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2022.8.8
手嶋龍一が満を持して放つ、最高機密級のインテリジェンス小説!『武漢コンフィデンシャル』
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キーワード: 小説 インテリジェンス小説 ウイルス パンデミック 国際 歴史 手嶋龍一
感染爆発は革命の聖地から始まった!
新型コロナウイルスの「発生源」として世界を震え上がらせた武漢は、中国革命の地にして、国共内戦の要衝でもあった。
十歳でこの地に流れ着いた李志傑は、己の才覚を頼りに動乱の時代を駆け抜けたが、文革の嵐に見舞われ、家族は国を追われてしまう──。
それから五十年後、李一族の「業」は、MI6の異端児スティーブン・ブラッドレーと相棒マイケル・コリンズを巻きこみ、〝謀略の香港〟に沸き立った。
«死神が再び診療所にやってきた時には既に陽が落ちていた。顔色はもう土気色で、立っているのも辛そうだった。
「重度の肺疾患だ。明日仕事に行けば命は保証しかねる。栄養注射と点滴は打ってやる。だが、肺のほうは手の施しようがない。あんたはどこからこんな病を貰ってきたんだ」
男の仕事場は漢口駅の北側にある建設工事現場だった。屋外なら飛沫感染した可能性はそう高くない。聞けば、家賃が月四百元という木賃宿の一部屋に四人の農民工とひしめくように暮らしているという。
「同居している連中の様子はどうだ」
「そう言えば、仲間のひとりは二日前から咳き込んで寝込んでいる。熱もあるようだが、体温計がないので測っちゃいない。劉大夫のところに連れてこようとしたんだが、休んでいればこれしきの風邪なら治ると言ってきかない。ほんとうは注射代が惜しいんだ」
「その男も建設現場で働いているのか」
「いや、駅の南側の華南海鮮卸売市場で野生動物を商っている。ほら、東区にアナグマの皮を剥いで鉤に吊して並べている店があるだろう。あそこだよ」
劉医師はSARSの論文を思い浮かべ、ふつふつと沸き起こる恐怖心をどうにも制御することができなかった。死神に解熱剤を渡して追い返した。
劉一達は看護助手を呼んで、しばらく診療所を休むことにすると告げた。
この街を未曽有のパンデミックが襲いかかろうとしている。
彼は急に寒気を覚え、歯をがたがたと震わせた。この悪寒は謎のウイルスに侵されたせいなのか、それとも未知の感染症への底知れぬ懼れのゆえか――。
偽医者にして名臨床医の劉一達にも見立てはつかなかった。»
(本書「プロローグ」より)
感染爆発は、なぜ武漢から始まったのか?
インテリジェンス小説の巨匠が満を持して放つ衝撃作にして、「ウルトラ・ダラー」シリーズ最高傑作!
「『武漢コンフィデンシャル』の装丁も鈴木成一デザイン室が手がけてくださった。鈴木さんはいつも決まって「まずゲラを拝読してから――」と言い、作品を読み終わるまで引き受けてくれるのか分からない。著者にとって、この人が最初の関門なのである。
本作は長江流域に広がる要衝、武漢が主な舞台である。近代中国の黎明を告げた辛亥革命はここから鬨(とき)の声をあげた。娼館、戯館を配下に収める無頼の徒、李志傑(りしけつ)は、国共内戦から中華人民共和国の誕生まで、激動の現代史を長江の畔で駆け抜けていった。
やがて文化大革命の嵐が全土に吹き荒れ、若き日の李志傑が心を通わせた劉少奇の実権派に紅衛兵が牙を剥く。両派の主戦場となったのも武漢であり、1966年7月、毛沢東はこの地に姿を見せて長江を泳ぎ渡り、健在ぶりを誇示して文革派に勝利を引き寄せた。
本書の表紙は、物語の縦糸となる長江を象徴する泥色で染めあげられている。一方で、武漢発の新型コロナウイルスはドラマの横糸となっているのだが、感染爆発の文字が本の帯に躍っているだけでその姿は見えない。
類い稀なクリエーターは、手ごわい読み手でもあり、陰の主役を表紙の裏側にあたる見返しにそっと埋め込んだ。〝遊び〟と呼ばれる左側のページと共に淡い空色を配している。読者はやがてこの〝天青色〟が重い意味を持ってくることに気づくだろう」(著者)
『武漢コンフィデンシャル』についての著者コラムはこちら▶▶▶https://shosetsu-maru.com/yomimono/essay/wuhanconfidential
〈目次〉
プロローグ
第一部 禁断の扉
第二部 マダム・クレアの館
第三部 蝙蝠は闇夜に飛び立つ
第四部 約束の地
エピローグ
著/手嶋龍一
【著者プロフィール】
手嶋龍一(てしま・りゅういち)
作家・外交ジャーナリスト。NHKワシントン支局長として2001年の9・11テロに遭遇し、11日間の24時間連続中継を担当。独立後に上梓したインテリジェンス小説『ウルトラ・ダラー』がベストセラーに。続編に『スギハラ・サバイバル』、スピンオフ作品に『鳴かずのカッコウ』がある。
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