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2018.11.25

スキャンダルにまみれた天才詩人、北原白秋を支えた女たち。『ここ過ぎて 白秋と三人の妻』

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スキャンダルにまみれた天才詩人、北原白秋を支えた女たち。『ここ過ぎて 白秋と三人の妻』

北原白秋の真実

映画『この道』の原点

国民的詩人・北原白秋が没して四年後の一九四六年暮れ、大分県香々地の土藏で一人の女性がひっそりと息を引き取った。

歌人であり詩人であったその才女の名は江口章子(あやこ)。

白秋の二番目の妻でもあった。

 

‹‹江口章子といっても大方の人は彼女について、ほとんど無知に等しい筈である。章子が詩集一巻、詩文集一冊を持つ女流詩人だというより、詩人北原白秋の妻の一人といった方が通りは早い。

白秋は生涯に三人の妻を持ち、二人と離婚している。俊子、章子、菊子。俊子は隣家の人妻で、白秋は俊子との恋のため、姦通罪に問われ入獄の憂目を見た。白秋の人生の最初の蹉跌であり、生涯の大事件であった。出獄後、白秋は俊子と正式に結婚するが、一年余りで離婚している。めぐりあってからの歳月を数えても、足かけ四年でしかない縁であった。章子は、俊子の去った後の白秋と結婚し、五年の歳月を共有している。俊子と同じく白秋から離縁された。

菊子は章子の去った白秋の許に嫁ぎ、二十二年の歳月を共に暮らし、二児を儲け、内助の実を挙げ、白秋の最後を看とっている。昭和五十八年一月二日、満九十三歳九ヵ月の天寿を全うし逝去された。菊子だけが見合結婚であり、良妻賢母としての名声が高い。そして国民詩人大白秋が受けた世俗的な輝かしい名声のすべてと、幸福な家庭の炉辺の暖かさを共有した。夫人の貞潔と奉仕の報いとしては当然の結果であった。

白秋をして離縁せずにはいられないほどの苦悩を与えたふたりの妻は、どれほどの悪妻であったのだろうか。この世のあらゆる出逢いは卒爾(突然)ではない。まして男と女が、愛しあうという形で結ばれるということは、たとい短い歳月にしろ、それなりの縁の約束があってのことだろう。›› (本文より)

 

詩集「邪宗門」をはじめ、数多くの詩歌を残し、膨大な数の童謡や校歌などの作詞も手掛ける一方で、姦通罪による逮捕など様々なスキャンダルにまみれた稀代の天才の陰には、俊子、章子、菊子という三人の妻の存在があった。

 

フィクションを超える破天荒な登場人物たちの波乱万丈の日々――――。

2019年1月11日公開の映画『この道』の原点になった北原白秋の真実がここに。

瀬戸内寂聴が三人の妻のうち、特に江口章子に焦点を当てながら、彼女たちの歩いてきた道を辿ります。

丹念な取材に基づいた傑作長編小説です。

今回の文庫化にあたり、著者による新たな「ここ過ぎて あと書」を収録。

 

小学館文庫

『ここ過ぎて 白秋と三人の妻』

著/瀬戸内寂聴

 

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