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2017.11.21

俵万智が息子との時間を封じこめた子育て短歌エッセイ集。『ありがとうのかんづめ』

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キーワード: 短歌 エッセイ 親子 ファミリー

俵万智が息子との時間を封じこめた子育て短歌エッセイ集。『ありがとうのかんづめ』

子育ては何もかも期間限定のいとおしい時間!

「たくみん」が5歳になるまでの子育ての日々をつづった「たんぽぽの日々」から7年。「edu」で人気を博した連載「子育て短歌エッセイ」の完結編です。

東日本大震災を機に、仙台から移り住んだ石垣島。

都会の生活から一変した島の暮らしが親子に与えてくれた豊かな時間が、短歌と共に綴られます。

ひとり息子「たくみん」は中学2年生に成長し、親がしてやれることもだんだんと少なくなってきたことを実感する日々。

俵さんのtwitterで大人気! 「たくみん」の独特な言葉のセンスにも注目です。

△2万を超えるいいねと2万近くのリツイートを記録した「たくみん」の名言!

 

『ありがとうのかんづめ』というタイトルには、俵さんの、子育ての日々の中で授けられた感謝の思いを閉じ込めた「この缶詰一個あれば、母は充分」という意味が込められています。

その「子育て短歌エッセイ」の一部を紹介すると――

 

充実の秋と言うべし

収穫の人のまあるい背中を見れば

 

今年の秋には、大きな楽しみがひとつある。息子が田植えをした稲が、お米となって届くのだ。

五月、体操教室の先生に引率されて、月山へと出かけていった。たった一日の「田植え体験」ではあったが、とても強い印象を受けたようだ。都市で暮らす日常では、とても味わえない自然が、そこにはあったのだろう。

<中略>

ところで、田植え体験の他にも「缶詰づくり」というレクリエーションがあった。

「世界で一つの缶詰を手作りしますので、その中に入れるもの(大事なオモチャ、未来への手紙、夢を描いた絵など、なんでも結構です)を用意して持たせてください」と旅行の説明書にはある。

「何にしようか? お手紙でも書いてみる?」とうながすと、「決めた! おかあさんにおてがみかく」と張りきっている。

「でも、缶詰に入れちゃったら、お母さん読めないなあ」

「いいの。そのおてがみは、おかあさんが死んだとき、一緒におはかに入れてあげるの!」

「えっ・・・・・・そう・・・・・・それは、どうもありがとう」

「じゃあかくから、あっちで、おしごとでもしてて」

私を追い払うと、すごく熱心に鉛筆を動かしはじめた。お墓かあ。確かに、息子の手紙と一緒なら、寂しくないかもね、などと思いながらも、複雑な心境だ。すごくあっさり「死んだとき」と言われたからかもしれない。

完成したものを、はじめは隠していたが、やっぱり大作なので見てほしかったのだろう。「ちょっとだけなら読んでもいいよ」と手紙を広げてくれた。

翌日には缶詰の中に入ってしまうので、私はこっそり、デジカメで撮影。

「ゆうれいのおかあさんえ。たくみんはおかあさんがだいすきでした。(中略)あかちゃんのときおせわになりました。ありがとう。これからもげんきでね」

私がよく「たくみんは、赤ちゃんのとき寝なくて大変だった」と言っているのを、気にしているようだ。そんなことで「ありがとう」と言わせてしまって、申し訳ない。

 

 

俵さんは、連載を久しぶりに読み返したとき、この缶詰の話のところで手が止まったそう。

 

‹‹げんきでね・・・・・・って、もう死んでるわ! というツッコミはさておき、こんな無垢な「ありがとう」を受け取っていたことに、ほろっときた。この缶詰一つあれば、私の子育て、充分じゃないか、とさえ思えた。

エッセイを書いていた当時は、「死んだとき」と簡単に言われたショックや、赤ちゃんのときのお礼なんて言わせてすまない、といった気持ちが強かったようだ。時間をおいて読んでみると、感じかたが全然違う。なるほど、缶詰にする意味があった。そして本気でお墓に入れてほしいと、今なら思える。息子からの「ありがとう」と一緒に永遠の眠りにつけたら、こんな幸せなことはない。››(「エピローグ その後のことと、やや長いあとがき」より)

 

園児だった息子との時間、小学生だった息子との時間が封じこめられた、まさに「子育て」は「親育て」であることを実感するハートウォーミングなエッセイです。

 

子育て短歌ダイアリー

『ありがとうのかんづめ』

著/俵万智

 

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