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2017.11.22

この作品に魂を!「小説X」タイトル募集のお願い!!(第1回)

この記事は掲載から10か月が経過しています。記事中の発売日、イベント日程等には十分ご注意ください。

この作品に魂を!「小説X」タイトル募集のお願い!!(第1回)

3度読み必至のミステリー「小説X」。全文をためし読みしてタイトルを付けてください!!

 

『六枚のとんかつ』シリーズ、『ふつうの学校シリーズ』で有名なミステリー作家・蘇部健一(そぶけんいち)氏の書き下ろしミステリ-作品を、なんと発売前に期間限定で全文無料公開します。

 

そして、そのタイトルを一般公募することが決定!!

 

作者は、時給1000円の牛丼屋で働きながら、執筆活動を続ける蘇部健一氏。

今回彼から編集部に届けられた原稿は「ラスト一行に命を懸けました!!」という弁の通り驚愕もの。担当編集者は、イッキ読みした後、3度読み返してしまったほどの力作です。

しかし、蘇部さん。どうしても売れるタイトルが思い浮かびません。

ならば「いっそ皆様の力をお借りしてはどうか?」という編集部の提案にのっていただき、今回の企画がスタートしました。

 

まずは全文無料ためし読み!

1時間くらいで読める短い作品なので、通勤・通学の際に気楽に読んでいただければ幸いです。

その上で是非、みなさんの思いついたタイトルをご送付ください。

最優秀タイトルは実際の書名として採用し、賞金5万円を差し上げます!

 

どうか蘇部さんを助けてください!

 

■全文を読む、タイトル応募はこちらから

 

『小説X』ためし読み 第1回

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 プロローグ

 はじめてのキスの余韻がまだ残っていた。

 すでに日はすっかり落ち、ふたりの乗った車は、人けのない郊外の道を走っている。

 照れ臭いのか、音楽のかかっていない車内には、先ほどから会話もまったくない。

 彼女は、彼とはじめて出逢った日のことをふり返った。

 最初は、よく道ですれちがうだけの、ただそれだけの関係だった。

 それが、ある出来事をきっかけにして、ふたりはすれちがうとき、「おはようございます」と声をかけ合うようになった。

 そして、さらに劇的な出来事を経て、ふたりはデートをするようになり、ついにきょう……。

 まさか、道ですれちがうだけの名も知らぬ男性と、こんな素敵な時間を過ごせるようになるだなんて、彼女は夢にも思わなかった。

 だが、いつまでも、そんな甘い思い出に浸っている場合ではない。彼女にはこれから、彼の家ではじめての手料理をふるまうという大仕事が待っているのだ。

 はたして彼は、彼女の作る麻婆豆腐をおいしいと言ってくれるだろうか。

 

 そのとき、奈子の携帯電話が、メールの着信を告げるメロディを奏ではじめた……。

 

 第1章

 朝八時二十分にはじまる一限の授業をとったのは失敗だった。

 九月半ばの水曜日の朝、奈子はあくびをかみ殺しながら、朝霞台の駅に降り立った。

 夏休み気分がまだ抜けないため、朝が苦手な彼女にとって、七時半に起きるのは苦痛以外の何物でもない。しかし、第二外国語のフランス語の先生は、出席をきちんととるうえ、遅刻にもきびしいので、寝坊するわけにはいかない。

 河村奈子は、朝霞台にある女子大学に通う二年生。駅から五分ほど歩くと、黒目川にかかる水道橋が見えてくる。その橋を渡って、ちょっと行ったところに、彼女の大学がある。

 水道橋なんて、味も素っ気もない名前だが、長さ五十メートル、幅七メートルほどの橋は、周囲の美しい景観とマッチしていて、彼女は気に入っていた。

 水曜の朝はいつも、橋の手前側で、ひとりの老人が手すりから釣り竿を垂らしている。足元にはバケツが置いてあるが、この川で本当に魚が釣れるのかどうか、彼女は怪しいと思っている。かといって、そばまで行き、バケツの中を覗き込む勇気もない。

 老人のうしろを通り過ぎ、橋の中ほどにさしかかったところで、向こうから若い男性が歩いてくるのが見えた。

 と同時に、奈子は、けさ、お気に入りのミニーマウスのTシャツを着てきたことをはげしく後悔した。

 なぜなら、その男性は、そのミニーマウスと対になるような、大きなミッキーマウスがプリントされたトレーナーを着ていたからである。

 彼女は当然、そんなことには気づかないふりをして、そのまま通り過ぎようとした。

 ところが、ふたりの距離が近づくにつれ、彼の容姿が驚くほど整っていることに気づいた。

 背はそれほど高くなかったが、色白でつぶらな瞳をした彼は、まるで男性アイドルかと思えるくらいの美少年だった。それでいて、浮ついたところは少しもなく、きりりとした眉と引き締まった口元は、生まれ持った気品と知性を感じさせる。

 奈子は、ほぼ同じデザインの服を着た男性が、なぜよりによって、こんなにかっこいいのだろうと、内心ため息をついた。

 すれちがう瞬間、彼のほうでも、彼女のTシャツに気づいたようだった。

 かすかに彼が微笑んだように見えたが、あるいは気のせいだったかもしれない。

 だが、彼の見た彼女の顔が、真っ赤に染まっていたことだけは、ぜったいにまちがいなかった。

 暑さはまだ一、二週間つづきそうだったが、このTシャツを着ることは二度とないだろうと思いながら、奈子は大学への道をとぼとぼと歩いていった。

 

 恥ずかしい思いはしたものの、翌日から奈子は、またあの素敵な男性とすれちがうのではないかと、密かに期待しながら学校へ通いつづけた。

 もしかしたら、これまでにも何度かすれちがっていたのに、相手の存在に気づかなかっただけなのかもしれない。

 いずれにしろ、朝の早い時間に、駅に向かって歩いていたということは、彼はこのあたりに住んでいるのではないか。

 だとしたら、ほかの曜日はともかく、また水曜日の朝、仕事か学校へ向かう彼とすれちがう可能性は充分にあるはずだった。

 しかし、そんな予想とは裏腹に、それから三週間、奈子は、彼と一度もすれちがわなかった。

 ただ、どうせ彼と再会したところで、ふたりのあいだに恋が芽生えるなんて都合のいいことは起こるはずもないのだが……。

 奈子はそう考えて、彼のことを忘れようとした。

 

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