日本美術全集

全20巻

推薦者の言葉

村上 隆氏
村上 隆氏

「激動期の美術」の巻で狩野一信の『五百羅漢図』が登場しますが、2012年にカタールで開催した僕の展覧会で、この作品に着想を得て100mもの絵画作品をつくりました。辻惟雄さんとのある雑誌の連載では、辻さんから4回に渡って羅漢のお題を頂きました。江戸東京博物館でちょうど狩野一信の 《五百羅漢図》の展覧会が始まる頃でしたが3.11の震災の影響で延期になりました。震災後に開催されたのも数奇な運命と言えますし、時を同じくして僕がつくった『五百羅漢図』が異国のカタールで展示されたのも何か大きな意味があったと思います。数ある『五百羅漢図』の中でもとりわけ一信の作品に思い入れがあるのは、1855年に起きた安政の大地震の最中、危険と隣り合わせの環境下で制作されたということ、しかし10年かけて羅漢を480人まで描き上げはしたが志半ばで亡くなった。僕も3.11を受けて、宗教と芸術と人間の死というものをテーマとした作品をつくってみたいと思ったのです。この為にスタジオも新しくリノベーションし、日本中の美大を回ってスタッフをスカウトしていくキャラバンで人を集め、パソコンの力をもって1年弱で作品をつくりあげました。

一信のように作品が100年以上サバイヴしていけるかは、自分の死後、価値が問われることになると思います。 電子書籍化が進む中、この『日本美術全集』も紙で出版されるのは最後なのでは、とささやかれていますが、100年後にこの本と僕の作品を、まだ見ぬ未来の理解者が鑑賞してくれることを願っています。

※このページに含まれる文字「辻」は、オペレーティングシステムやブラウザなどの環境により表示が異なります。正しくは二点しんにょう。

村上 隆氏(むらかみ たかし)

現代美術家、有限会社カイカイキキ代表。1962年東京生まれ。
東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。日本のアニメやフィギュアを作品に昇華させ、国際的にも高い評価を受ける。2010年9月フランスのヴェルサイユ宮殿で個展を開催。2012年カタールで開催された個展『Murakami - Ego』において、全長 100mにおよぶ大作『五百羅漢図』を発表し、話題を呼ぶ。著書に『芸術起業論』(2006)、『芸術闘争論』(2010)など。