STORY
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江國香織

いくつもの十一月が
しずかに行進してくる
薄闇のなかに
ぼんやりと白く

氷のようにつめたい指先で
私の頰をなでる
彼らは

彼らはわたしに思いださせる
とても遠くまできてしまったことを
戻る場所など
もうないことを
いくつもの十一月が

一列になって行進してくる彼らは
まるで冬木立のようだ








江國香織

赤いワンピースで夕暮れの街を歩くあなたを
どんなにあいしているかに気づいて
私はほとんど倒れそうになりました

あなたはヒールのない靴をはき
異国の街をすたすたと歩く
動物園で縞馬と虎とライオンを見たがり
蝶はべつに見なくてもかまわないと言う
バスルームに化粧品の壜をならべて
これでよしと言う顔をする
そこにいたのはまぎれもなく
私のよく知っていた子供
同時に私の知らない誰か

赤いワンピースで夕暮れの街を歩くあなたを
私は忘れないでしょう
幾つの朝をべつべつに目覚め
幾つの夜をべつべつに眠って
幾人の男が私たちを通りすぎても

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