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2019.10.7

【第回】䞖界䞭で読み継がれる名䜜『颚ず共に去りぬ』を林真理子が鮮やかにポップに、珟代甊らせた『私はスカヌレットⅠ』第章第章を無料公開䞭

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【第回】䞖界䞭で読み継がれる名䜜『颚ず共に去りぬ』を林真理子が鮮やかにポップに、珟代甊らせた『私はスカヌレットⅠ』第章第章を無料公開䞭

【第回】

第章

 私が倧嫌いなもの。

 それは考えるこずず、焊らされるこず。

 たずえそれが最悪のこずだっお、本圓のこずがわかるたでじりじりしながら埅っおいるのは耐えられない。

 アシュレずメラニヌが結婚するか、どうか。私はそれを知っおいるに違いないお父さたを、テラスで埅぀こずにした。

 萜ち着こう、萜ち着こうず思っおも、心がうたく動いおいかない、ずいう感じ。こんなこずは初めおだった。私は呌吞を敎えながら道の向こうを芋぀めた。

 い぀ものようにうちの蟲園に、静かな黄昏が蚪れようずしおいた。さっきたで赀く燃えおいた地平線は、倕陜が萜ちお静かな薄玅色に倉わっおいた。空はい぀のたにかコマドリの卵のような淡い青緑色になっおいる。

 川の向こうの䞘の䞊では、りィルクス家の癜く高い煙突が、たわりの朚の圱にだんだん芋えなくなっおきおいる。小さく光っおいるのはランプの灯りだ。あそこからお父さたは垰っおくるはずなのに、ただ姿が芋えない  。

 私はお父さたのこずが倧奜き。おそらく郡䞭探しおも、私ぐらい父芪が奜きな嚘はいないだろう。䞉人の息子が生たれおすぐに死んでしたったから、お父さたはたるで私を男の子のように扱った。仲よしの私たちの間では・協定・が出来おいるほどだ。それはそれぞれの秘密を守るこず、そしお嘘を぀かないこず。

 お父さたは私が、倕方遅くたで男の子ずテラスでお喋りをしおいおも、決しおお母さたやマミむに告げ口をしなかった。その堎で小蚀を口にしおも。

 その代わり私も、お父さたが銬で柵を越えおもお母さたに蚀い぀けたりはしない。柵を越えるのはずおも危険なこずず、お母さたは蚱さないのだ。だっおお父さたは幎をずっおいる。もう六十歳のお爺さんだ。

 どうしおこんなに幎をずっおいるかずいうず、アむルランドからたった䞀人でやっおきお、無我倢䞭で働いおいたから。あの頃、むギリスの圧政に苊しんでいたアむルランドから、たくさんの移民がアメリカに枡っおきたずいうのを、女孊校の時に習ったような気がするけれど忘れおしたった。歎史の時間なんか倧嫌いだったから。

 お父さたは、先にアメリカにやっおきお、雑貚屋を開いおいたお兄さんたちのずころに身を寄せた。お父さたは蚀う。あの頃のアメリカずいうのは、アむルランド移民にずおも優しかったず。どちらもむギリスに苊しめられおいた過去を持぀。

 お父さたはお酒ず賭けごずがずおも匷かった。ある日、お父さたは南郚の倧蟲園䞻ず倜通しポヌカヌをしお、ポヌクを手に入れたのだ。ポヌクは今もうちにいる、お父さた付きの埓者だ。他の蟲䜜業に携わる奎隷ずはたるっきり違う。ピカピカした黒い肌は綺麗だし、ものごしに嚁厳があった。お父さたはポヌクを自分のものにしたこずで、玳士ぞの道を歩み出したわけ。

 この埌のこずを、お父さたはあたり話したがらない。私が知っおいるこずは二぀。お父さたはある時から、南郚の倧蟲園のオヌナヌになるこずを倢みるようになったこず。そしおそれをポヌカヌで手に入れたずいうこず。だけどかなりフェアなやり方だ。恥ずべきこずは䜕もない。

 お父さたはある倜サノァンナの酒堎で、䞀人の玳士ず知り合った。圌はこう語ったそうだ。

 十幎以䞊前のこず、州政府はネむティブ・アメリカンから譲り受けた、ゞョヌゞア䞭郚の広倧な土地を抜遞で分配した。玳士は抜遞に圓たり、その土地を手に入れたものの䜕もいいこずがなかった。収穫出来るようになった頃、屋敷が火事で焌け萜ちおしたった。あそこはたさに呪われた土地だ。もう早いずころ手攟しおしたいたいず。

 お父さたは偶然その時、かなりの倧金を持っおいた。お兄さんたちから預った売り䞊げ金だ。

 お父さたはニコニコしながら玳士に持ちかけた。これをすべおチップにするから、賭けをしないか。あんたは土地の所有暩を差し出しおくれればいいず  。

 そしおお父さたは勝ったのだ。䜕ひず぀ずるいこずをしたわけではない。お父さたはその土地を切り開き、お兄さんたちから借りたお金で蟲䜜業甚の奎隷を買った。綿花を぀くるために。

 やがおお父さたはこの土地をタラず名づけた。

 タラっおどういう意味 聞いおもお父さたは教えおくれない。

 お父さたは聞けばたいおいのこずを話しおくれたけれど、このタラずいう土地の名前の由来ず、お母さたずのなれそめは絶察に話しおくれなかった。

 二人は嚘の私が芋おも、たるっきり釣り合いが取れおいない倫婊。お父さたのこずは倧奜きだけれど、さえない倖芋なのは本圓だもの。五フィヌト癟五十二センチのチビで、ものすごいがに股。アむルランド人特有の赀毛で、錻も口も倧きかった。それにひきかえ、お母さたはすらりず背が高い。お父さたはお母さたの肩たでしかなかった。

 そしお、これは重芁なこずだけれど、お母さたはただ䞉十二歳なのだ。信じられる お母さたは二十八歳幎䞊の、自分よりずっず幎䞊の男ず結婚したのだ。

 効のス゚レンが、ケネディずいうおじさんに熱をあげおいお、私はずおも信じられないんだけど、あの人だっお二十数歳ぐらいの幎の差。お母さたは十五歳の時に、四十䞉歳の男の人ず結婚したのだ。

 私だったらずおも考えられない。もし今、そんな求婚者が珟れたら、ゲラゲラ笑い出しおしたいそうだ。こんな話をするず、お母さたがずおも貧しい家の嚘のようだけれど、正反察だ。お母さたの家は、サノァンナきっおの名家で、お祖父さたの名前はピ゚ヌル・ロビダヌル。そう、フランスからやっおきた誇り高き䞀族だ。だから今でもお母さたが喋る蚀葉にはフランス蚛りがある。そんな名家の什嬢ず、倧蟲園䞻ずなったものの、アむルランド移民のお父さたずの結婚は、それこそ奇跡のようだ。

 だから今でも、お父さたはお母さたに頭が䞊がらない。たるっきり。

 ã€Œã‚ªãƒãƒ©ã•た  」

 お母さたはお父さたのこずをそう呌ぶ。このあたりでは、倫に敬語を䜿うのはそう珍しいこずではない。敬語を䜿いながらお母さたは呜じる。

 ã€Œã©ã†ã‹ã€éŠ¬ã§æŸµã‚’è¶Šãˆã‚‹ã®ã¯ãŠã‚„ã‚ãã ã•ã„ã€‚ã‚ãªãŸã•ãŸã¯ã‚ˆãé…”ã£ã±ã‚‰ã£ãŠéŠ¬ã«ãŠä¹—ã‚Šã«ãªã‚ŠãŸã™ã€‚ãã‚ŒãŒã©ã‚Œã»ã©å±é™ºãªã“ãšã‹ã€ã©ã†ã‹ã‚ˆããŠè€ƒãˆãã ã•ã„ã€

 䞊朚道から、こちらに向かっおくる銬の姿が芋えおきた。お父さただ。この勢いでは柵を越えるに違いない。だけどもちろん私は黙っおいる。告げ口をしないのは暗黙のルヌルだったし、お父さたずは重芁な話があるのだから。

 

 やっぱりそうだった。銬は苊もなくひらりず柵を乗り越え、お父さたは歓声をあげた。そしお銬から降りるず、よしよしず銖を叩いた。

 ã€ŒãŠå‰ã¯éƒ¡ã§ã„ちばん、いや、州でいちばんの名銬だ。本圓に玠晎らしい」

 お父さたは自分の銬だけでなく、すべおのものに優しい。い぀もガミガミず怒っおいるようで、誰からも奜かれるのは、その優しさがすぐ䌝わるからだ。お父さたが奎隷たちの小屋にやっおくるず、みんな倧喜びする。

 ã€Œãªã‚“だ、その汚れた顔は。お前なんか奎隷商人に売っおしたうぞ」

 などず蚀いながら、お父さたが黒人の子どもの頬を軜く぀ねる。するず盞手はキャッキャッ笑い出す。お父さたが決しおそんなこずをしないのは誰でも知っおいるからだ。お父さたは奎隷をいっさい売らないし、ムチで叩いたのは䞀床きりだ。今回だっお離ればなれになった家族を䞀緒にしようず、うちの奎隷の劻をりィルクス家に譲っおもらいに出かけたのだ。

 ã€ŒãŠå‰ã»ã©è³¢ã„銬は芋たこずがない。さあ、たっぷりず゚サを食べお、もうおやすみ」

 お父さたが、アむルランド蚛りで銬に語りかけるのがおかしくお、私は぀い笑い声をたおおしたった。

 ã€Œäœ•だ、お前はそこにいたのか」

 お父さたは銬の手綱をはずし、私に近づいおきた。そしお可愛くおたたらない、ずいう颚に私の頬を぀ねった。

 ã€ŒãŠå‰ãŸã§ã‚ã—を芋匵っおたのか。ス゚レンみたいに母さんに蚀い぀けようずするのかい」

 そんなこずを私がするはずがないずわかっおいるのに、お父さたは怒ったふりをする。私は黙っおお父さたのネクタむを盎しおやった。お父さたから、匷いバヌボンのにおいずミントの銙りがする。それだけではない。もっず近づくず革ず銬のにおいもする。そしお私は、お父さたのこずが倧奜きだず心から思う。背は䜎いし、髪は癜髪だ。錻は䞞っこくお矎男ずいうのずはほど遠い。だけどお父さたは優しくおたっすぐな人だ。そのこずを人に気づかれるのが耐えられず、すぐに怒鳎りたくるけれど。

 ã€ŒãŠçˆ¶ã•た、去幎膝を壊したばかりじゃないの。それなのにたた同じ柵を越えるなんお、私、信じられない」

 お父さたはフンず錻を鳎らした。

 ã€Œéªšã‚’折ろうず折るたいずわしの勝手だろ。お前こそショヌルをかけないで、こんなずころで䜕をしおいるんだ」

 ã€ŒãŠçˆ¶ã•たを埅っおいたのよ」

【】に続く

小孊通文庫 林真理子『私はスカヌレットⅠ』奜評発売䞭

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