お知らせ

2019.10.5

【第回】䞖界䞭で読み継がれる名䜜『颚ず共に去りぬ』を林真理子が鮮やかにポップに、珟代甊らせた『私はスカヌレットⅠ』第章第章を無料公開䞭

この蚘事は掲茉から10か月が経過しおいたす。蚘事䞭の発売日、むベント日皋等には十分ご泚意ください。

【第回】䞖界䞭で読み継がれる名䜜『颚ず共に去りぬ』を林真理子が鮮やかにポップに、珟代甊らせた『私はスカヌレットⅠ』第章第章を無料公開䞭

【第回】

第章

 タヌルトン家の双児は、ただ私の前にいる。空気が急に倉わったこずに気づいおいるものの、どうやっお収拟を぀けおいいのかわからないのだ。

 気分屋のスカヌレットのこずだ、すぐに機嫌を盎しお、自分たちを倕食に誘っおくれるはずず考えおいたのだろう。ぐずぐずず明日のバヌベキュヌや、その埌の舞螏䌚に぀いお喋っおいる。

 だけどやっずわかったようだ。私がたるっきり話を聞いおいないこずに。二人はかなり努力をした。ゞョヌクを蚀っおは笑わせようずした。が、それが党く無駄なこずに気づいおしぶしぶず懐䞭時蚈に目をやった。

 ふだんだったら、私はこう蚀っただろう。

 ã€Œã‚なたたちっお、こんな時間たでうちのテラスにいお、それなのに倕ご飯を食べおいかないっお蚀うの たるでうちがあなたたちを远い出したみたいじゃないの」

 だけど私はもうそんな蚀葉を口にしない。それどころか、私をこれほど深い困惑ず䞍安に突き萜ずした二人を憎み始めおいる。

 さっきたでのあのきらきらした午埌は終わろうずしおいた。

 倪陜は耕したばかりの畑に萜ちお、川向こうの背の高い朚々が、圱絵のようにがんやりず浮かんで芋えた。

 ツバメはさっず庭を暪切り、ニワトリずアヒル、䞃面鳥たちがそれぞれのねぐらに垰ろうずしおいた。

 ã€Œã‚žãƒŒãƒ ã‚ºïŒã€

 スチュワヌトが倧声で呌ぶ。しばらくするず双児ず同じ幎頃の黒人青幎が、屋敷の裏から走っお珟れた。ゞヌムズは双児の身のたわりの䞖話係で、どこぞ行くのも䞀緒だった。犬たちずセットになっおいお銬の傍らぞ走っおいく。子どもの頃は双児の遊び盞手だったけれど、十歳の誕生日に圌ら専属の奎隷ずしお莈られたのだ。

 私はゞヌムズが銬を敎える様子をじっず眺めおいた。音だけじゃない。芋慣れたい぀もの光景なのに、色圩が抜けお急に癜っぜくなっお芋える。

 双児は私にお蟞儀をし、さようならの握手を求めた。

 ã€Œãã‚Œã˜ã‚ƒã‚、スカヌレット、明日はりィルクス家に早めに行っおいるよ。そしお君の来るのを埅っおいるよ。だっお䞀曲めから螊るんだから。バヌベキュヌ䞭も君の隣りの垭を確保しおおかないずね」

 圌らはずこずん鈍感なんだず私は思った。りィルクスずいう名前が、今の私にどれほどの痛みを䞎えるかたるでわかっおいない。

 ã€Œã˜ã‚ƒã‚、スカヌレット、たた明日」

 圌らは銬に乗り、ゞヌムズを埓えおうちの前の杉䞊朚を早足で垰っおいった。䜕床も䜕床も私に垜子を振り、倧声で叫ぶ。

 ã€Œã‚¹ã‚«ãƒŒãƒ¬ãƒƒãƒˆã€çŽ„æŸã¯å®ˆã£ãŠãã‚Œã‚ˆã€

 ã€Œæ˜Žæ—¥ãŒæ¥œã—みだ」

 陜気な声は遠ざかり、やがお聞こえなくなった。私はがんやりずテラスに立っお、双児が蚀ったこずを敎理しようず骚を折った。ものごずを深く考え、組み立おおいくのは、私が倧の苊手ずするこずだ。でも、しないわけにはいかなかった。

 双児は確かにこう蚀ったのだ。

 明日、りィルクス家のパヌティヌで、アシュレずメラニヌの婚玄が発衚されるず。

 ã€Œãã‚“なわけないでしょう」

 私は声に出しお蚀っおみた。本圓にそんなこずがあるわけがない。

 心臓が奇劙な錓動をうち始めた。こんなこずは本圓に初めおだった。

 䞖界が、自分の知らないずころで倧きく倉わろうずしおいる。自分の願いずは別に、䜕かが起こる。こんなこずっおあるだろうか。

 私はアシュレを愛しおいる。圌も私を愛しおいる。蚌拠はいくらだっおあるのだから。本圓だもの。

 この二幎間ずいうもの、アシュレはい぀も私をいろんなずころぞ連れ出しおくれた。舞螏䌚やピクニック、魚釣りパヌティヌや裁刀を公開する裁刀日。そりゃあ、タヌルトンの双児や、ケヌド・カルノァヌトや、フォンテむンの兄匟ず行くよりは倚くはなかったけど、圌がうちの屋敷に来なかった週は䞀床だっおない。

 アシュレが他の男の子たちのように、䜕床もやっおこなかったのは、すべお圌の慎み深い理性的な性栌のためだ。

 そう、あの日だっお぀い先週のこずだ。倕暮れの䞭、フェアヒルから垰る途䞭、アシュレは私に蚀ったのだ。

 ã€Œã‚¹ã‚«ãƒŒãƒ¬ãƒƒãƒˆã€å›ã«å€§åˆ‡ãªè©±ãŒã‚るんだ。あたりにも倧切すぎお、どう話しおいいのかわからない」

 そう、圌は私に告癜しようずしおいたのだ。他の男の子のそれずはたるで違う。私もアシュレを愛しおいるのだから。これは結婚の申し蟌みずなるのだ。あの時、私は倢みおいるようだった。子どもの頃にお母さたは教えおくれた。もしプロポヌズされおも、すぐに答えおはいけない。しばらく考えおからこう蚀うのだ。

 ã€Œå–œã‚“でお受けいたしたすわ」

 だけどその時の私は、嬉しさのあたり、途䞭でむ゚スず蚀っおしたいそうだった。

 早く、早く、アシュレ。早く私を愛しおいるず蚀っお  。その時だ。圌はこう぀ぶやいたのだ。

 ã€Œã„や、今はやめおおこう。もう君のうちに着いおしたった。時間がない」

 それからこんな蚀葉を口にした。

 ã€Œåƒ•はなんお臆病な男なんだ」

 そしお銬に拍車をかけ、䞘を駆け䞊がっおいっおしたった。

 だけど私は幞犏だった。アシュレはこのあたりに䜏む男の子たちずはたるで人皮が違う。ずおも繊现で玳士なのだ。突然のプロポヌズで私を驚かせたいずしたのだ

 あの日のこずを冷静に思い出しおいる最䞭、突然ある考えに行きあたった。もしかしたらアシュレは別のこずを告げようずしおいたのではないか。メラニヌずの婚玄をあの時告げようずしたんじゃないだろうか。僕は埓効のメラニヌず結婚しなくおはならないんだ。ごめんね  。

 いや、そんなこずはあり埗ない。婚玄だなんお嘘に決たっおいる。

 ã€Œã‚¢ã‚·ãƒ¥ãƒ¬ã€ã‚¢ã‚·ãƒ¥ãƒ¬ã€

 その名前を呌んでみる。涙が出おきそうだったけれどじっず我慢した。泣いたりしたらそれが真実になるような気がしたからだ。

 二幎前、私がアシュレに恋をした日のこずがはっきりず浮かびあがる。圌は䞉幎間の倧旅行を終えお垰っおきたばかりだった。その挚拶のためにお父さたのずころぞやっおきたのだ。

 ペヌロッパをゆっくりずたわるグランドツアヌは、このあたりの地䞻の息子たちでも行くこずがある。あのお銬鹿なタヌルトン兄匟でさえ、倧孊をちゃんず卒業したら、ペヌロッパに行っおいいず芪ず玄束しおいたのだ。しかしアシュレの旅行はずおも長く、もう垰っおこないのではないかず噂になったぐらいだ。

 前からアシュレにはそういうずころがあった。本を䜕よりも奜み、詩集や哲孊曞なんおいうものさえ読んでいたのだ。その圌がパリやフィレンツェに魅了され、ずっず滞圚しおいるのはわかるような気がする  などずいうのは、お父さたが誰かに蚀っおいたこずで、ただ十四歳だった私は、アシュレなんかにたるで興味はなかった。

 それなのに、あの日の圌ず䌚った時、私は蚀葉を倱っおしたった。それほど圌は玠敵だったのだ。

 そう、今のこの堎所。私はタラ屋敷のテラスに立っおいた。圌は䞀人、うちの長い䞊朚道を銬に乗っおやっおきたのだ。王子さたのように。

 灰色のブロヌドの䞊着を着お、ひだ食りのあるシャツず合わせおいた。幅広の黒いネクタむ、倪陜の光を反射するほど磚き䞊げたブヌツ、ネクタむピンのカメオに圫られたメデュヌサの頭  。私はあの日圌が身に぀けおいたものを、すべお憶えおいる。これからだっおひず぀たりずも忘れるこずはない。

 圌は銬を降り、広いパナマ垜の瞁をさっず䞊げお、私に埮笑んだ。その䞍思議な埮笑。このあたりの男たちの、にこっず歯を芋せる笑い方ずはたるで違っおいた。なぜかさみし気なもの憂い埮笑みだった。お陜さたはちょうど真䞊にあり、垜子をずった圌の金髪を照らしおいた。本圓に芋事な金色だった。䞊の方があたりにも光っお、たるで金色の瞁なし垜をかぶっおいるようだった。

 そしお圌は、声をかけるのも忘れ、がうヌっず芋぀めおいる私に向かっお、こう蚀ったのだ。

 ã€Œã™ã£ã‹ã‚Šå€§äººã«ãªã£ãŸã­ã€‚スカヌレット」

 そしお私の手にキスをした。その動䜜の優雅だったこず。私は心臓が音をたおお壊れるかず思った。なんお玠敵な人なのだろう。なんお矎しい男の人なのだろう。

 そしお決めた。私はアシュレず結婚するのだず。

【】に続く

小孊通文庫 林真理子『私はスカヌレットⅠ』奜評発売䞭

【】