編集・出版社営業・書店員・翻訳者が[ロボット・イン・ザ・ガーデン]を語ってみた。
6/9
愛おしさMAXになるタングの成長ぶり
あと、多い感想としては、「子育てはこんなにも男を成長させるんだ」というものもよく聞きます。私の大好きな堀江敏幸さんの『なずな』(集英社文庫)に《 守っているのではなく、守られているのだ 》といった一文がありますが、子育てすると本当にそのことを身をもって感じますよね。
この作品も、子育てによって親が育てられる、そして子どもがいることによって世間が優しく接してくれる=守られる、ということを、子どもの代わりにロボットで表現してくれているなあ、としみじみ嬉しくなります。
で、いよいよ壊れかけたタングを連れて、ベンがカリフォルニアに向けて旅立つ訳ですが。
この作品の一番の読ませどころ、ロードノベルの部分ですね。
と同時に、さっき杉江さんが言ったように、「成長」小説になるのもここから。
それと、友情。
もう、のっけから、旅が始まった途端にベン、タングに振り回されっ放しですよね(笑)。
貨物室じゃなくて客席に乗りたいって足踏みしながら主張したり、機内で何度も同じ映画を観たり(笑)。
そう、ちょっとした小ネタも本作の魅力のひとつですよね。タングがタッチパネル出来ないとか、ピース出来ないとか(笑)。
テキサスに向かう途中でダックスフントを拾うじゃないですか、ベンが。ストーリーの本筋に絡む訳ではないし、「無いと話が進まない」という部分でもないんですけど、ベンのお人好しな優しさが表れているようで好きな場面です。
あの場面でワンコにヤキモチを焼くタングも可愛いですよね~。自分がベンだったらたまらん、と思っちゃいます(笑)。
ホテルで出掛けるのがイヤだとごねてたのに、「おいで、ベン。遅刻だよ」とか、突然大人の指導口調が入るところとかも、子どもあるあるで、私はかなりツボでした。
そうか、「あるある」なんだ。そこから来る親近感が「翻訳もの」「外国文学」という垣根を自然に取り払ってくれてるんですね。
ベンがリジーに食事に誘われた直後、事態を飲みこめないベンが《 いったい何が起きたんだ? 》って独り言を言うと、タングがすかさず《 博物館の女の人に会った 》って、「いや、そりゃそうなんだけどサ(笑)」と一人でツッコミながら読みました。
そのまたすぐ後で、リジーの家の玄関の前で、挨拶の練習を繰り返すベンに、タングが《 ベン、何でドアと話してる? 》って(笑)。
こういう子ども目線がとてもナチュラルで、しばしば目にする「如何にも大人が考えた子どものセリフ」っていうわざとらしさが全然無い。
それとタングの言い間違い。「直す必要がある」と言うべきところを《 チップ、壊れてるって。直すが必要って 》と、実に自然に言い間違えたりする。こういうナチュラルなおバカさんぶりが、めっちゃ伝わってくる訳文だと思います。
ありがとうございます。ときおり飲食店や交通機関で見かける、親御さんを困らせているイヤイヤ期真っ只中のお子さんたちのお蔭です(笑)。
観察して翻訳に活かしたんですね(笑)。
私は、旅から戻ったタングがベンに朝食を作ってあげるシーンがすごく好きです。親に例えると、いつも自分が子どもの世話をしているつもりになっているのに、実は子どもが親を気遣ってなんとか役に立とうとしている、という姿。これはもう愛おしさMAXになるでしょう(笑)。
その時のタングの得意げな顔(笑)! 《 タングは階段の一番下で、まん丸に見開いた目をぱちぱちさせて、お茶用のトレイを僕に向かって差し出していた 》って、めっちゃ目に浮かぶ(笑)。
コンロに背が届かないから見えないのに、手だけ伸ばして卵をかき混ぜたんですよね。
でベンが《 タングに料理は厳しいというエイミーの指摘は正しかったが、自分の価値を示そうと、これほど健気に努力するアンドロイドはいない 》ってとこ、泣けます。
そのあとの、エイミーにサンドイッチを作ってあげるシーンもいいですよね。具でパンを挟むという斬新なサンドイッチが、じわじわきます(笑)。
イジけたりスネたりする時の、胸のガムテープをいじる癖なんかも、とてもリアルだ。
ベンと買い物に出かけたタングがエスカレーターで遊び出すシーンも大好きです。ベンの方を見てニンマリしながら下りのエスカレーターを下がっていく様子は想像するだけでおかしくて、訳していてもとても楽しいシーンでした。
ベンに「戻っておいで」って言われても、聞こえてない振りしたりするんですよね(笑)。

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