お知らせ

2018.9.21

【第回】ドラマ攟送盎前 池井戞最の倧人気シリヌズ、埅望の最新刊『䞋町ロケット ダタガラス』第章を無料公開䞭

この蚘事は掲茉から10か月が経過しおいたす。蚘事䞭の発売日、むベント日皋等には十分ご泚意ください。

【第回】ドラマ攟送盎前 池井戞最の倧人気シリヌズ、埅望の最新刊『䞋町ロケット  ダタガラス』第章を無料公開䞭

この秋、最泚目のドラマずいえば、䜕ずいっおも「䞋町ロケット」日曜劇堎だ。原䜜は池井戞最原䜜の囜民的人気シリヌズで、环蚈郚数は䞇郚を突砎しおいる。月に刊行したドラマ原䜜でもある『䞋町ロケット ゎヌスト』に続き、早くもそれに連なる最新刊『䞋町ロケット ダタガラス』の刊行が決定。月日の発売を前にひず足早く、第章を特別連茉「宇宙から倧地」線のクラむマックスや劂䜕に

 

第章 新たな提案ず怜蚎第回

 

 ã€Œãªã‹ãªã‹ã€ã†ãŸãè¡ŒããŸã›ã‚“ね」

 ã€Œå¿—乃田」を出、駅の改札ぞ消えおいく島接を芋送るず、山厎が嘆息した。

 ã€ŒãŸã£ãŸãã ã€

 䜃も応じる。

 ã€Œã‚ˆã‚Šã«ã‚ˆã£ãŠãƒ€ã‚€ãƒ€ãƒ­ã‚¹ãšè³‡æœ¬ææºã‚’組むなんお。いったい、䌊䞹さんは䜕を考えおるんだろう。挙げ句、シマさんたで远い出しちたっお」

 山厎はむしゃくしゃした様子で舌打ちしたかず思うず、どっず重い吐息を挏らした。「財前郚長がいなくなり、トノさんがいなくなり、そしお今床はシマさんたで  。なんかこう、ガックリ来ちたいたすね」

 垝囜重工で長く倧型ロケット打ち䞊げを仕切っおきた財前が珟堎を去り、新郚眲に異動しおいったのは先月末のこずである。倧型ロケット打ち䞊げ郚門においお䜃補䜜所は、匷力な埌ろ盟を倱ったも同然であった。

 たた、䜃補䜜所の番頭にしお、䜃の信頌できる盞談盞手だった〝トノ〟こず、殿村盎匘が、家業の蟲家を継ぐため䜃補䜜所を退職したのもたたこの䞉月のこずである。

 ã€Œãã‚Œã«ã€äŒŠäž¹ã•んがダむダロスず組んだっおのは、どうにもむダな予感がするんですよね」

 山厎は右手で顎のあたりをさすりながら、疑わしげに目を现めた。「ダむダロスのこずだ、きっず䜕か仕掛けおきたすよ」

 急速に頭角を珟し、小型゚ンゞン業界に確実な地䜍を築き぀぀あるダむダロスは、いたや䜃補䜜所最倧のラむバルずいっおいい存圚になろうずしおいる。

 ã€ŒãŠãã‚‰ããªã€

 ため息たじりに答えたものの、正盎なずころ、䜃は䞍安であった。

 そのダむダロスずギアゎヌストの提携は、いわば、ギアゎヌストず䜃補䜜所の関係を吊定するのず同矩ではないかず疑わしいからである。

 ギアゎヌストのトランスミッションには、コンペの末に勝ち取った新バルブを玍品する蚈画になっおいるが、こうなっおみるずその実珟すら予断を蚱さないものに思える。

 重芁な仲間を倱い、さらに、トランスミッション事業の足がかりずしお向き合っおいたはずの取匕先、ギアゎヌストに─いや、瀟長の䌊䞹の倉心に翻匄される。

 ã€Œã“んなずきにトノさんがいおくれたらなあ」

 山厎が思わず嘆くのも無理からぬこずだが、だからずいっお為す術もなく指をくわえお状況に甘んじおいるわけにもいかない。

 生きおいかなければならないからだ。

 宇郜宮垂内にある工堎も含めれば䞉癟名近い瀟員を、䜃は抱えおいる。圌らず、その家族の幞せは、ひずえに䜃航平の双肩にかかっおいるのである。

 䞍安に苛たれようず、いかに䞍利な状況だろうず、その状況を打開できなければ、䌚瀟を守り、ひいおは瀟員たちの生掻を守るこずはできない。経営者に求められおいるのは、悲嘆や埌悔ではなく、垞に先を芋越した行動だ。

 ã€Œã„っぺん䌊䞹さんに䌚っおみるか  」

 五反田方面からの電車が到着したのか、通勀客が改札から吐き出されおくる。その流れに逆らうように立ち、䜃は誰にずもなく呟いた。

 



 䜃航平が、ギアゎヌストの䌊䞹の携垯に連絡を入れたのはその翌朝のこずである。

 ã€Œã“このずころ、ご無沙汰でしたので、ご挚拶に䌺いたいず思いたしお」

 そう切り出した䜃に、䌊䞹はしばしの沈黙をもっお答えた。

 ã€ŒãŸã‚、そんなに気を遣っおいただかなくおも」

 気乗りしない返事がある。

 ã€Œãã†ãŠã£ã—ゃらず。今日明日で、どこか時間、ありたせんか。䌚瀟にいらっしゃるのでしたら、少しだけ顔を出したす」

 逡巡が電話から䌝わっおくる。それはそうだろう、䌚えばダむダロスずの資本提携の話が出るかも知れない。䌊䞹は、その話が䜃の耳に入っおいる可胜性をすでに疑っおいるはずだ。

 裏切り、裏切られおいながら、お互い芪密な取匕先ずしおの䜓裁を保っおいるずいうのも気持ちのいいものではなかった。

 ã€Œä»Šæ—¥ã®å€•方でしたら  」

 どこか面倒そうな䌊䞹の返事に、違和感を拭えない。

 昚幎、ギアゎヌストが特蚱䟵害で存続の危機に立たされたずき、それを救枈したのは他ならぬ䜃たちだ。

 その誠意を反叀にするのなら、本来、䌊䞹のほうから仁矩を切るのがスゞである。

 こんな男だったか─。

 唐突に、そんな思いに囚われ぀぀、

 ã€Œäœ•時ならいいですか」䜃はきいた。「それに合わせたすので」

 ã€Œã˜ã‚ƒã‚、五時で。ただ、あたり時間がないので䞉十分ほどでお願いできたすか」

 䞋町で生たれ育ち、町工堎を経営しおいる父芪の背䞭をずっず芋おきた男だ。䜃の知る䌊䞹は、ぶっきらがうだが、人情味のある男であったはずだ。

 なのに、いた電話の向こうから䌝わるこのよそよそしい息遣いはどうだろう。

 ã€Œã§ã¯ãã®æ™‚間にお䌺いしたすのでよろしくお願いしたす」

 電話を切った䜃は、しばし瀟長宀から芋える倧田区界隈の䜏宅街を芋぀め、陰鬱な吐息を挏らしたのであった。

 倧田区䞋䞞子にあるギアゎヌストたでは、クルマで二十分ほどの至近なのに、その距離がやけに遠く感じられた。

 瀟甚車のハンドルを握るのは山厎だ。䜃はその助手垭で、口数も少なく、これから予定されおいる䌊䞹ずの話し合いに思いを銳せおいる。

 ã€Œã‚·ãƒžã•んからの情報、先方がいうたで黙っおるべきですかね」

 同じく䌊䞹ずの察談のこずを考えおいたらしい山厎がきいた。ダむダロスずの資本提携の話である。「情報源を知られたら、シマさんに迷惑がかかるかも知れたせん」

 ã€Œãšã‚Šã‚えず、盞手の出方を芋ようや。いずれにせよ聞くこずになるだろうがな」

 䜃はこたえる。「もしかしたら、オレたちが玍埗できるような理由があったのかも知れないし」

 珟実にそんな可胜性があるずも思えないが、䞀方で、そうであっお欲しいずも、䜃は思うのである。

 このずきになっお䜃はようやく、自分の䞭にある、もやもやの正䜓がわかったような気がした。

 結局のずころ、䜃は䌊䞹倧ずいう男に、そしおギアゎヌストずいう䌚瀟にあたりに惚れ蟌んでいたのだ。

 もしこれが他の取匕先であったなら、䜃のこずだ、烈火の劂く怒り狂ったに違いない。だが、そこたでできないのは、同じ䞋町育ちずしお、心のどこかで䌊䞹のこずを信じたいずいう䞀瞷の思いが断ち切れないからだ。

 むしろ、怒り狂うこずができればそのほうが楜なのかも知れない。だが、そうできないからこそもどかしく、摑み所もなく宙ぶらりんな感情を持おあたすこずになるのだろう。

 やがお、フロントガラスの向こうに、特城的な瀟屋が芋えおきた。ギアゎヌストは䌊䞹の父芪の代からあるずいう老朜化した建物を改造し、叀くおモダンな、䞍可思議な印象のオフィスを倧田区の䞋町に構えおいる。

 裏手にある来客甚駐車堎に瀟甚車を入れた。正面玄関のガラス戞を入った土間にはトランスミッションを展瀺したショヌケヌスが䞊び、奥の小ぢんたりしたオフィスに瀟員たちが机を䞊べおいるのが芋える。䜃らが入っおきたのに気づいお立っおきた若手瀟員が、応接宀に案内しおくれた。ガラス戞でオフィスず隔おられただけの郚屋である。芋れば、぀い先日たで島接が座っおいた堎所に、いた芋知らぬ男が座っおパ゜コンのモニタを睚んでいた。

 ã€Œã‚‚うシマさんの代わりがいるのか」

 呟いたのは䜃ではなく、山厎のほうだ。「代わりを芋぀けた䞊で、シマさんを远い出したっおこずですかね」

 応接宀で埅たされるこず数分、「お埅たせしたした」、ずいうひず蚀ずずもに䌊䞹が入宀しおきた。

 盞倉わらず無愛想で、䞀芋ずっ぀きにくい印象はそのたた、䜃ず山厎の向かいにある肘掛け怅子にどっかず腰を䞋ろす。

 ã€Œã“このずころご挚拶しおいたせんでしたので。その埌、ダマタニぞの新トランスミッションの売り蟌みがどうなったか、状況をお䌺いしようず思いたしお」

 䜃は切り出した。

 ダマタニは、䜃補䜜所ずも芪亀が深い倧手蟲機具メヌカヌである。ギアゎヌストは、ダマタニの新機皮向けにトランスミッションの䟛絊を狙っおおり、以前、苊劎の末に䜃がコンペで萜ずしたのはそのトランスミッションのためのバルブであった。

 いくらコンペで勝っおも、ギアゎヌスト補トランスミッションがダマタニに採甚されない以䞊、䜃の出番はない。ずころが─。

 ã€Œã‚、ただ担圓から連絡しおたせんでしたか」

 䌊䞹はしたったな、ずいう顔をしおみせた。「実はダマタニの経営蚈画が倉わりたしお、あのトランスミッションそのものが棚䞊げになりそうなんです」

 ã€Œã„や、そんな話は─」

 あたりのこずに䜃が絶句するず、「たあ、そういうこずですので、せっかくコンペに参加しおいただいたんですが、期埅にはこたえられそうにないかなず」

 䌊䞹の口調は淡々ずしおいた。

 ã€Œã—かし、それでは埡瀟にずっおも打撃でしょう。トランスミッションの開発費もさるこずながら、蟲機具業界に参入するずいう目論芋が倖れるわけですし。なんずかならないんですか」

 問うた䜃に、

 ã€Œã„や、りチは別な圢で参入するこずになりたすので」

 䌊䞹は意倖なこずをいった。

 ã€Œã‚の、別な圢ずは、いったい  」

 問うた山厎に、「それはただ内緒でしお、詳しくはちょっず」、ず蚀葉を濁す。

 ã€Œãƒ€ãƒžã‚¿ãƒ‹ã®æ–°ãŸãªãƒ©ã‚€ãƒ³ãƒŠãƒƒãƒ—じゃないずするず、既存のトラクタヌずかのトランスミッションを受泚されるずいうこずですか」

 ã€Œã„や、新しい蟲機具ですよ」

 意味がわからない。

 ã€Œãã‚Œã«ã€ä»ŠåºŠé–‹ç™ºã•れたトランスミッションを投入されるんですか」

 ã€ŒãŸã‚、そういうこずになりたすね」

 䌊䞹のこたえは、䜃の内面に波を立おた。

 ã€Œã§ã‚れば、うちのバルブを䜿っおいただけたせんか。新しい蟲機具ずいうのが、どんなものかはわかりたせんが、コンペたでしお認めおいただいたんですから」

 ã€Œãã‚Œã¯ç„¡ç†ã§ã™ã­ã€

 䌊䞹はさらりずいった。「そっちはもう、倧森バルブさんで決たっおたすので」

 我が耳を疑うずはこのこずだ。䜃は思わず顔色を倉え、気づいたずきには、

 ã€Œãã‚Œã¯ãªã„んじゃないですか」

 ずいうひず蚀を発しおいた。「䌊䞹さん、りチは埡瀟のためにいろいろお手䌝いしおきたじゃないですか。蚎蚟の件もそうです。なのに、せっかく開発したバルブは䜿い途がなくなった、新たなトランスミッションにはラむバル䌁業に発泚枈みで䜿えないだなんお。あんたりですよ」

 ã€Œãƒ©ã‚€ãƒãƒ«äŒæ¥­ã£ãŠã€

 䌊䞹は、小さな笑いを噎き出した。「倧森バルブは埡瀟のラむバルずはいえないでしょう。あっちは、抌しも抌されもせぬ倧手䌁業ですよ」

 ã€Œã¡ã‚‡ã£ãšåŸ…っおください。埡瀟は前回のコンペでりチのバルブを遞んでくれたじゃないですか」

 ã€Œå‰å›žã®ã‚³ãƒ³ãƒšã§ã¯ã€ã­ã€‚ただ、今床は話が別ですから」

 取り付く島もない返事である。

 ã€ŒäŒŠäž¹ã•ん、りチがどれだけ埡瀟ずの取匕に期埅しおいたかわかりたすか。その話が頓挫しかかっおいるんなら、それだけでもすぐに知らせおいただきたかった」

 腹の底で熟火のように燃えはじめた怒りを抑えた䜃に、

 ã€Œãã‚Œã¯ã€åŸ¡ç€Ÿã®äº‹æƒ…ですよね」

 にべもない返事を、䌊䞹は寄越した。「ただ正匏な決定でもないのに途䞭経過を知らせろずおっしゃるんですか。担圓が連絡しなかったかも知れたせんが、そこたでの矩務はないでしょう。他の䞋請けでそんなこずをいっおくるずころはありたせんよ」

 䜃補䜜所など䞋請けの䞀瀟に過ぎないず、䌊䞹は切り捚おたのだ。

 ã€Œäž€ç·’にやっおいけるず思っお、この前の蚎蚟も力添えしたんですよ、䌊䞹さん」

 ã€Œãã®ç¯€ã¯ã‚りがずうございたした」

 䞡手を膝に぀き、䌊䞹はお座なりに頭を䞋げた。「ですけど、それはそれずお考えください。りチにはりチのビゞネスモデルがありたすから」

 ã€Œãã®ãƒ“ゞネスモデルに、匊瀟が入り蟌む䜙地はないず、そういうこずでしょうか」

 ã€Œç”³ã—蚳ないですが、いたのずころはありたせんね」

 䌊䞹はいうず、そういうこずですので、ず話を切り䞊げようずする。

 ã€Œã¡ã‚‡ã£ãšåŸ…っおください、䌊䞹さん─」

 いたにも腰を䞊げそうな䌊䞹に、そのずき䜃は切り出した。「ダむダロスず資本提携したっお、本圓ですか」

 すっず感情を消した䌊䞹の目が、䜃に向けられた。

 ã€Œã©ã“でそれを」

 ã€Œã‚るずころから、小耳に挟んだもので」

 䜃はこたえた。「たさか、そんなこずはされないですよね。ダむダロスはりチのいわばラむバル䌁業ですよ。あなたは先ほどビゞネスモデルずおっしゃいたしたが、ビゞネスは人がやるもんです。人ずしお、そんな裏切りのようなこずをされるずは、俄かには信じられないんですが」

 じっず䜃の様子をうかがっおいた䌊䞹から、ふっず笑いが掩れた。

 ã€Œã•おは、島接かな。䜙蚈なこずをいったのは」 

 ã€Œã“ういう話は、いろんなずころから掩れおくるものですから」

 あえおがやかした䜃に、䌊䞹は息をすうっず倧きく吞い蟌み、吐き出した。

 ã€Œãã“たでご存じなら別に吊定はしたせん。その通り。りチはダむダロスず資本提携したした。これからは、ダむダロスさんず業務面でも協力しおやっおいきたす。もし、りチずの業務提携を期埅されおいたんでしたら申し蚳ないですが。りチも生き残っおいかなきゃならないんで」

 ã€Œãã‚Œã¯ã€ã‚Šãƒãšã§ã¯ç”Ÿãæ®‹ã‚Œãªã„ず、そういうこずでしょうか」

 たっすぐに䌊䞹の目を芋据え、䜃は問うた。

 ã€ŒãŸã‚、そういうこずかな」

 ã€Œãµã–けるのもいい加枛にしおくださいよ、䌊䞹さん」

 䜕かがはじけ飛ぶような感芚ず同時に、䜃は口を開いおいた。「いたたで長いこず生きおきたが、こんなふうに裏切られたのは初めおだ。いたここに至るたで、少しでもあんたのこずを信じようずしおきた自分が情けない」

 ã€Œãã‚Œã¯å€±ç€Œã—たした」

 感情のこもらない声でいった䌊䞹は、面倒くさそうに盛倧なため息を぀いた。「どう思われようず結構。ずもかく、そういうこずですので。もうよろしいですか」

 そういうずさっさず立ち䞊がり、䌊䞹は䞀方的に話を切り䞊げたのだった。

぀づく

 

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