私は夜行をこう読んだ! 皆さまの声 森見登美彦氏が特に唸ったベスト10公開中!
受賞作タイトル

「夜行」と「曙光」は鏡のように反射する表裏一体のものだと仮定する。鏡の表で右手を上げれば、鏡の裏では左手を上げる。例えるならば「夜行」は右手「曙光」は左手になると考える。「夜行」では長谷川が消え、「曙光」では大橋が消える。二つの失踪が表裏一体の関係なのだ。

しかし、「夜行」の世界は普通ではない。中井、武田、藤村、田辺が不気味な話の結末を曖昧にさせているにもかかわらず、誰一人疑問に感じていない。中井の人殺しらしからぬ行為にも誰も触れない。このことから考えられるのは、「夜行」は死後の世界であるということだ。死人は死に方に関心を持たないのである。つまり死んだ自分(「夜行」)と生きている自分(「曙光」)が鏡を挟んで存在しているのだ。

二つの作品はどちらの世界でも柳画廊に展示されている。柳画廊は「夜行」と「曙光」の間にある鏡の道となっているのだ。そのせいで「夜行」の世界の画廊を訪れた大橋は「曙光」へ、そして「曙光」の世界の画廊に訪れると「夜行」へ移動したのだ。では「夜行」の長谷川と「曙光」の大橋はどこに失踪したのか。四十八作品を描いた岸田はこう言っていたという。「五十作まで描いたら冒険の旅に出るかな」

「夜行」の大橋は画廊に女性が来なかったかと柳に尋ねるが、彼は怪訝そうな顔で「いいえ」と答えた。香の匂い、乳白色の壁、別世界のような画廊の衝立の奥には残り二作が置いてある。柳は嘘をついている。

 『夜行』の世界の構造について、「生者の世界」と「死者の世界」の合わせ鏡、というアイデアで読み解いていただきました。右手と左手の喩えは想像を刺激します。そして締めくくりの部分は「柳画廊」の衝立の向こう側へ我々を誘い、新しい小説の開幕を感じさせます。おもしろい。

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