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2016.7.4

佐村河内守 VS 新垣隆、話題のドキュメンタリー映画『FAKE』と、新垣氏の自伝『音楽という〈真実〉』から浮かび上がるもの。

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佐村河内守 VS 新垣隆、話題のドキュメンタリー映画『FAKE』と、新垣氏の自伝『音楽という〈真実〉』から浮かび上がるもの。

 "偽り"なしで生きていける人などいない・・・?

 

 公開中の映画『FAKE』が話題になっている。あの佐村河内守氏を追ったドキュメンタリーフィルムだ。2014年、聴覚障害を抱えながら「鬼武者」などのゲーム音楽や「交響曲第1番"HIROSHIMA"」を手がけ、「現代のベートーベン」と呼ばれた佐村河内氏。ところが、彼の耳は聞こえており、作品はゴーストライターの作曲だったと報道される。オウム真理教の信者たちを被写体にした作品『A』、『A2』で話題になった森達也監督が、渦中の佐村河内氏の自宅でカメラをまわし、その素顔に迫る。

 

 善人か? 悪人か? 本物か? 偽物か? 一度悪人と決めつけたら最後、徹底的にたたかれる今の社会。しかし、現実はそう単純ではない。そして、"嘘"と"ハッタリ"で乗り切っている人は、佐村河内氏に限ったことではない。"偽り"なしで生きていける人はそうそういないのだ。映画『FAKE』では、すべての物事を"0"か"1"かで判断したがる安直な現代の病を浮き彫りにしている。

 

 一方で、この騒動の発端になった告白をし、日本中に衝撃を与えた新垣隆氏も、自らの著書『音楽という〈真実〉』の中で、ことのてんまつを語っている。まさに物事を"0"か"1"かで判断してはならないという思いからだ。

 

  「打ち合わせは彼の自宅でもやったことが何度かあります。

 彼の奥さんとも何度も話しましたが、打ち合わせのときは、彼女は外出して席を外すんです。夫婦の間や、私との間では彼はふつうに話していましたよ。

 ただ、奥さんの立場は曖昧です。奥さんはわかっているんでしょうが、どういう話にしているのかはわかりません。私の見たところでは、奥さんはある程度彼に従ってあげているんじゃないかという印象を受けました」

 

 幼少のころから天才少年とよばれていた現代音楽の作曲家・ピアニスト、新垣氏は25歳のとき、あの男――佐村河内守氏と出会ってしまう。はじまりは佐村河内氏の担当する映画音楽のアシスタントだった。それでやめておけばよかったのか、それとも明確に契約して続ければよかったのか。次に彼が泣きついてきた「バイオハザード」のゲーム音楽も同じような形で引き受けてしまう。図々しいのか律儀なのかよくわからないビッグマウスの男に翻弄されていく新垣氏。だがその中でも「自分の名でなくとも作品が演奏され、広く受け入れられる事が嬉しかった」という思いがあった。

  「私のこれまでたどってきた道、そして広く世間を騒がせることになってしまった『ゴーストライター騒動』のてんまつを、その当事者である私の視点からお伝えする、というこの本に、少しでも意義を見いだすことがもしできるとすれば、それは何でしょうか。

 改めて校正刷りを読み返してみて、同じことの繰り返しやさまざまな矛盾とも取れる記述、そして私にとってたいへん痛いことに、当事者のもう一方である佐村河内さんへ向けた私の矢――批判、皮肉、恨み節など――のいくつかが、とりも直さず現在の私自身のところへはね返ってきていることなどといった、およそ恥ずかしい面が多々あることに、我ながら少々うんざりしております」

 しかしクラシック作曲家として、深く心を傷つけてしまった少女への贖罪として、どうしても言わなければならないことがある。

  『音楽という〈真実〉』、 『FAKE』、それぞれの作品をとおして、我々はあの"騒動"をどう受け止めるのか。そこには、きっと勧善懲悪のストーリーはない。

 

天才少年が出会った魔物の正体!

『音楽という〈真実〉』

著/新垣 隆

 2014年2月、佐村河内守氏の「ゴーストライター」であることを告白し、日本中に衝撃を与えた作曲家、新垣隆氏。小学生のとき「偉人伝」を読んでベートーベンにあこがれた新垣氏は、幼いころから天才少年とよばれ、日本の現代音楽界でもっとも期待されてきた人物だ。クラシック、現代音楽、歌謡曲、ジャズ、アニメソングなど、さまざまな音楽を愛し、自分の糧としてきた新垣氏は、25歳のときにもうひとりの「ベートーベンになりたい男」に出会ってしまう・・・。幼少期から現在までに出会ったさまざまな音楽と恩師や音楽仲間とのエピソードを紹介し、佐村河内事件のてんまつをふり返りつつ、人間を救う「音楽」の力を語る。

 

新垣隆氏ご自身が出演する『音楽という〈真実〉』紹介動画はこちら!

https://www.youtube.com/watch?v=iqC0sgFAXZM

(新刊紹介動画サイト「小学館ウチノヨメ。」より)

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