• 解説 豊﨑由美

     まさきとしかはデビュー以来一貫して、親と子、家族の間に生じる軋みの音に耳を澄ませ、昏さに目をこらし続けてきた作家である。

     ゆえに「イヤミス」でくくられてしまうことがあるけれど、わたしは断固反対したい。まさきが書く小説の多くは、たしかに読後感が明朗とはほど遠い。が、記憶に残るのは「イヤな話だったな」という雑な印象ではなく、「知らなくてはならなかった大事な何かを手渡された」というずっしりした手応えだ。

     まさき作品を読んだ後、読者は自分にとっての親との関係を洗い直さずにはいられなくなる。親と自分を見る目が変わる。優れた文学作品は、それを読む前とは世界や自身の見方を変えてくれるのだ。まさきとしかは、そういう小説を書いている。

     2020年の7月に刊行された『あの日、君は何をした』は、そんなまさきとしかが〝新しい武器〟を手に入れたといえる秀逸なミステリーだった。

    ——— 続きは本書でお楽しみください。

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