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2019.7.18

悩みや葛藤を抱えながらも前に進む人々の〝生き様〟をポップなビートに乗せて描く、『お願いおむらいす』

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悩みや葛藤を抱えながらも前に進む人々の〝生き様〟をポップなビートに乗せて描く、『お願いおむらいす』

心がほわっと温まる連作短編全5編!

家族、健康、将来、結婚、仕事、介護・・・etc.

みんな悩みはつきないけれど、美味しいものを食べて元気だそう!

〈ぐるめフェスタ〉に集う人々の人生模様を生き生きと描く。

 

「お願いおむらいす」

音楽への夢を捨てきれないまま、追い詰められて就職した太一。

音楽雑誌の出版社に就職したはずが、全然違う仕事に就くハメに。

 

‹‹「あ、あの。自分はロックフェス事業部に配属されたのでは」

Tシャツを差し出す夏海に向かって必死に問う。夏海は冷めた眼でこたえる。

「違うよ。浜口くんの配属先はここ〈グルフェス〉事業部。その清掃管理部」

「で、でもこの会社は」

「当社は」

すかさず夏海が正す。

「と、当社はロックの雑誌出版やイベント制作の会社では」

「ちょっと前まではね。でも今は多角化してグルメイベントも手掛けてるの」

なんとうことだ! いつのまにロックン・ラッシュがキッチン・ラッシュに!?››

 

太一に正社員のプレッシャーが押し寄せる。

 

 

「キャロライナ・リーパー」

‹‹「なんだ〈ぐるフェス〉って」

父が眉を顰める。スマホで検索した結果をあたしは読み上げた。

「『年に二回、春と秋に開かれる食の祭典。海の幸からスイーツまで個性豊かな屋台があなたをお待ちしています』だって」

「面白そう。ここで食べようよ」

姉がはしゃいだ声を出す。父が渋い顔になる。

「屋台ってあれか、焼きそばとかたこやきとかの」

「そういうのとは違うみたい。・・・・・・へえ、ご当地グルメや世界各国の料理が食べられるワールドグルメなんてのもあるよ」

あたしがこたえると、姉はますます乗り気になったようだ。

「いろいろ食べられるんだね。いいじゃない」

ビニールのアーチに向かって歩き出した。

「待てまて香子。せっかくなんだからもっとちゃんとしたところで食べないか」

「せっかくなんだからこういうお祭りも楽しいと思うけど」

父が、きっ、あたし睨んだ。››

 

小さい頃から大好きな姉と、そりの合わない父。

久しぶりに会っても、その関係性は変わらず、歩子の心は沈んでいた・・・・・・。

対照的に歩んだ姉妹の生き方、悩みをホロ苦く優しく描く。

 

 

「老若麺」

〈ぐるめフェスタ〉という食の祭典で、ラーメンの名店「中華そば紅葉」の〈ぐるフェス店〉を担当することなった崇。

だが、崇とともに店をまかされた最古参の天翔が、本店の味を再現できない・・・・・・。

 

‹‹「ここ美味しいんだよね」

「知ってる。いちど本店で食べたことあるよ」

出来上がりを待つふたりの会話が耳に飛び込んで来、おれはにわかに不安にかられる。

「お待ちどおさまです」

つとめて笑顔で、おれはどんぶりをふたりに渡した。受け取ったふたりは、きゃあきゃあ笑いながら手近なテーブルについた。スマホで写真を撮り、律儀に両手を合わせてから、ずるるるっ、小気味nよい音を立てて麺を啜りあげる。そのようすを、おれは息を殺して見守った。

笑顔だったふたりの顔が急速にくもる。首を傾げながらそれでも食べつづけていたが、麺を持ち上げるスピードはどんどん落ちてゆき――結局半分ほど食べたあたりで席を立ち、そそくさと人混みに消えた。››

 

そんなとき事件が起こり、師匠のある秘密が解き明かされることに。

 

 

「ミュータントおじや」

自他共に認める崖っぷちアイドルの美優は、〈ぐるフェス〉の公式アイドルに選ばれ、ほぼ毎日ステージに立っている。

 

‹‹「あの、あの・・・・・・すごい可愛かったです」

かけてきたことばまで一緒で、美優の顔はしぜんにほころぶ。

「わぁ! わざわざ来てくれたんだーありがとたん!」

「え、お、覚えているんですか、あたしのこと」

もっちのろんたん。美優、大好きなみんなのこと、ぜえぇえったい忘れないたーん!」

女の子が震え出した。目が見開かれ、ついで鼻の穴、そして口まで全開となった。零れる、こぼれるがな! 美優はあわてて女の子の手を取り「よかったらお名前、教えてたん?」と聞く。

「・・・・・・瑠輝亜です」››

 

ある事情から、自分の大ファンであるその子の面倒をみることになった美優。

崖っぷちアイドルで日々悩み葛藤ばかりだった彼女が見出したかすかな希望の光とは。

 

 

「フチモチの唄」

50代後半にしてまさかのリストラになってしまった浩は〈ぐるフェス〉でアルバイトをしていた。

 

‹‹家には専業主婦である妻、康子と、大学受験を控えたひとり娘の若菜、そして三年前に引き取った高齢の母親キクがいる。いくらまとまった額の退職金をもらったとはいえ、浩が働かねば近い将来、家計が立ち行かなくなるのは目に見えている。

少しでも条件のいいうちにと、すぐに浩は再就職先を探し始めた。けれども経理ひとすじだった経験がかえって仇となり、さらには浩の不得手なIT化の進んだ今の時代にあっては就職活動もままならず、いくら応募しても不採用通知が届くだけの毎日だった。

さらに追い打ちをかけるように家庭内でさまざまな問題が持ち上がり始めた。それらに対処するため、いったん浩は再就職を諦め――この〈ぐるフェス〉を始め、いくつかのアルバイトを転々としながら当面の生活費を稼ぐことになったのだった。››

 

大切な家族を守り切れない自分に苛立つ浩。

そうした折、最愛の母の命が長くないことを知り、彼が下した決断とは・・・・・・。

 

「お父さんと伊藤さん」が映画化、「PTAグランパ!」がドラマ化されるなど、常に世間から大注目の著者による、心がほわっと温まる連作短編全5編!

思わずクスッと笑ってしまうクセのある登場人物たちが繰り広げる、自分の〝居場所探し〟。

人生は劇的には変わらないが、わずかな軌道の変化が、やがて思いもよらぬ場所へ連れて行ってくれる。

心に美味しい人生応援小説。

 

『お願いおむらいす』

著/中澤日菜子

 

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