私は夜行をこう読んだ! 皆さまの声 森見登美彦氏が特に唸ったベスト10公開中!
受賞作タイトル

世界は常に夜。登場人物たちは皆、夜を生きている。それが夜行だ。中井さんの妻やホテルマンは、主人公の幻想の話だと思う。第四夜までは中井さん他が「無事に帰ってこられない可能性」「旅先でぽっかりと開いた穴に吸いこまれる」だったのではないか。そして夜行と曙光、並行する二つの世界で生きる人々。二つの世界が一緒になることはないと思っていたが、登場人物が不思議な旅を経験したのは、二つの世界が絡み合ったからだと思った。

夜は怖い。一人でいても誰かといても。心の中の影はお昼は気にならない。でも暗闇の夜になるとじわじわと浸食し、遂には影に飲み込まれる。表の世界の自分がいつの間にか裏にいる。表から消えてしまった友人が裏の世界では幸せそうにしている。表から見ればあちらは裏だけど、裏からみればこちらが表。この世は常に表裏一体。メビウスの輪のように裏かと思えば表に。表かと思えば裏に。そうして、長谷川さんは影に飲み込まれ続けて夜だけを生き続けているのかもしれないと思った。

まだ旅は終わっていない。ずっと続いてると思う。各章の終盤は、あったかもしれない夜の入り口に繋がっているのだと思う。それは夜と言う穴の淵をぼかして日常と地続きにするものと感じた。

最終章で世界が銅版画のように反転し、そしてまたにじんでいくように思えた。行方不明になっていたのは語り手の大橋さんであり、やはり絵の中の女は長谷川さんなのだと私は解釈した。

 『夜行』の世界の足場のなさや、そこから生まれてくる不安な手触りを、スマートにまとめていただいていると思います。「メビウスの輪」というのは良い喩えです。「夜と言う穴の淵をぼかして日常と地続きにする」という表現もステキです。なるほどナアと思いました。

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