STORY
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森雪之丞

死者は生きる
生き残った者達の心の中で
その者達が死者になるまで
瑞々しく

六月の雨の夜
あなたはここにいる
老いても美しかった
あの少し傲慢な笑顔で
友は爪を嚙む

風に煽られた雨粒が不意に窓を叩き
この時を待っていたかのように
私は友に詫びる
疎遠になってしまった最後の数年を
逢いたいのに逢わなかった複雑な感情を
病室で別れも告げぬまま
天国に逝かせてしまった不甲斐なさを
そして
私に激しく嫉妬させるほど
あなたの生き様は素晴らしかったと
そう言ってあげられなかった小さな自分を
私は死者に詫びる

けれど
赦しもせず 責めもせず
嘆くことも 諭すこともなく
ただ死者は囁く
生きていることの尊さを
沈黙という言葉で








森雪之丞

想えば近づいてくる気がして
思考の外に追いやってきた
悲しみを伴うその響きを
寄せつけないだけの若さがあった
祖母が叔父が友人が
生き物としての約定に従って消えても
違う世界の出来事だと思い込んでいた
だからとても時間が掛かった
それが『生』と同義語だと分かるまで

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