編集・出版社営業・書店員・翻訳者が[ロボット・イン・ザ・ガーデン]を語ってみた。
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「まともな大人はしない冒険」に出たベンとタング
あと、メカ好きの人はポンコツロボットを拾うという設定もツボなのかも。
で、30ページ過ぎあたりから、タングを修理する為にカリフォルニアに飛ぶというベンに、そんな無駄な事はやめろとエイミーが噛みついて、暫く口論になる場面。
エイミーが呆れ半分、軽蔑半分に、ベンの計画に反対するところですね。《 まともな大人のすることじゃないわ 》って。
僕ら、毎日毎日、前年比だ坪効率だ人件費率だって、1円でも得することばかり考えてるじゃないですか。「そんなに効率って大事か?」と思わないこともないんですけど、現実を生きて生活していくためには止むを得ない。そういう窮屈な思いが普段からあるから、無駄な事に真剣になってるベンに対して、羨望みたいな気持ちを抱くのかも知れません。
『のび太の恐竜』もそんなとこありますよね。わざわざ恐竜の卵の化石掘り出して、孵化させて、更にわざわざ白亜紀の日本の海までさんざん苦労して連れて行くって、一体何の得があるんだって。だけど、そういう利害損得を抜きにした行動だからこそ響いてくる事ってのがある。
そうですね。最近息子がドラえもん好きになったので、久しぶりにここ10年くらいのドラ映画を観ていますが、のび太たちの冒険を観てるとなんだか羨ましくなる。
そりゃまぁ、羨ましいですね。
大抵夏休みのある数日間の冒険を描いてますが、それを観ながら子どもの頃みたいにワクワクすると同時に、大人になった自分はもう二度とあんな冒険は出来ないんだなあという事に気づいてしまって、何とも言えない切ない気持ちになる。
あぁそういう事か。すごく解ります。
もうそんな長い夏休みは二度とないだろうし、家族もいてやるべきことがたくさんある。いかに効率よく日々の仕事や家事を回すかということで一杯の自分は、とても冒険なんてできない。
切ないっつーか、残念っつーか、淋しいですよね。
ところがベンは大人になってその冒険をするわけなんですよね。それは、子ども時代のように何にも囚われず冒険してみたいという自分の満たされない願望を代わりに叶えてくれているような気もします。
やりたいことを純粋にやれる憧れはありますね。
でもまあ、現実に家庭を維持するとなるとそうもいかない。女性の方が現実的なので、やっぱり夢とか冒険心を諦めるのも早いんですよね。そういう意味では、エイミーにも非常に感情移入出来るんです。
なるほど。
ベンは現実生活を回していく役回りを全てエイミーに任せて、自分は冒険しようとしているわけですから。それは彼女からしたらズルい! という気持ちにもなりますよね。
なんか、男性陣、旗色が悪くなってきましたよ(笑)。耳が痛い話ですね(笑)。
ネット上の感想でも、ベンのダメ男ぶりに前半はイライラしたとか、親の遺産で旅していい身分だ、という人と、エイミー鬼嫁とか、二股かける倫理観が許せないという人と、はっきり分かれてますね。読む人の立場によって感情移入する側が分かれるのでしょうね。
そうかぁ、女性目線だとベンってそんなにイライラさせられるのか(笑)。そういう感覚は全く無かったなぁ。
とは言え、一人で勝手に子供のままの冒険旅行に行こうとしてるベンに、エイミーが腹を立てる気持ちも、うーむ、ナルホド無理からぬことですね。
あまりドラ話し過ぎると自社推しみたいでなんですが(笑)、親目線で観ると、のび太の小さきものへの優しさとか、こうと決めたら実はジャイアンよりも強い頑固さ、どんなに馬鹿にされてもやり遂げる強さとかは人として最大の美点だとも思います。勉強やスポーツが多少出来なくても、我が子にもこうなってほしいと思えるところですよね。
ベンはまさに大人ののび太で、だからこそ効率重視の妻にはなかなか気づけないタングの魅力に気づけた訳で。そういう意味では、それぞれの目線に立ってみるとそれぞれ共感できる物語になってるんですね。
あと、若い人にはわからないかもしれないけれど、『E.T.』ですね! 一見グロな容姿のE.T.が見ているうちにどんどん可愛くなり、やがて彼の虜になってしまうところなんて、タングにすごく似てますよね。本国よりも日本で売れているのは、ドラえもんとかE.T.とかがDNAに埋め込まれた世代の支持も大きいかな、と勝手に思ってます。

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