私は夜行をこう読んだ! 皆さまの声 森見登美彦氏が特に唸ったベスト10公開中!
受賞作タイトル

物語が絵画に収束していく。英会話スクールの面々が語る、銅版画にまつわる奇妙な旅の物語。もしふとしたきっかけで夜行、永遠に続く夜への片道切符を手にしてしまったら……。人々が魔に魅入られる瞬間、それはもう二度と会うことのない幻の女性の姿をとって現れる。十年間、英会話スクールの仲間たちには長谷川さんという共通の空白があった。

しかし、魔は旅行の道中で長谷川さんという共通認識からより個別の、彼らの愛したゴーストへと変容していく。魔はそれぞれが妄執する面影全ての総体である。ゴーストを道連れとした奇妙な旅行譚はまるで画廊に並んだ絵画。長谷川さんの喪失が魔を浮き立たせる。岸田が作り出した表裏一体をなす対の連作、夜行と曙光。作品に込もった恋慕の情が二つの世界を繋ぐ。

岸田が思い人と添い遂げる世界、彼女の似姿をとる魔が棲む世界。しかし誰かの恋の成就は誰かの失恋であり、鞍馬の火祭で岸田と長谷川さんが再会を果たす夜、大橋は文字通り自分の世界から長谷川さんを失う。そして、彼は魔の棲む夜の世界へ姿を消す。

夜の世界は現実世界の伴侶や恋人よりも自分の中に潜む妄念を選択した世界だ。合わせ鏡のように魔が接近して、他者の幻影、ひいてはドッペルゲンガーを連れてくる。ただ、『夜行』はどちらの世界を選ぶことも否定しない。大橋が両世界を旅できたのは、妄念ではなく確かに長谷川さんに惹かれていたからだとそう思う。

 「魔」というものについて一つの仮説を設定された点が面白いと思います。たしかに『夜行』では長谷川さんという共通の空白が語り手ひとりひとりの「ゴースト」へ変容していきます。夜の世界は「妄念を選択した世界」というご指摘もなるほどです。

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