私は夜行をこう読んだ! 皆さまの声 森見登美彦氏が特に唸ったベスト10公開中!
受賞作タイトル

「曙光」の世界の岸田が英国で見たという絵に描かれた若い女性は、画家に殺害されたという。この絵画は「夜行」を暗示している。「夜行」は妄想の女を描いたのではなく、岸田が殺害した女性をモチーフにして描かれたのだ。では岸田は誰を殺したのか?作中には長谷川以外に該当する人物は出てこない。これが前提1である。

そして、画廊に「夜行」が展示してある世界と「曙光」が展示されている世界は、色々な点が対になっている世界である。これが前提2である。

では2つの前提から何が推測できるか。「夜行」の世界で失踪したのは長谷川であり、「曙光」の世界で失踪したのは大橋である。ならば「曙光」の世界の大橋も、誰かに殺害されているのではないか? ということだ。誰に? 同じく岸田に? それとも……長谷川に。「夜行」の世界での殺人者岸田は「曙光」の世界では長谷川の配偶者である。では、その対となる「曙光」の世界での殺人者は? 「夜行」の世界での大橋の配偶者? だが大橋は未婚であり、該当する人物はいない。いや、いないのではない。いなくなったのである。配偶者となるはずであった人物、つまり、長谷川の失踪により。

一見大橋の失踪以外は暗い影の見られない「曙光」の世界であるが、この仮定を元に最終夜「鞍馬」を長谷川の視点から再構成すると、「手ずから殺した人間が、別の世界から訪ねてきた」という、全く別の印象を受ける話になるのだ。

 ミステリ的に『夜行』の世界を読み解いていただきました。前半の考察については「ひょっとすると……」と考えた読者もおられると思いますが、後半の考察はさらなる可能性へ跳躍したものです。最終章の情景がユラリと不気味に変容します。おみごとです。

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