STORY
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江國香織

この日々が航海ならば
私は五月の波を越えよう
その先に待っているのが
六月の波にすぎないとしても

じりじりと日にあぶられ
五月の日ざしの
紫外線含有量ときたら!
潮風が肌を刺し
海図の読み方など知らないとしても

すくなくとも水はある
どんなに喉が渇いても
海水をのんではいけないと
知っているから
大量に積み込んであるのだ

雨が降らなくても
突然誰かが遊びに来ても
流れついた犬や猫を全部拾いあげても
大丈夫なだけの水を








江國香織

身も世もなく恋をした果ての結婚も
なんとなくなりゆきで
気がついたらしていた結婚も結婚で
世界じゅうに結婚が
あふれ返っているのでした
たとえばこの
あかるい夏の夕暮れに

あの路地にもこのビルにも
結婚したひとたちが住んでいて
あの電車にもこのバスにも
結婚したひとたちが乗っていて
あの花屋でもこの八百屋でも
結婚したひとたちが働いている

続いていくそれも
破綻するそれも
みずみずしいそれも
かさかさのそれも
饒舌なそれも
寡黙なそれも
結婚は結婚で
世界じゅうに結婚が
あふれ返っているのでした
たとえばこの
あかるい夏の夕暮れに

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