日本美術全集

全20巻

日本の心が紡いできた比類なき「美」。「日本美術全集 全20巻」。今、日本に存在する「最高の美」のすべてがここに。

第7回配本 運慶・快慶と中世寺院(鎌倉・南北朝時代Ⅰ)

 
責任編集/山本 勉(清泉女子大学教授)
定価本体15,000円+税
ISBN9784096011072
判型・仕組B4判/288 頁
カラー図版口絵144ページ・カラー図版両観音16ページ
モノクロ解説ページ128ページ/上製・函入り/各巻月報付き

もくじ

  • はじめに 山本 勉(清泉女子大学教授)
  • 運慶と快慶 山本 勉(清泉女子大学教授)
  • 中世前期の仏師と仏像 山本 勉(清泉女子大学教授)
  • 生身信仰と鎌倉彫刻 奧 健夫(文化庁主任文化財調査官)
  • 中世仏堂の空間と様式――寺院建築の重層性 上野勝久(東京藝術大学大学院教授)
  • コラム/仏像の耳と仏師――快慶・行快師弟がつくった耳 寺島典人(大津市歴史博物館学芸員)
  • 図解/仏像の姿とかたち

概要

運慶研究の第一人者による責任編集のもと、これまでいわれてきた31体に、さらに16体を加えた「運慶全作品47体」を掲載。また、中世前期における寺院建築の様式史を概観します。

運慶は南都復興で抜群の存在感を放ったのち、貴族と武士、両方の発注者と上手にバランスを取りながら付き合い、東西両方の地に成果を残しました。やがて6人の息子たちも才を受け継ぎ、さまざまな活躍を見せてゆきます。一方、同時代に活躍したもうひとりの天才・快慶は、その生涯をほとんど後世に知られることなく、社会の広い層に共有される“美しき仏像”のイメージを定着させた作品を数多残しています。彼ら“慶派”の華麗なるノミさばきを堪能しながら、日本仏像史上最大の人間ドラマも堪能できる一冊になりました。

注目点

半世紀にわたる運慶研究の成果を見せる

  • 45年前に刊行された『原色日本の美術第9巻 中世寺院と鎌倉彫刻』で運慶作としているのが合計6体、それが本巻では47体。何をもってして運慶作品の数は増えたのか、その証左となる「銘」や文献史料、様式などを明らかにしつつ“運慶作”までの道筋を丁寧にたどってゆきます。
  • 2008年、約14億円にて落札されて話題を呼んだ東京・真如苑の「大日如来坐像」が全集初登場。共通点が多々見られる栃木・光得寺大日如来坐像と並べて掲載。
  • 本巻初、京都・浄瑠璃寺旧蔵の十二神将立像全12体をカラーで掲載。
  • 観音開きページでは、かつて興福寺北円堂にて一具であった「弥勒仏坐像」「無著・世親立像」「四天王立像(現在は南円堂に安置)」を掲載。800年前の世界の再現をご覧ください。

優美なだけではない、快慶のワザの幅広さに注目

  • 代表作といわれる兵庫・浄土寺浄土堂の阿弥陀三尊立像は、建築物と仏像の美しきマリアージュを実感できるよう、4ページにわたって掲載。
  • 2013年に国宝となった奈良・安倍文殊院からは、文殊菩薩騎獅像と善財童子立像をクローズアップ。
  • 像高80㎝未満の東大寺西大門勅額に付されている八天王像は、精巧なつくりをとくと楽しんでいただくために、それぞれを155ミリ×100ミリの大きさで掲載。

“天才”の家族たちの作品も多数掲載

  • 運慶快慶の師匠であり、運慶の父でもある康慶が登場(興福寺不空羂索観音菩薩坐像、興福寺中金堂四天王立像ほか)。
  • 運慶の息子、湛慶と康勝が登場(京都・蓮華王院本堂千手観音菩薩坐像、高知・雪蹊寺像、京都・六波羅蜜寺空也上人立像ほか)。技法やスピリットが、親から子へどのように受け継がれていったのか、ページをめぐりながら実感してください。

「仏像と仏堂」の関係性が如実にわかる建築物の図版満載
奈良・東大寺南大門、奈良・興福寺北円堂、兵庫・浄土寺浄土堂、福井・明通寺本堂など、中世前期の主要な仏堂を外観・内部合わせて50点近い図版を掲載。

鎌倉時代最大のトレンド「生身仏(しょうじんぶつ)」について
奥健夫氏による論考「生身信仰と鎌倉彫刻」では、仏像を人間に近づけてつくる「生身信仰」とはなんだったのか、を詳述。さらに研究者だからこそ撮影できた、仏像の口元(「歯」が見える!)や足もと(一歩踏み出すかのように、親指が上を向いている!)に寄った写真を贅沢に掲載しました。

鎌倉彫刻を理解するうえで必須の「用語」を図解でナビゲート
カラーページで掲載している仏像(光臺院阿弥陀三尊立像、願成就院毘沙門天立像、円成寺大日如来坐像、瑞林寺地蔵菩薩坐像)をモデルに「かたち」「各部名称」「坐り方」および「印相の種類」をイラストで解説。さらに文章だけでは理解の難しい製作法「割矧ぎ造り」の工程も。

鎌倉彫刻を理解するための「関連年表」完全版!
責任編集/山本勉氏監修のもと、1151年製作「奈良・長岳寺 阿弥陀三尊坐像」から1392年南北朝合一までの彫刻史を網羅した年表で、いっそう時代および仏師や仏像の変遷の理解を促します。

(編集担当・竹下亜紀)

 まず、お詫びさせていただきたく存じます。
 本来でしたら、本巻は2013年12月中の発売でした。ところが編集上の都合により、発売が1ヶ月遅れることとなってしまいました。刊行を楽しみに待っていらした読者のかた、毎回読者に本を届けてくださっている書店のかた、取次会社のかたなど多くのみなさまにご迷惑をおかけしましたことを深くお詫び申しあげます。申し訳ございませんでした。なお、次巻『王朝絵巻と貴族のいとなみ』は予定通り、2月27日頃の発売となります。

山本勉先生について

 私(担当編集)が山本勉という名前を意識しだしたのは、山本先生の著書『仏像のひみつ』が刊行された2006年のころからでしょうか。小学校時代を関西で過ごした関係で、遠足などでことあるごとにお寺めぐりをしており、なんとなく仏像やお堂をなじみ深いものとして感じていたものの、その愛で方は「(大仏を観て)大きいね〜」「(千体千手観音像を観て)圧巻だね〜」「(閻魔像を観て)怖いね〜」という感覚的なもの。そこに本書が登場し、じつにわかりやすく“仏像をめぐるあれこれ”の知識を授けてくれたわけです。いまでは10万部を越えるロングセラーとなっている本書は、「仏像といえば山本勉」の意識を各界に根付かせ、山本先生はあっという間に仏像ワールドの魅力を伝える人気の語り手となりました。
 なぜ、山本先生の解説は、明快でわかりやすいのか。
 その理由のいくつかを、私が知っている山本先生のエピソードから探っていきたく思います。

 なぜ、山本先生の解説は、明快でわかりやすいのか。
 その理由は、先生のなかに、つねに読者の視点が組み込まれているからです。
 先生は未就学児のころから「大人になったら(情報の)送り手になりたい」との夢をもっていました。絵が大好きだったツトム少年は、自然と表現媒体をマンガに絞ります(ちなみにマンガ週刊誌『少年サンデー』『少年マガジン』が創刊されたのは先生が6才の頃です)。驚くべきことに、中学生になると石ノ森章太郎(当時は石森)を訪ね、ストーリーマンガの批評をしてもらっているのです(余談ですが、小学生のとき『サイボーグ009』が大好きでファンクラブにも入っていた私からすれば、これは驚天動地の出来事です!)。マンガ家の夢はけっこう早めに潰えてしまうのですが、送り手活動の表現媒体は学校新聞や学内発行の雑誌に移りました(なんと表紙絵も描いていた!)。つまり、先生の周りにはいつも読者が居たのです。読者を前に、先生は記者であり、イラストレーターであり、編集者であった。いま自分が持っている情報を、いかに編集して送り手(読者)に伝えるか―― 現在はその情報が学問に変わったわけですが、いわば先生はものごころついたころから編集者だったといえるでしょう。

 本巻が校了を迎える約1ヶ月間、編集部は連日、山本先生に10本以上の質問や相談メールを送っていました。昼間に出すと、そのお返事がだいたい夜中の12時くらいにはまとめて返ってきます。その後、午前2時近くまで、メールのやり取りが続きます。なぜそれほど頻繁にキャッチボールが必要なの?と不思議に思う方もいるかもしれません。先生は、編集部の拙い質問に単純に答えるだけでなく、「研究者ではない者がどの点で躓いてしまうのか」を探り当て、その躓きポイント(理解を妨げてしまう表現など)をできる限り払拭しようとさらなる作業を試みるからなのです。
 全集において、最新の知見を盛り込むことは当然です。しかし、さらに大切なのは、作品の魅力や背景をわかりやすく読者に届けることだと私は思います(望みます)。責任編集者である山本先生が、その点をずっと根底に意識して関わってくださったことは、じつに幸運でした。

 先生は打ち合わせのなかで、ときどき「鎌倉時代も現代も、人はつねに人間関係のなかで働いていた。悩みも喜びも人間関係から生まれていた。その点では運慶・快慶も私たちも同じなのですよ」とおっしゃっていました。この言葉を思い浮かべながら運慶・快慶の作品を観、論考《運慶と快慶》を読むと、胸に迫ってくるものがあります。ここではその理由を述べませんが、とりわけクリエイターと呼ばれる職業の方には、ぜひ《運慶と快慶》を読んでいただきたい。

 さて、これを読んでくださっている方の中には、山本先生の講演を聴かれたことのある方も多いかと思います。頭の回転がすこぶる早いため、自然と早口になってしまうご自分のクセをご存じなのか、ときどき先生がフッと深呼吸してゆっくりはっきり話そうと軌道修正されるのに気づきましたか? そんなところにも、送り手としての配慮とサービス精神を感じます。2014年2月2日には小学館主宰で講演会を予定していますが(講演テーマ:運慶のまなざし-全作品47体と眼の表現-)、こちらの報告はFaceBookにて行う予定ですので、ぜひチェックなさってください。
https://www.facebook.com/nichibi.shogakukan

※参考資料:『山本勉著作目録(1980-2013)』掲載《著作のこと》

(編集担当・竹下亜紀)