STORY
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森雪之丞

スニーカーで蹴りあげた身体を
サドルがしっかり受け止めた
一周一・七五キロのアップダウン
砧公園のサイクリング・ロードは今や
散った桜が景色に流れ浮かぶ
魔法の国に変貌している

ぐうっとペダルを踏み込む
そこにいた空気が不意に
風だったと正体を明かす
一つ目のカーヴへ
ためらわず預ける体重
待ちかねたように上がる速度

前方には積もった花びらが
漂泊の雲を真似て立ち込めている
迷わず突入
心が躍る
桃色が舞う
生きていることを歓迎されて
命が声をあげ喜んでいるみたいだ

四月は桜吹雪の中で
僕は勇気を取り戻す
こんな夢みたいな出来事が
この世界ではまだ起きるんだと
うなずきながらペダルを漕いで
僕は勇気を取り戻す








森雪之丞

公園のバード・サンクチュアリから
庭に遊びに来るシジュウカラやキジバト
お願いだから今年は
人間達にも残しておいてくれ
あの甘いブルーベリーの実を

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