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2017.11.30
私たちは血のつながり以外に、何をもって<家族>となるのか?『ウズタマ』
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キーワード: 家族 ファミリー ミステリー グルメ
青春小説の旗手が挑む、新しいカタチの家族小説
2015年「ヒトリコ」で第16回小学館文庫小説賞受賞、その3週間後に「屋上のウインドノーツ」で第22回松本清張賞を受賞!
この2冊で2015年6月末同時デビュー!
2015年11月刊行の「タスキメシ」は課題図書に選ばれベストセラーに!
本著『ウズタマ』は、青春小説の旗手が挑む新しいカタチの家族小説です。
松宮周作(28歳)は、シングルマザーの紫織との結婚を前にしたある日、父親から見たこともない預金通帳を手渡される。
‹‹「周作、ちょっと来い」
そう言って、父は周作を書斎に呼んだ。書斎と呼んでいるけれど、正確には父の趣味の本が収められた五畳ほどの狭い洋室。幼い頃から書斎に入ることは禁じられていて、周作にとって書斎のドアは開かずの扉だった。だから、父に連れて行かれたときは意外だと思ったし、何だか悪いことをしているような妙な気分だった。
書斎には大きめの本棚が二つあり、窓際にデスクが一つあった。デスクの鍵付きの引き出しを開けた父は、中から預金通帳と印鑑を取り出して、何も言わず渡してきた。
「なに、これ」
受け取って、通帳の名義が自分になっていることに周作は目を丸くした。
「やるよ」
「やるよ、って・・・・・・。ありがたいけどさ、これ、何の金なの?」
中に印字された金額の大きさにさらに驚いて、父に詰め寄った。
「親父が貯めてくれてたの?」
それを、自分が結婚する暁に引き渡そうと、そういうことなのだろうか。
しかし父は周作の問いに首を横に振った。はっきりと、否定した。
「ふざけたことに使ったら縁を切る」
「いや、そりゃあ、わかってるけどさ」
「その金を稼いだ人間に恥ずかしくない使い方をしろ」
「誰だよ、稼いだ人って」
周作の問いに、父はわずかに眉間に皺を寄せた。周作から目を逸らし、奥歯を強く強く噛み締めたのがわかった。
周作は改めて通帳を見下ろした。三百二十四万もの大金は一気に入金されたわけでなく、毎月毎月、少しずつ預けられていたことがわかる。一万円の月もあれば五千円の月もある。
「一体誰が、こんな・・・・・・」››
父親の様子から、今までまったく知り得なかった<誰か>が自分のために大金を振り込んでいたことに感づいたが、親戚づきあいもない周作にはまったく心当たりがない。
謎を知る唯一の人物、父親は通帳を渡した後、脳梗塞で倒れ、昏睡状態に。
<誰か>を探しはじめた周作は、父親のこと、自身のことを、まったく知らなかった自分に気づき、愕然とする。
大金を自分のために用意した<誰か>を追い求めるうち、次々と明らかになっていく父親と自分の過去。
そして、自分たち親子が、25年前に起こった、ある傷害致死事件の被害者家族だとわかる。
その被害者は、父から幼い頃亡くなったと聞かされていた、自分の母だった。
そして、その加害者は、松宮家で家事手伝いをしていた18歳の少年だった・・・・・・・。
「松本清張賞と小学館文庫小説賞を受賞してデビューした期待の新人も、二年たてばただの若手作家です。常に背水の陣と思いながらこれまで六冊の単行本を刊行してきましたが、背後ばかり気にしていないでいろいろと挑戦していかないとなあ、と思っております。そんな中刊行する『ウズタマ』ですが、これは〝これまでとは違うものを書こう〟〝とにかく何か新しいことに挑戦してみよう〟と書き上げた小説です。主人公は結婚を間近に控えた二十八歳の男。二十五年前におきたとある傷害致死事件を探る中で、自分の中にある《家族との繋がり》を痛感していきます。物語の中にずぶずぶと沈み込んで、どっぷりと浸かりながら書くというのが私の小説の書き方だったのですが、『ウズタマ』では少し違いました。あえて登場人物たちと距離を取って、一文一文客観的に考えながら書いていたように思います」(額賀 澪)
家族を怖れながらも、家族を追い求め続けた男の切なすぎる背景、練りに練られたストーリー展開に感嘆!
ある傷害致死事件の謎を探るミステリーですが、根底にあるテーマは人と人との〝つながり〟です。
「完璧な家族」「完璧な家庭」「完璧な親」という幻想に追い立てられ、悩み苦しむ現代人の心を救う、ぬくもりがここに!
青春小説の旗手として、人気も実力も兼ね備えた著者が、今回はあえて「青春小説ではない、新しいもの」にチャレンジ!
ご自身の思い出と重ね合わせながら、じっくりと味わってみてください。
著/額賀 澪
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