神保町シアター

これまでの特集企画

没後四十年 成瀬巳喜男の世界

※ニュープリント=今回の上映のために新たに作成したプリントです。


1. 歌行燈

戦時の統制の中で、明治の芸道ものに挑み、見事な大輪を開かせた作品。勘当され落ちぶれた能役者の復活を描く。

2. 芝居道

人気に慢心した役者を立ち直らせる恋人と興行師の物語。戦争末期とは思えない豪華なキャストと美術が見ものの芸道もの。

3. めし

倦怠期の夫婦の生活が不意に現れた姪によってかき乱される。大阪の路地裏の繊細な日常描写が凄い。戦後の復活とされる作品。

4. 山の音

鎌倉を舞台に、冷淡な夫に耐える妻と、それを見守る義父との間に芽生えるほのかな恋愛感情を描く。垣根が続く門前の道のセットも見事。

5. 驟雨

東京郊外の文化住宅に暮らす夫婦と、その周囲の人間模様を時代風俗を交えて活写する。日常の小事件の連なりが楽しい。

6. 鰯雲

厚木郊外の農村を舞台に、若者たちと親の世代の対立を、美しい戦争未亡人を媒介に描く。昭和30年代の農村風景が懐かしい。

7. 女の中にいる他人

思いがけず殺人を犯した男と、それを知った妻の行動を描くスリラー。成瀬には異色の題材を緻密な家庭劇に昇華した作品。

8. 乙女ごころ三人姉妹

成瀬のトーキー第一作。門付け芸人の厳しい母に育てられた姉妹の愛情を綴る。浅草と隅田川の風景が鮮かに記録されている。

9. 女人哀愁

親の薦めで見合い結婚した女が、冷たい家庭の中で自立を決意するまでを描く。古風に見えながら、芯の強い女を入江が好演。
※ニュープリント

10. お国と五平

夫の仇を追ううちに、若い従者と魅かれ合う女の物語。お国への恋慕から仇となった侍の卑怯未練なダメ男ぶりがおもしろい。

11. 妻の心

次男が継いだ老舗薬屋に失業した長男一家が加わり、微妙な立場になった妻が銀行員に魅かれていく。家族の心理の綾を自在に描く。

12. 杏っ子

幸福に育った小説家の娘が、作家志望の男と結婚するが、才能のない男は次第に粗暴になっていく。救いのない夫婦生活を凝視する。

13. 女の座

長男の未亡人を主人公に、老父の危篤騒ぎで遺産の胸算用を始める子供たちの人間模様を鮮かに描き出す。東宝オールスターも魅力。

14. 放浪記

林芙美子の自伝小説の映画化。高峰はその女優歴の中で本作を最高の達成としている。波瀾万丈の生涯を送った才能豊かな女の一代記

15. まごころ

小学校の親友同士が、親たちの過去に戸惑う。アンニュイな雰囲気を宿す母子家庭の少女と、裕福な家のお転婆少女の造形が素晴しい。
※ニュープリント

16. 石中先生行状記

津軽在住の小説家石中先生を狂言廻しに、3組の男女が結ばれる様をオムニバス形式で描く。珍しく牧歌的な抒情を見せる成瀬演出。

17. 銀座化粧

小学生の息子をかかえ、銀座のバーで働く女を主人公に、盛り場と下町の人間模様を綴る。戦後初めて挑んだ得意の風俗もの。
※16mmで上映

18. おかあさん

下町のクリーニング屋を切り盛りする母と子供たちの物語。脚本の水木洋子が初めて成瀬作品に登場。繊細な日常描写が感動を呼ぶ。

19. くちづけ

成瀬が製作も手がけたオムニバス映画で、第三話「女同士」を演出。夫に恋心を抱いている娘に、妻が一計を案じる楽しい作品。

20. コタンの口笛

北海道のアイヌ集落で父と暮らす姉弟を主人公に、下積みを強いられる少数民族の静かな怒りを雄大な風景の中で描きだす。

21. 秋立ちぬ

母が住込み女中になり、親戚の八百屋に預けられた少年のひと夏の物語。終幕のカブトムシの挿話が忘れられない抒情を奏でる。

22. 秀子の車掌さん

記念すべき成瀬&高峰の第一作は、甲府ロケで描かれる牧歌的な小品喜劇。少女スターデコちゃんの健気な車掌ぶりは感涙もの。

23. 夫婦

住宅難の東京に転勤してきた結婚6年目の夫婦の部屋探しと、やがて来る危機を描く。杉葉子は抜擢に応える好演を見せる。

24. 妻

結婚10年目、冷えきった関係の夫婦を描く。夫の面倒を見ない怠惰な妻に幻滅した夫が、未亡人と関係したことから巻き起こる波乱。

25. 浮雲

戦中のインドシナで結ばれ、戦後の東京で再会した男女が曲折を経て屋久島に終着する。映画史上不滅の作品となった成瀬の代表作。

26. あらくれ

結婚を嫌い、親元から出奔した女の男性遍歴を綴る。大正時代に、自分の運命を自分で切り開こうとした気性の激しい女の一代記。

27. 女が階段を上る時

雑居ビルの二階にある銀座のバーを舞台に、ドライな戦後派のホステスたちを束ねる戦争未亡人のマダムの日常を綴る大ヒット作。

28. 乱れる

スーパーマーケットの進出に押される酒屋を切り盛りする未亡人が、一回り下の義弟に愛を告白される。メロドラマの極北。

29. 妻よ薔薇のやうに

孤閨をかこつ歌人の母のため、信州で愛人と暮らす父のもとを訪れた娘の見たものは。絶賛を浴びた成瀬のトーキー3作目。

30. 噂の娘

新橋烏森の老舗酒店を舞台に、しっかり者の姉と奔放な妹を描く。水上バスに乗った姉と、橋上の妹の視線が交錯する名場面がある。

31. 鶴八鶴次郎

喧嘩別れを繰り返す新内語りの男女の物語。東宝に移籍した長谷川と山田は、本作を起点に興行価値絶大の黄金コンビとして活躍。

32. 舞姫

バレリーナの妻と考古学教授の夫の家庭の危機を描く。岡田茉莉子が母と同じバレエの道を志す娘として映画デビュー。
※16mmで上映

33. 娘・妻・母

成瀬に顕著な金銭の主題が全篇を貫く辛口ホームドラマ。長女に原節子、長男の嫁に高峰秀子を配するなど豪華俳優陣に圧倒される。

34. 夜の流れ

製作者に名を連ねた成瀬の指名により、鬼才川島雄三との共同監督で描く花柳界の母と娘の愛憎劇。成瀬は母の世代の演出を担当。

35. 女の歴史

夫が戦死し、義母と一人息子を抱えた女の一代記。結婚から孫を抱くまでの25年間を自在な時間構成で描く庶民の昭和史である。

36. はたらく一家

下町の貧乏な子沢山一家で、職工生活から抜け出すため学校に行きたい子供たちと、今現在の生活を守りたい親の葛藤を描く。

37. 旅役者

日本一の馬の足を自称する三文役者が大切な馬のかぶり物を壊されてしまう。下積みの男を描いて美しい抒情を奏でる喜劇。

38. 晩菊

不動産と金貸しで小金を貯めた女を中心に、芸者あがりの4人の中年女のそれぞれの生活を描く。成瀬の独擅場といえる下町風俗劇。

39. 流れる

柳橋の芸者置屋の女たちの群像を、日本映画史上の超豪華キャストで描いた花柳界もの。『浮雲』と並ぶ成瀬の代表作である。

40. 妻として女として

愛人のバーの女に産ませた子供を家に入れ、妻に育てさせた放胆な男。長年先送りしてきた三者の関係が、ついに破局へと向かう。

41. ひき逃げ

5歳の息子をひき逃げで失った女と、己の身代わりに雇い人を自首させた女。被害者の女は、犯人の女の家に家政婦として入り込む。

42. 乱れ雲

交通事故で夫を失い、十和田湖畔の実家に帰った女が加害者の青年と再会する。成瀬の遺作となった哀切究まるメロドラマ。