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2016.3.22
オペラを切り口に、AKB48、EXILEから韓流ドラマまでエンタメの歴史をぶった切る! 『メロドラマ・オペラのヒロインたち』
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今では、高尚な「芸術」に格上げされてしまったオペラというかつての芸能を、思い切りベタに、ミーハーに、同時代風俗的に、芸能記事的に、そしてメロドラマチックに読み直してみたい、そうやってこそ見えてくる逆説的な深さの次元だってあるはずだ。
本書はこの前提から出発するオペラ賛歌である。著者は『オペラの運命』『西洋音楽史』など、クラシック界では異例のベストセラーを放ってきた岡田暁生。今回の切り口は、ずばり「メロドラマ」、そして「ヒロイン」だ。
「『オペラを観るためにはどんな勉強をしたらいいですか?』と尋ねられるたび、私は『別にオペラなんて難しいものじゃないですよ、あれはある種のハリウッド映画とそう変わらないものですから』と答えることにしている。観るものを理屈抜きで酔わせ、ヒロイックな気分にさせ、そして泣かせてくれる。要するにメロドラマなのだ」
NHK Eテレ『スコラ 坂本龍一音楽の学校』出演でも知られる著者が、軽快に語り、まったく退屈せず、初心者でも一気に読めるオペラ入門書に仕上がっている。
著者によると「メロドラマ」の語源は「メロディ」+「ドラマ」で、もともとは音楽劇=オペラを指す。本来オペラとは「大衆が喜ぶたわいない恋愛劇を音楽で盛り上げたもの」であり、映画やTVドラマと同じように「小難しく構えず、いかに素晴らしい音楽を味わい尽くすか」、これこそがオペラの鑑賞術に尽きるのだ。
内容はワーグナーの楽劇から映画『ゴッドファーザー』まで、硬軟にわたり約20作品を紹介。音楽史に沿って、ヴィオレッタ(『椿姫』)ブリュンヒルデ(『ワルキューレ』)トスカ(『トスカ』)らオペラ黄金時代のヒロインを中心に、ハリウッド映画の金字塔であるスカーレット(『風と共に去りぬ』)、戦後日本の象徴ともいえるマドンナ(『男はつらいよ』『釣りバカ日誌』)まで、"女神"(女主人公)の魅力をたっぷり解説している。
さらに、韓流ドラマからAKB48のアイドル論に至る分析力は圧巻だ。
「メロドラマは近代にあって行き場を失った宗教的情熱のはけ口なのだ。ポストモダン段階に入ってメロドラマを構造的に生み出しえなくなっている社会にあってなお、例えば韓流ドラマといった形でそれを輸入してまでして、人はそれを調達する必要があるのである。AKB48だのEXILEだとかいったものもまた、行き場を失ったメロドラマ的情熱を何らかの形で吸い上げるブラックホールのようなものだろう」
昼メロにハマる感覚で、オペラを思い切りメロドラマとして楽しんでみてはいかが?
著/岡田暁生
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