04 「地方創生」
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個人の強い想いを、課題解決につなげていく。小学館らしい地域活性化のあり方とは

個人の強い想いを、課題解決につなげていく。小学館らしい地域活性化のあり方とは
出版社として長年磨き上げてきた「企画力」「編集力」「制作力」「発信力」を“本づくり”以外に活かす。その象徴的なプロジェクトが、アウトドア情報誌『BE-PAL(ビーパル)』が行う公園づくりだ。ブランドとして大事にしていることを、ピュアに具体化することが、結果として地域の課題解決につながっていく。それが、小学館が今後地方創生に取り組んでいくひとつのあり方かもしれない。そのヒントをビーパル編集室の沢木拓也(写真左)と加治佐奈子(写真右)に聞いた。

「自然を遊ぼう!」をカタチにする。「BE-PAL」が続けてきた挑戦の歴史

1981年の創刊以来、西海岸のアウトドアカルチャーを次々に日本に持ち込んできた『BE-PAL』。雑誌というメディアの形にとらわれず、リアルな場での新しい挑戦を続けるのは、創刊以来変わらない姿勢です。
沢木
「BE-PAL」では創刊当初から、地方の魅力や自然環境を守る大切さを発信してきました。過去には、編集部ごと田舎に引っ越そうという企画もありましたし、20年前には「ビーパルランド」という、自給自足のための場づくりにも挑戦していました。最近だと、鳥取、兵庫、京都にまたがるロングトレイル「山陰海岸ジオパークトレイル」のプロデュースなども手がけています。
加治
ものづくりの提案やイベント開催も、昔からやっていましたよね。釣りやキャンプの名人を講師に招いてレクチャーしてもらい、みんなで楽しんだりして。地域や読者との距離が非常に近い雑誌として成長してきました。そこで得たノウハウや、「BE-PAL」が培ってきた人や地域とのつながりが、今取り組んでいる「パルパーク・プロジェクト」にも活かされています。
学生の頃から「BE-PAL」愛読者だったという沢木。「80〜90年代に起こった最初のアウトドアブームで、オートキャンプを日本に持ち込んだり、アメリカのギアを紹介したり。アウトドアをもっと気軽に楽しめるような流れを『BE-PAL』がつくっていったんです」(沢木)
学生の頃から「BE-PAL」愛読者だったという沢木。
「80〜90年代に起こった最初のアウトドアブームで、オートキャンプを日本に持ち込んだり、アメリカのギアを紹介したり。アウトドアをもっと気軽に楽しめるような流れを『BE-PAL』がつくっていったんです」(沢木)

妄想ドリブンで、公園をつくる。「パルパーク・プロジェクト」

「もっと自由に遊べて、自然に触れ合える公園が必要」そんな前編集長の強い想いを起点に、2016年に「パルパーク・プロジェクト」がスタート。「こんな公園があったらいいな」という妄想を雑誌を通して発信し続け、PAL(=仲間)と一緒に少しずつ形にしていきました。
沢木
最近、特に都市部の公園って「〇〇禁止」ばかりが掲げられていて、木登りすら体験できない子どもたちがすごく多くて。そんなことに前編集長がモヤモヤとしている時に始まったのが、パルパーク・プロジェクトの連載でした。最初の1年間は、理想の公園を作れるとしたら?とアイデアを自由に出し合って、それを誌面に掲載していました。「木登りはしてほしいし、どうせならツリーハウスも作れたらいいよね」とか。構想というより、私たちの「妄想」を読者に伝えていたという感じです(笑)。
2016年から誌面で連載が始まったパルパークプロジェクト。「公園からニッポンを変えよう!」を合言葉に、日本中に理想の公園を作りたいという編集者の妄想を具現化していった。(イラスト:スズキサトル)
2016年から誌面で連載が始まったパルパークプロジェクト。「公園からニッポンを変えよう!」を合言葉に、日本中に理想の公園を作りたいという編集者の妄想を具現化していった。(イラスト:スズキサトル)
加治
そこから連載が続くうちに、だんだんとイメージが固まっていって。東京の大手造園会社さんが「うちの土地で、一回作ってみてもいいです」と、仲間に加わってくれたんです。その場所で、子どもが五感をフルに使える秘密基地のような公園を、まずはプロトタイプとして完成させました。
沢木
ただの妄想として連載していたものが、プロトタイプとして形にできると、いろんな自治体や企業から「現地を視察したい」と連絡をいただくようになりました。北九州市から「広大な公園での市民利用を増やすための施策を検討していて」というご相談をいただいたのもそのタイミングでした。その公園こそ、パルパーク第1号がある山田緑地です。
加治
山田緑地でのパルパーク・プロジェクトが決定してからは、何度も現地に足を運び、視察やワークショップイベントなどを開催しながら、1年ほどかけて場づくりをしていきました。その時にすごく意識していたのが「外部の人間が東京から通って作るだけでは、その土地が本当の意味で育ってはいかない」ということ。だから、公園を管理する側も地元のボランティアも焚き火などアウトドアのスキルをちゃんと持てるような講座を自治体と一緒に開催してきました。この講座がおもしろいのは、講座を通してスキルを身につけた地元の人が、次の年の受講生に先生役としてスキルを教えていくという、「学ぶ」と「教える」がセットになっている点です。
沢木
そういうシステムにすることで、地域に住む人が自分たちで企画していけるような、サステナブルな流れが生まれていきますからね。このように、「パルパーク・プロジェクト」では、長年培ってきたノウハウを活かし、場づくりだけでなく、地元の人が地域の公園に継続的に関われるような「人づくり」にも力を入れています。
地元の人のアウトドアスキルを育てる「森の焚き人」養成講座は、2021年で3期目を迎えた。(撮影:江藤大作)
地元の人のアウトドアスキルを育てる「森の焚き人」養成講座は、2021年で3期目を迎えた。(撮影:江藤大作)
加治
こうした「人づくり」は、現代を生きる人たちのアウトドアリテラシーの向上にもつながります。危ないからと言って、子どもに火やナイフの使用を禁止するのではなく、危ないからこそ正しい使い方を教えていく。そんな「たくましく生きる力」を育てることを「BE-PAL」では大切にしています。そうすれば、たとえ災害でライフラインが絶たれても、戸惑うのではなく前向きに考えて行動できる。防災に強い地域づくりにもつながっていくと思っています。
沢木
そうやって人の意識を変えていくことが、結果としていろんな地域の課題を解決していく。そんな可能性も感じています。今はどの地域も、森林保全や竹林問題など、土地をどう有効的に活用するか、という問題を同じように抱えていますが、公園づくりはそういった地域のさまざまな課題解決にもつながるはずです。
「『BE-PAL』が発信していることを実際に体験できる場所って、近くになかなかないんですよね。特別な場所に行かなくても、自分が住む地域にそういう場所がある。そんな状況を、全国につくっていけるといいなと思います」(加治)
「『BE-PAL』が発信していることを実際に体験できる場所って、近くになかなかないんですよね。特別な場所に行かなくても、自分が住む地域にそういう場所がある。そんな状況を、全国につくっていけるといいなと思います」(加治)

これからの100年に向けて

出版社としての強みを活かしながら、地域と共により良い社会をつくる。そんな動きの中で、これから叶えたいことを聞きました。
加治
これまでアウトドアイベントの開催や公園づくりを通して、さまざまな地域と連携してきました。それができるのは、私たちがメディアとして、地方と都会それぞれの良さと課題を知っていて、俯瞰(ふかん)的に見ることができているからだと思っています。今後は公園づくりを超えて、その地域に根ざした方法で、自然と共生していける暮らしの提案や、私たちらしい「街づくり」まで、挑戦の領域を広げていきたいです。
沢木
今はあらゆる人に向けて発信できる時代。これまで通り雑誌やWebサイトづくりは続けていきますが、InstagramやYouTubeなどのメディアを積極的に使うことで、これまであまり接点のなかった10代、20代の人ともつながっていきたいです。ネットワークをどんどん広げていきながら、僕たちが愛しているアウトドアの魅力や可能性を伝えていきたいですね。
沢木 拓也
ライフスタイル局 ビーパル編集室
加治 佐奈子
ライフスタイル局 ビーパル編集室
個人の強い想いを、課題解決につなげていく。小学館らしい地域活性化のあり方とは。
小学館では、Webサイト「ロコ・ラボ」を通して、これまで行ってきたさまざまな地方創生への挑戦を、総合的に紹介している。「小学館全体での地方へ貢献を加速していきたい」と語るのは、ロコ・ラボを担当する広告局の池田高勢。出版社×地域が生み出す未来とは?

俯瞰的に強みを理解することで、地方創生の可能性を広げていく

地方が抱えている課題は、多岐にわたります。「特産品があるけれど、知られていない」「魅力的なスポットはあるが、人が来ない」そんな課題の解決に、小学館らしい切り口でもっと貢献できればと「ロコ・ラボ」が生まれました。
池田
前段の「BE-PAL」による「パルパーク・プロジェクト」を含め、小学館ではこれまでそれぞれのメディアが、それぞれの強みを活かしながら地方創生に取り組んできました。しかし、それぞれのメディアの強みや特性を俯瞰的に見たり、時に掛け合わせたりすることによって、小学館としての地方創生への貢献が、もっと加速するのでは考えています。

その第一歩として生まれたのが、これまで小学館で行われてきた地方創生や、SDGsプロジェクトの情報を集めたWebサイト「ロコ・ラボ」です。このサイトを情報基地にしながら、オンライン相談窓口としても展開することで、地方自治体や企業などと連携したプロジェクトをどんどん実現していきたいと思っています。
愛媛県とのプロジェクトでは、雑誌「美的」と地元のブラッドオレンジを使ったオレンジジュースの商品開発が行われた。「『美的』とかけあわせることで、ただのジュースを超えたブランドイメージをつくることができました。小学館ならではの新しい付加価値はこうして生み出せるんだとハッとしました」(池田)
愛媛県とのプロジェクトでは、雑誌『美的』と地元のブラッドオレンジを使ったオレンジジュースの商品開発が行われた。「『美的』と掛け合わせることで、ただのジュースを超えたブランドイメージをつくることができました。小学館ならではの新しい付加価値はこうして生み出せるんだと気づき、ハッとしました」(池田)
池田
「ロコ・ラボ」を見て「こんなことをしてみたい」というお問い合わせをいただき、プロジェクトがスタートするケースが最近着実に増えています。出版社としての発信力を活かして、「地方創生といえば小学館」といわれる存在になっていきたいですね。
「コロナ禍もあり、地方と都市部にある種の分断が起きてしまっている気がします。そんな時代だからこそ、改めて関係性を築き直し、社会貢献につながるような働きかけをしていきたいです」(池田)
「コロナ禍もあり、地方と都市部にある種の分断が起きてしまっている気がします。そんな時代だからこそ、改めて関係性を築き直し、社会貢献につながるような働きかけをしていきたいです」(池田)

これからの100年に向けて

さらに加速していく地方創生の必要性。これからの100年に向けて、小学館で挑戦したいことを聞きました。
池田
懐の深さと、出版業にこだわらない幅の広さが小学館の魅力だと感じています。利益を追求するだけでなく、社会的な価値をつくるための余白があるから、新しい提案にも思いきって挑戦できる。変化の激しい時代ですから、戸惑うことも多いですが、私自身積極的にオリジナリティのある提案をしていけたらと思います。
池田 高勢
広告局 第一企画営業室