彼女は、“噂”という、 炎に燃やされた。 人はなぜ、 大きな事件に 魅了されてしまうのか。
25年前の夏、
平穏だったはずの地方都市は、
百貨店受付嬢誘拐殺人事件の発生、
その報道により揺り動かされ、
「噂」という大量の炎が降り注ぎ、
燃えさかった。
ようやく静けさを
取り戻したかに見える町に
燻り続ける因縁が、
いま新たな事件を呼び起こす――。
「もう言われてるよ!
どうせ、
親が殺したんだろうって!」
言葉に怯み、気圧された。
目を見開き、絵梨を見つめる。
赤い目で忠治を見つめ返す娘は、
泣いてはいなかった。
「もう言われてる! 知ってる!
この家が、二度も
こんな目に
遭うのはおかしいって、
親や家族に絶対に何かあるって、
みんな言ってる」
――本文より
大きな事件は人を魅了してしまう。
「地元だから知っているんだけど
実は…」
「友達の友達が
関係者で聞いたんだけど」
「あの被害者って本当は…」
なぜ、〝私たち〟は
こうも事件にかかわりたいのか。
そのことをいつか小説で書くなら私が書きたいと、ずっと願ってきました。
タイトルは『ファイア・ドーム』。
振り動かせば雪が舞い散る
スノー・ドームに眠る街に似た、
山間の地方都市が舞台です。
その街の底には、
普段は見えないけれど、
振り動かせば炎が沈んでいる。
過去に起こった誘拐殺人事件に
まつわる噂が、その炎です。