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2022.6.23

沈黙を強いる「スティグマ(負の烙印)」の正体。『わたしからはじまる ──悲しみを物語るということ──』

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キーワード: 社会 社会問題 世田谷事件 被害者遺族 スティグマ グリーフケア 利他

沈黙を強いる「スティグマ(負の烙印)」の正体。『わたしからはじまる ──悲しみを物語るということ──』

「私は世田谷事件という殺人事件の遺族なんです」と誰にも言えなかった。

2000年の大晦日に発覚した「世田谷事件」。

いまだ解決を見ていないこの事件で、著者の入江杏さんは2歳年下の妹・宮澤泰子さん、その夫・みきおさん、長女のにいなちゃん、長男の礼くんの妹一家4人を喪いました。

現在、上智大学グリーフケア研究所非常勤講師として、悲しみにある人々に寄り添う活動を続けている著者ですが、事件から6年もの間、妹家族を失った悲しみを誰にも言えませんでした。

 

«   事件のことは誰にも語ってはいけない

   誰にも知られてはいけない

   いったん知られると、そこに待ち受けているのは、偏見と差別

   すべてを閉ざして生きていかなければならない

わたしに沈黙を強いたのは、母そのひとでした。

何が、母の悲しみを凍らせたのでしょうか。

それは「恥」の意識でした。

ユングによれば、恥は「soul eater」。魂を内側から蝕む有害なもの。

恥に苛まれると、助けになるはずのつながりを自ら拒み、ともすれば、未来を奪う毒となります。はじらいや奥ゆかしさなど、道徳や美意識にも関わる恥ですが、恥は、それを感じること自体が、さらなる恥や痛みにつながるもの。私たちは、それらを自分の中にしまい込みます。

わたしは、心の奥底に隠した恥に向き合い、沈黙を強いたものの正体を知りたいと思いました。

辿りついたのは、「スティグマ(負の烙印)」という概念でした。»

(本書「はじめに」より)

 

2006年の末、著者は、妹一家4人の命を悼む集いとして、「ミシュカの森」をスタートしました。

そこで6年間の沈黙を強いたものから解き放たれ、自らの体験を語ります。

 

«事件に限らず、特に人生のトラブルに関わる悲しみや怒り、負の物語は、はじめからそこにあって、語り手が話し始めるのをただ待っている、というものではありません。トラブルを抱える生について物語ることは、苦しさを伴いますが、まさに発見の営みともいえるでしょう。自分だけでなく、自分に関わるさまざまな人たち、グループや組織、制度との複雑な対話的応答を繰り返す必要に迫られるからです。»

(本文より)

 

「ミシュカの森」はその後も毎年12月に集いの場を設け、さまざまな苦しみや悲しみに向き合う場として継続・発展してきました。

犯罪や事件と直接関係のない人たちにも、「意味のあるものにしたい、そしてその思いが、共感と共生に満ちた社会につながっていけばと願った」からです。

 

著者はいかにして過去のトラウマと向き合い、どうやって「わたしの物語」を語り出せるようになったのか。

沈黙を強いるスティグマ(負の烙印)の呪縛を解く方法とは?

誰にも言えない悩みがある、人生の壁にぶつかっている、生きる意味を見いだせない・・・今抱えている悲しみや痛みから立ち直る術を教えてくれる、再生の書。

 

「読みながらいっしょに沈んでいく。

壊れそうになる。

最後に、極微の勁(つよ)い光に射ぬかれる。

――鷲田清一さん(哲学者)

 

繊細な、こわれものとしての「悲しみ」を、粗略に扱わない社会のために、静かに読まれるべき一冊。

――平野啓一郎さん(小説家)

 

〈目次〉

はじめに

1章 沈黙とスティグマ(負の烙印)

2章 怒りと語り

3章 個の物語の力

4章 メディアと悲惨の消費

5章 ケアの物語

  おわりに

  「ミシュカの森」講演一覧

  本書で紹介した本

 

『わたしからはじまる

悲しみを物語るということ』

著/入江 杏 

 

【著者プロフィール】

入江杏(いりえ・あん)

上智大学グリーフケア研究所非常勤講師。「ミシュカの森」主宰。世田谷区グリーフサポート検討委員。世田谷事件の遺族のひとり。著書に『悲しみを 生きる力に』(岩波ジュニア新書)、編著に『悲しみとともにどう生きるか』(集英社新書)など。

 

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