2025.04.18

「第70回小学館漫画賞」の贈呈式が開催されました

第70回授賞式、社長による祝辞
式の冒頭、小学館代表取締役社長・相賀信宏による祝辞

 

◼︎審査員による白熱した議論の末、4作品が受賞

2025年3月3日、帝国ホテルにて、「第70回小学館漫画賞」の贈呈式が開かれました。受賞作・受賞者は、『これ描いて死ね』(とよ田みのる氏)、『灼熱カバディ』(武蔵野創氏)、『夏目アラタの結婚』(乃木坂太郎氏)、『ぷにるはかわいいスライム』(まえだくん氏)。受賞者には、正賞としてブロンズ像「みのり」(中野 滋・作)、副賞として100万円が授与されました。審査員を務めたのは、川村元気氏、島本和彦氏、曽山一寿氏、高瀬志帆氏、竜山さゆり氏、ブルボン小林氏、松本大洋氏の7名です。第68回までは児童向け、少年向け、少女向け、一般向けの4部門が設置されていましたが、昨年度よりその部門をなくして、幅広く選考を行なっています。式の冒頭、小学館代表取締役社長・相賀信宏は「今年も審査委員の先生方による、非常に白熱した議論が飛び交いました。その結果、素晴らしい4作品が受賞されることになりました。作者の皆さま、ご家族、関係者の皆さま、誠におめでとうございます」と祝辞を述べました。

 

◼︎審査委員による講評

「漫画を題材にした漫画として、傑作と言える」(松本大洋氏)

贈呈式に続いては審査委員による講評が行われました。松本大洋氏は『これ描いて死ね』について、「僕はこの作品が大好きです。そしてすべての審査委員が絶賛した作品でした」と満場一致で受賞が決定したことを伝えました。「この作品は、漫画を題材に描かれた漫画です。この審査をしている僕らも漫画を描いたり、漫画に関わったりしています。その全員が、この作品に対して優しい視線を注いでいるのが印象的でした。漫画制作に携わっていると、ときに苦痛を伴うことがあります。それまで自分を助けてくれていた漫画が、自分を苦しめるものになることもある。そのことを含めて、漫画家漫画としてほかと一線を画し、明るく描き切っているのが見事でした」と絶賛しました。

「倒れた人の立ち上がる姿が、熱く描かれている」(高瀬志帆氏)

『灼熱カバディ』について、「とにかくおもしろすぎて、言語化が難しい」とコメントしたのは、高瀬志帆氏。「カバディというマイナーなスポーツを題材にしたことの素晴らしさはもちろんのこと、がんばっている人もがんばることができない人も、すべての人が倒れたときにどう立ち上がるのか、そのことを熱く描いている作品だと感じました」と講評。「胸ぐらをつかまれ、引っ張られ、体と魂を丸ごと揺さぶられるような、まさにタイトルどおり〝灼熱〟を感じる作品でした」と語りました。

「何度読んでも面白い、緻密なミステリー」(島本和彦氏)

「自分を含め、漫画家はミステリーを描きたいと思うものです。ただ、誰が、どんなトリックを使って、何をするのか。さらにその背後にどういうテーマを貫くのか。そのことを考えると難易度が高すぎて難しい。でもそれらを美しく着地させ、かつ感動に導いているのが素晴らしい」と『夏目アラタの結婚』を称えたのが、島本和彦氏です。「最後のどんでん返しは、小説では味わえない漫画ならではのもの。犯人を知ってなお、作者は読者をどう罠にはめていったのか、ワクワクしながら読み直しました。一度読んで満足ではなく、何度も読み返したくなるミステリーは稀有ではないでしょうか」と称賛を送りました。

「ぷにるこそが、現代のヒーロでありヒロイン」(ブルボン小林氏)

ご自身の子供が『ぷにるはかわいいスライム』の大ファンだと述べたのは、ブルボン小林氏。「小学館漫画賞の選考を十数年やっていると、そのイズムのようなものを感じるようになります。それは『オバケのQ太郎』や『うる星やつら』などに通底している、クールさ、愉快さ、呑気さのようなもの。そしてこの作品こそがその現在進行形であり、ぷにるこそが今のヒーローでありヒロインでもあるのではないかと感じました。開けばそこに好きな誰かがいる、というのが漫画で、それがオバケでもなく、少女でもなく、現代はスライムである。そんなかわいくてコミカル、かつ深みのある世界観に惹かれました」と講評しました。

 

◼︎受賞者のことば

『これ描いて死ね』(とよ田みのる氏)

『これ描いて死ね』書影

「敬愛する松本大洋先生に講評していただいたことが光栄で、胸がいっぱいです。なぜ僕がここにいるんだろうと戸惑っています。今思い出したのですが、著名な漫画家の先生宅を訪ねたとき、ずらりと作品が並んでいて、アニメ化されたDVDも飾られていて、『すごいですね』と伝えたら、『たまたまだよ』とお答えになったんです。そんなはずはないだろうと思いましたが、また別の先生にお会いして、その先生の作品も多数メディア化されていたので『すごいですね』と伝えたら、また『運だよ』という答えが返ってきました。そんな先生方と自分を並べるのはおこがましいですが、僕がこの場に立つことができたのは、いろんな方の助けがあってこそです。自分が慢心しないためにも、今回の受賞は『たまたま』で『運だった』と思うことにします。落ち込んでいたときに声を掛けてくださった編集さん、拾ってくださった編集さん、今の担当編集さん、そしていつも僕のことを笑顔にしてくれる妻と娘、そして猫2匹に感謝を捧げたいと思います」

 

『灼熱カバディ』(武蔵野創氏)

『灼熱カバディ』書影

「まずはじめに、僕を育ててくれた両親、生活を支えてくれている家族、原稿制作を手伝ってくれているスタッフ、そして9年前から一緒に漫画をつくり、叱咤激励をしてくれている担当編集さんにお礼を申し上げます。この漫画は、インドの国技であるカバディを題材にした作品です。当初は、なんだか珍しくていいんじゃないかという単純な理由で連載を始めました。それが調べていくうちにこのスポーツはもっと評価されていい、と真剣に取り組むようになりました。そして今から4年前のこと、小学館漫画賞にノミネートしていただきました。そのとき僕は『この漫画は、ほかの王道スポーツ漫画と比べて遜色がないという自信がある。だから必ず賞を獲ります』と言いました。でも結果、獲れませんでした。そして今、またチャンスが巡ってきました。僕は今回も言いました。『必ず賞を獲ります』と。それが現実になりました。これからも不撓不屈の精神で、精進してまいります」

 

『夏目アラタの結婚』(乃木坂太郎氏)

夏目アラタの結婚書影

「私は20年前にもこの賞をいただいているのですが、当時同じ賞を受賞した曽山一寿先生が、今は審査委員席にいらして、この20年の重さと受賞の喜びを同時に噛みしめています。今回の連載は、細くて高い鉄塔をジリジリと登っているような、少しでも手を滑らせたら落ちてしまうような、そんなプレッシャーのなかでずっと描いてきました。この賞をいただいたことで、ようやく塔のてっぺんにタッチして戻って来られたような気がしています。塔を登りきるための力を与えてくださった方はたくさんいます。取材に協力してくれた方々、法律相談にのってくださった先生方、僕の細かくて神経質なリテイクに対して、嫌な顔せずに仕上げてくれたスタッフたち、最初の立ち上げから最終回まで、連載をずっと伴走してくださった担当編集さん、そして疲れ切った僕に温かな環境を用意して、人間らしい生活へと蘇らせてくれる妻と娘に、深く感謝します。この連載が終わる少し前、僕の故郷であり、この作品の舞台の一部にもなった能登で大きな地震がありました。今回の賞金は義援金として寄付させていただきます。このような機会を与えてくださった小学館にも深く感謝いたします」

 

『ぷにるはかわいいスライム』(まえだくん氏)

『ぷにるはかわいいスライム』書影

「『コロコロコミック』は、皆さん子供の頃に一度は手に取る漫画誌だと思います。児童向けというジャンルは狭く独立した場所で、数年で大半の読者が入れ替わることになります。子どもたちはときに残酷なぐらい正直で、私が子どもの頃に好きだったもの、いわゆる大人の私が昔を思い出してそのまま描いたものには反応しません。最新の流行りをキャッチしないと置いていかれる世界で、常に今の子どもにうける漫画とは何かを悩み、考えながら、真剣に漫画を描いてきました。この作品は『週刊コロコロコミック』という新しいWeb媒体の立ち上げとともに始まった連載です。大人も気軽にコロコロを読める場所ということで、〝大人にもわかりやすく〟児童向け漫画の良さを届けられたらいいなと思い、この作品を描き始めました。今回の受賞は、子ども向けってすごいところなんだと伝えられた気がして、すごくうれしい気持ちでいます。編集部の皆さま、アニメ化にあたって素晴らしい作品をつくりあげてくださったアニメ関係者の方々、自由に育ててくれた両親をはじめとする家族、そして友人たちに感謝を述べたいと思います」

 

審査委員と受賞者のポートレート

写真左から、川村元気氏(審査委員)、島本和彦氏(審査委員)、曽山一寿氏(審査委員)、『これ描いて死ね』とよ田みのる氏(受賞者)、竜山さゆり氏(審査委員)、ブルボン小林氏(審査委員)、松本大洋氏(審査委員)、高瀬志帆氏(審査委員)

 

【第70回小学館漫画賞審査の経過】

2024年中に雑誌、単行本、Web媒体などに発表された作品から選考。漫画作家、評論家、出版社、報道関係者、関係文化団体、書店および読者からの推薦作を収集の上、2024年11月8日に候補作品選出委員会を開き、15作家12作品を候補に選出。2025年1月17日に最終審査委員会を開き、厳正なる審議の結果、今回の受賞者・受賞作が決定した。

 

受賞作品の試し読みはこちら

歴代の受賞作品はこちら