神保町シアター

S11('36)／PCL／白黒／スタンダード／1時間28分

■監督：山本嘉次郎■原作：夏目漱石■脚本：小林勝■撮影：唐沢弘光■音楽：紙恭輔■装置：久保一雄■出演：丸山定夫、徳川夢声、藤原釜足、宇留木浩、千葉早智子、英百合子

偏屈な英語教師・苦沙弥先生(丸山)の家を訪れる風変わりな面々を描いた、漱石の小説第一作、最初の映画化。エノケン喜劇を連発していた時期の山本監督の洒脱なユーモアセンスが光る。美学者・迷亭役の夢声が、場をさらう面白さ。

S25('50)／新東宝／白黒／スタンダード／2時間21分

■監督：阿部豊■原作：谷崎潤一郎■脚本：八住利雄■撮影：山中進■音楽：早坂文雄■美術：進藤誠吾■出演：高峰秀子、轟夕起子、山根寿子、花井蘭子、河津清三郎、田崎潤

谷崎の長編小説初の映画化で、大阪・船場の旧家で育った美しき四姉妹の人生模様を、四季の移ろいを交えて華やかに描く女性映画。花井、轟、山根、高峰ら名女優達が織り成す文学的情緒は、同原作の数ある映画化の中でも最高の作といえる。

＊デジタル上映

S13('38)／東宝東京、前進座／白黒／スタンダード／1時間46分

■監督：熊谷久虎■原作：森鴎外■脚本：熊谷久虎、安達伸男■撮影：鈴木博■音楽：深井史郎■装置：北猛夫■出演：河原崎長十郎、中村翫右衛門、山岸しづ江、堤真佐子、山崎進蔵、市川莚司

藩主の死に臨み、殉死を許されなかった阿部家の武士がたどる運命とは――。鴎外の短編小説を原作に、忠義と家名に引き裂かれる武士社会の悲劇を描いた歴史映画の名作。時代劇に新たな風を吹かせた、前進座の名優たちが素晴らしい。

S17('42)／東宝／白黒／スタンダード／1時間48分

■監督：マキノ正博■原作：泉鏡花■脚本：小国英雄■撮影：三浦光雄■音楽：鈴木静一■美術：久保一雄■出演：長谷川一夫、山田五十鈴、古川緑波、高峰秀子、山本礼三郎、進藤英太郎

お蔦・主税の悲恋を描き、新派でも舞台化されて人気を博した鏡花の原作を、山田五十鈴・長谷川一夫の名コンビで映画化した文芸大作。マキノの情感豊かな演出の下、息の合った二人の名演技が涙を誘う。可憐な高峰もお見逃しなく。

S28('53)／東京映画／白黒／スタンダード／1時間51分

■監督：丸山誠治■原作：夏目漱石■脚本：八田尚之■撮影：山崎一雄■音楽：渡辺浦人■美術：島康平■出演：池部良、岡田茉莉子、小沢栄、森繁久彌、多々良純、浦辺粂子

四国・松山に赴任した新任教師・坊っちゃん(池部)は、その一本気な性格から揉め事が続き…。同原作の数多い映像化作品の中でも、爽やかな池部を筆頭に、マドンナの岡田、赤シャツに森繁など、適材適所の配役で文句なしの好篇。

S32('57)／松竹大船／カラー／シネスコ／1時間43分

■監督：中村登■原作：井伏鱒二■脚本：椎名利夫■撮影：生方敏夫■音楽：黛敏郎■美術：熊谷正雄■出演：岡田茉莉子、佐田啓二、花菱アチャコ、西村晃、伊藤雄之助、小林トシ子

アパートの家主が急死し、借金の精算と残された子の行く末を案じた住人代表が、踏み倒された家賃の"集金旅行"へと出かけるが…。男女二人の珍道中を描いた、最高に洒落の効いたロードムービーの傑作。岡田のチャーミングさも絶品！

S35('60)／大映東京／白黒／シネスコ／1時間31分

■監督：瑞穂春海■原作：吉行淳之介■脚本：長瀬喜伴、瑞穂春海■撮影：秋野友宏■音楽：池野成■美術：高橋康一■出演：川口浩、弓恵子、川崎敬三、宮川和子、三宅邦子、岸田今日子、東野英治郎

『原色の街』『砂の上の植物群』など、モダンな作風で人気だった吉行淳之介の同名小説を映画化。ドン・ファンだった亡き父に憧れながらも、もぐりのタクシーで生計を立てる冴えない男の恋愛修行。川口と川崎のコミカルな絡みは絶品！

S38('63)／松竹京都／カラー／シネスコ／1時間45分

■監督：中村登■原作：川端康成■脚本：権藤利英■撮影：成島東一郎■音楽：武満徹■美術：大角純一■出演：岩下志麻、宮口精二、長門裕之、吉田輝雄、早川保、柳永二郎、浪花千栄子

祇園祭の夜、商家の娘・千重子(岩下)は、自分と瓜二つの村娘に会うが…。京都の美しい四季を背景に、一人二役の岩下が絶品。川端の代表作を、名匠・中村登が細やかに紡ぎ、アカデミー外国語映画賞の候補作にも選ばれた。

S30('55)／日活／白黒／スタンダード／2時間2分

■監督：市川崑■原作：夏目漱石■脚本：猪俣勝人、長谷部慶治■撮影：伊藤武夫、藤岡粂信■音楽：大木正夫■美術：小池一美■出演：森雅之、新珠三千代、三橋達也、安井昌二、田村秋子、北林谷栄

美しい妻(新珠)と暮らす野淵先生(森)を慕う日置(安井)は、先生からの手紙で、秘められた過去を知る。異才・市川崑が漱石の名作を、丹念に映画化。深い闇を宿した先生の森、無邪気な妻の新珠らが複雑な心理を巧みに表現した。

＊デジタル上映

S35('60)／松竹京都／カラー／シネスコ／1時間38分

■監督：五所平之助■原作：井上靖『通夜の客』■脚本：八住利雄■撮影：竹野治夫■音楽：芥川也寸志■美術：平川透徹■出演：有馬稲子、佐分利信、丹阿弥谷津子、乙羽信子、高橋とよ、川口京子

名匠・五所監督が、本作と『白い牙』(60')『猟銃』(61')と連続して手掛けた井上文学三部作の第一作。急死した男の通夜に現れたひとりの女――陰ながら男を愛し尽した女の情念が艶やかに描かれる。女ざかりの有馬が好演、代表作の一本とした。

S38('63)／日活／白黒／シネスコ／1時間39分

■監督：森永健次郎■原作：太宰治『葉桜と魔笛』■脚本：須藤勝人■撮影：松橋梅夫■音楽：渡辺宙明■美術：西亥一郎■出演：吉永小百合、芦川いづみ、浜田光夫、宮口精二、岡村文子、小高雄二、進千賀子

病床に伏す少女(吉永)に届けられる無数のラブレター。その束を見つけた姉(芦川)は…。姉妹の儚い青春時代が、今は老女となった姉の目線で語られる回想譚。吉永の無垢な魅力と、芦川の慈愛に満ちた眼差しに心打たれる佳篇。

S44('69)／日活／パートカラー／シネスコ／1時間56分

■監督：浦山桐郎■原作：遠藤周作『わたしが・棄てた・女』■脚本：山内久■撮影：安藤庄平■美術：黛敏郎■音楽：横尾嘉良、深民浩■出演：河原崎長一郎、浅丘ルリ子、小林トシエ、小沢昭一、加藤武、岸輝子、辰巳柳太郎

上司の姪(浅丘)との結婚を控えた吉岡(河原崎)は、自堕落な学生だった頃に弄んだ女・ミツ(小林)の、その後の不遇な人生を知り、苦悩するが…。数奇な運命を受け入れ、崇高な愛に生きた女と、彼女をめぐる人々との愛と再生の物語。

S30('55)／東宝／白黒／スタンダード／1時間21分

■監督：中川信夫■原作：夏目漱石『三四郎』■脚本：八田尚之■撮影：玉井正夫■音楽：斉藤一郎■美術：北猛夫、清水喜代志■出演：山田真二、八千草薫、笠智衆、土屋嘉男、岩崎加根子、江原達怡、金子信雄

九州から上京した大学生・三四郎(山田)の、新たな世界での出会いと美禰子(八千草)への恋心…。一人の若者の成長を、ユーモアを交えながら軽やかに描く中川監督の手腕が見事。透明感をたたえた八千草の美しさに目を見張る。

S24('49)／新東宝／白黒／スタンダード／1時間9分

■監督：島耕二■原作：太宰治『グッド・バイ』■脚本：小国英雄■撮影：三村明■音楽：鈴木静一■美術：下河原友雄■出演：森雅之、高峰秀子、若原雅夫、清川玉枝、江川宇礼雄、藤間紫、清川虹子

太宰の絶筆となった未完の連載小説『グッドバイ』を映画化した恋愛喜劇の名品。色男の田島(森)は、身勝手な理由から四人の愛人を清算しようと、ニセの恋人(高峰)を仕立てる作戦に出るが…。高峰のコメディエンヌぶりに脱帽！

＊デジタル上映

S42('67)／日活／白黒／シネスコ／1時間39分

■監督：蔵原惟繕■原作：三島由紀夫■脚本：藤田繁矢、蔵原惟繕■撮影：間宮義雄■音楽：黛敏郎■美術：千葉和彦■出演：浅丘ルリ子、中村伸郎、山内明、石立鉄男、楠侑子、小園蓉子、紅千登世

豪農の未亡人・悦子(浅丘)は、夫亡き後、義父と関係を持ちながらも、使用人の三郎(石立)に心惹かれていた…。肉体の欲望と愛との葛藤に苦しむ女の、情念の物語。浅丘が大胆な芝居でエロティシズムに挑んだメロドラマの傑作。

S44('69)／東宝／カラー／シネスコ／1時間35分

■監督：豊田四郎■原作：芥川龍之介■脚本：八住利雄■撮影：山田一夫■音楽：村木忍■美術：中古智■出演：中村錦之助、内藤洋子、仲代達矢、大出俊、天本英世、沢村いき雄

権勢を誇る堀川の大殿(中村)は、当代随一の絵師・良秀(仲代)に寺院の壁面に極楽図を描くよう命じるが…。芥川の名作短編を、豪華絢爛な色彩美で描きつくす平安絵巻。錦之助と仲代の、狂気すら感じさせる演技戦は鳥肌もの。