事もない。炭鉱労働者でもおれよりずっと休めているだろう。そう思って、シャツキは自分を憐(あわ)れみながら、水切りラックにグラスをのせようとした。が、置く場所がなかった。どうしてさきに乾いた食器を取り出さなかったのか。まったく。人生というのはここまでうんざりするものだということに、みんな気づいているのだろうか。

電話が鳴り、ヘレナが出た。シャツキは布巾で手を拭き、娘の話し声を聞きながら居間にはいった。

「パパはいるけど、出られないの。お皿を洗って、スクランブルエッグをつくるところだから・・・・・・」

シャツキは娘の手から受話器を取り上げた。

「シャツキだ」

「おはようございます。検事殿。申しわけないけど、今日のところは誰にもスクランブルエッグをつくってやれそうもないね。たぶん夕食にも」聞き慣れた声だった。抑揚のない東部の訛(なま)り。ヴィルチャ通りにある市警本部のオレグ・クズネツォフ。

「オレグ、やめてくれ。頼むから」

「今のはおれの予言じゃないよ、検事。上からのお達しだ」

 

ワルシャワ市内の教会で、右眼に焼き串を突かれ脳まで達した男の遺体が見つかった。

被害者は、娘を自殺で亡くした印刷会社経営者ヘンリク・テラク。

容疑者は、彼と共にグループセラピーに参加していた男女3人と、主催者のセラピスト、ツェザリ・ルツキ。

中年検察官テオドル・シャツキは早速捜査を進める。

 

一方で、愛する妻ヴェロニカと娘ヘレナに恵まれながらもどこか閉塞感を抱いていたシャツキは、事件の取材に訪れた若い女性記者モニカ・グジェルカに惹かれ、罪悪感と欲望との狭間で悶々とする。

やがて、被害者の遺品から過去のある事件に気づくシャツキ。

真実に手が届こうとしたそのとき、衝撃の事態が・・・・・・。

 

日本中のミステリーファンを唸らせたポーランドの怪作「怒り」

本作はその「シャツキ三部作」の第一作!

ハードボイルドなのにポップ。

凄惨なのに笑える。

一度読んだら人間臭い中年クライシス男のボヤキがやみつきに!?

ポーランドの優れた犯罪小説に贈られる文学賞「Nagroda Wielkiego Kalibru」最優秀賞を受賞した、予想の斜め上を行く傑作ミステリー!

 

解説は文芸評論家の杉江松恋さん。

ミウォシェフスキ作品を手にした読者は、安全な高所から事件現場を見下ろすのではなく、登場人物と同じ低い位置から捜査の進行を見守るように促される。中途に別の視点が挿入されることもあるが、ほぼ主人公である検察官テオドル・シャツキに同化し、彼が感情を一喜一憂させるのに付き合いながら、与えられる情報を吟味していくことになるのだ。

 

小学館文庫

『もつれ』

著/ジグムント・ミウォシェフスキ 訳/田口俊樹

 

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