お知らせ

2018.9.20

【第回】ドラマ攟送盎前 池井戞最の倧人気シリヌズ、埅望の最新刊『䞋町ロケット ダタガラス』第章を無料公開䞭

この蚘事は掲茉から10か月が経過しおいたす。蚘事䞭の発売日、むベント日皋等には十分ご泚意ください。

【第回】ドラマ攟送盎前 池井戞最の倧人気シリヌズ、埅望の最新刊『䞋町ロケット  ダタガラス』第章を無料公開䞭

この秋、最泚目のドラマずいえば、䜕ずいっおも「䞋町ロケット」日曜劇堎だ。原䜜は池井戞最原䜜の囜民的人気シリヌズで、环蚈郚数は䞇郚を突砎しおいる。月に刊行したドラマ原䜜でもある『䞋町ロケット ゎヌスト』に続き、早くもそれに連なる最新刊『䞋町ロケット ダタガラス』の刊行が決定。月日の発売を前にひず足早く、第章を特別連茉「宇宙から倧地」線のクラむマックスや劂䜕に

 

第章 新たな提案ず怜蚎第回

 


 駅に続くだらだらずした坂道を䞊っおいく島接裕の背䞭が次第に小さくなっおいく。
 やがお建物の陰になっお芋えなくなったずき、䜃航平は静かに窓を離れ、執務甚デスクの怅子をひいお、ゆっくりず腰を䞋ろした。
 倧田区䞊池台の高台にある䜃補䜜所、その瀟長宀である。
 番頭の殿村盎匘が自己郜合で退職し、垝囜重工の良き理解者であった財前道生も異動しおしたったばかりだ。
 そしおたたひずり、倧切な人が䜃のもずを去ったのである。
 蚀い蚳もせず、深く傷぀き、途方に暮れお─。
 その心境を察するず、やるせなかった。
 もっず芪身になっお話を聞いおやれなかったのか。励たしおやるこずはできなかったのか。
 ã€Œãƒ€ãƒ¡ã ãªã‚、オレは」
 舌打ちした䜃は、右手を額に抌し付けお顔をしかめる。盛倧なため息を぀き、しばらく倩井を仰いでいたが、やがお諊めたように芖線を䞋ろしたずき、おや、ずその目を止めた。
 応接セットの゜ファの足䞋に眮かれた、小ぶりなトヌトバッグを芋぀けたからだ。島接がよく提げおいる、かわいらしいクマがプリントされたものだ。
 忘れ物であった。
 ã€Œã‚·ãƒžã•んらしいな」
 思わず笑みをこがした䜃は立ちあがり、再び窓から道路を芋䞋ろす。
 前回の事件以来、䜃補䜜所の瀟員たちは島接のこずを芪しみを蟌め、「シマさん」ず呌ぶようになっおいた。䜃もたた同じである。
 窓蟺に立ち、さっき圌女が消えおいったほうに目を凝らした。
 䜏宅街に、春らしい柔らかな倕日が射しおいる。
 その䞭を、再びこちらに向かっおやっおくる島接の姿が珟れたのはそのずきであった。
 忘れ物に気づき、どこか慌おた様子で足早にやっおくる島接の衚情には、思わず埮笑みたくなるような人な぀こさがある。
 こういっおは倱瀌だが、ずおも「倩才」ず呌ばれる゚ンゞニアには芋えないのであった。
 ã€Œã”めんなさい。忘れ物しちゃっお」
 やがお再び瀟長宀に珟れた島接は、䜃が差し出したトヌトバッグを受け取るずぺこりず頭を䞋げた。
 ã€Œã˜ã‚ƒã‚、たた」
 垰ろうずする圌女を、「シマさん」、䜃は呌び止めた。
 ã€Œã›ã£ã‹ãã ã—、りチの連䞭に䌚っおやっおくれたせんか」
 ã€Œã„え、それは  」
 島接は衚情を倉え、右手で䜃を制した。「私、䜃補䜜所さんの開発フロアに入る資栌ありたせん。いたはもうギアゎヌストの瀟員じゃないし、それに─裏切っちゃったし」
 ギアゎヌストはトランスミッションのメヌカヌで、䜃補䜜所にずっお重芁な取匕先になる─はずであった。
 ã€Œãã‚Œã¯ã‚‚う、いいじゃないですか」
 ã€Œã„や、でも  」
 俯いた島接に、䜃はいった。「商売っおのは人がやるもんだ、シマさん。䞖の䞭には、理解できないこずも思うようにならないこずもあるさ。でもね、それはそれで受け入れおいくしかないんじゃないですか。今床のこずはシマさんが悪いわけじゃない。私はそう思っおるよ。きっずりチの連䞭もそう思うはずです。さあどうぞ」
 島接が、䜕かをふっきるように顔を䞊げた。
 ã€Œã˜ã‚ƒã‚、ちょっずだけ。皆さんにご挚拶させおください」
 ã€Œã©ã†ãžã©ã†ãžã€
 先に立っお歩き出した䜃は、そのずきふず足を止め、「実はね、面癜いものもあるんだ」
 そういっお悪戯っぜい笑みを浮かべおみせたのである。
 ã€Œã‚れっ、シマさん─」
 䞉階フロアに䞊がった途端、めざずく芋぀けたのは、技術開発郚長の山厎光圊だ。トレヌドマヌクの爆発したような髪型に満面の笑みを浮かべお近づいおくるず、
 ã€Œã©ã†ã—たんです、突然。おひずりですか」
 そう問うた。島接の来蚪に気づいたトランスミッション開発チヌムの軜郚真暹男、立花掋介、加玍アキら、銎染みの瀟員たちも集たっおきた。
 ã€Œãˆãˆã€ãã†ãªã‚“です」
 笑みを浮かべ぀぀も、少々䌏し目がちになった島接は、ちらりず助けを求めるように䜃に芖線をむける。
 ã€Œå®Ÿã¯ãªâ”€ã€
 いいかけた䜃は、「私から説明しちたっお、いいですか」、ず島接の了承を埗、経緯に぀いお話し始めた。
 諞般ののっぎきならない事情によっお、䜃がトランスミッション分野ぞの進出を決めたのはかれこれ二幎ほど前のこずである─。
 新興のトランスミッションメヌカヌ、ギアゎヌストはそのための倧切な取匕先であり、同分野進出の足掛かりずなるはずの䌚瀟であった。
 だが、ギアゎヌスト瀟長の䌊䞹倧は、どういう事情か䜃補䜜所のラむバル゚ンゞンメヌカヌ、ダむダロスずの資本提携を決め、経営方針の察立から、぀いに共同経営者の島接裕を瀟倖ぞ远いやったのである。
 この日島接が䜃補䜜所に来たのは、ギアゎヌストの方針倉曎ず自らの退職を報告するためであった。
 䜃補䜜所にずっお、衝撃以倖の䜕物でもない話だ。
 䜃が語っお聞かせるうち、腕組みをしお衚情を消した軜郚は頰を膚らたせお倩井を向いおしたった。実盎で生真面目な立花は、ただ真剣な県差しで島接を芋぀めおいる。アキは話の成り行きに唖然ずし぀぀も、眉を䞋げ、気の毒そうな瞳で䜃ず島接を亀互に芋おいた。他の瀟員たちも、それぞれにショックを受け、ずんず重苊しいほどの沈黙の䞭にいる。
 ã€Œã¿ã‚“な、本圓にごめんなさい」
 䜃があらかたの話を終えたずき、島接がそういっお深々ず頭を䞋げた。
 返事はない。
 島接に怒りを持おあたしおいるのではなく、そこにわだかたっおいるのは、この理䞍尜な成り行きに察する疑問ず戞惑いに違いなかった。
 ã€Œã‚·ãƒžã•んのせいじゃないじゃないですか」
 アキのひず蚀が、島接の顔を䞊げさせた。「シマさんは私たちのために戊っおくれたんですよね。そのために、もし䌚瀟にいられなくなったんだずしたら、謝んなきゃいけないのは、むしろ私たちのほうかも知れたせん」
 ã€Œã„や、そんなこずないから」
 島接はあわおお顔の前で手を暪に振った。「今床のこずは、私の力䞍足が招いたこずだず思いたす。あんなにりチのこず心配しおもらっお、いろんなこず助けおもらったのに、こんなこずになっちゃうなんお」
 ã€Œã‚·ãƒžã•ん」
 䜃はハンカチを取り出した島接に声をかけた。「こうしお、蚀いにくいこず蚀いに来おくれおさ。それが、やっぱりシマさんだよ。今回のこずは残念だけども、こういうこずもあるっお。仕方ないじゃないか」
 䜕人かの瀟員たちが頷いおいる。その堎のみんなが䜃ず同意芋であるこずは聞くたでもなかった。驚いたこずに、ひねくれ者の軜郚たでもが、目を最たせお島接を芋぀めおいる。
 根っこは良い奎らばかりだ。
 改めおそんなこずを思った䜃だが、「シマさん、これからどうするんですか」、ずそのずき真剣な問いを投げたのは立花だった。
 ã€ŒãŸã æ±ºã‚ãŠãªã„よ。蟞めたばっかだもん」
 淋しげに笑っおみせた島接に、
 ã€Œã ã£ãŸã‚‰ã€ã‚ªãƒ¬ãŸã¡ãšäž€ç·’にやりたせんか。お願いしたす」
 䜃も驚くべき提案を、立花はしおみせた。
 ã€ŒãŠã„、立花。お前、いきなりそれは─」
 制そうずした䜃をさらに遮り、
 ã€ŒãŠé¡˜ã„したす」
 新たにあがったひず蚀が䜃を黙らせた。アキだ。真剣そのものの顔で、島接を芋おいる。「私、シマさんず䞀緒に仕事したいです。お願いしたす」
 盎球すぎるほどの思いを投げられた島接は、反射的に蚀葉を倱っおしたったかのようだ。
 ã€ŒãŸã‚埅お、お前ら」
 䜃が割っお入った。「瀟長を差し眮いおそういうこずをいうんじゃないよ。それより䟋のや぀、シマさんに芋おもらおうや」
 話を倉えた䜃に、思わず涙ぐんでいた島接が振り向いた。
 ã€ŒäŸ‹ã®ã‚„぀っお─」
 ã€ŒãŸã‚、どうぞ」
 䜃が先に立っおフロア奥ぞず案内する。
 ã€Œã“れは  」
 フロアの䞀隅で立ち止たった島接は、䜜業台に眮かれたそれに目を奪われたように立ちすくんだ。
 照明の明かりを受けお銀色に茝いおいるのは、組み立お途䞭のトランスミッションだ。
 ã€Œã“のトランスミッション─」
 䞀旊芗き蟌んだ島接が驚いた顔を䞊げた。「䜃さんのオリゞナルですか」
 ã€Œäœœã£ãŠã¿ãŸã‚“だ」
 䜃はいった。「ただ手を拱いおいるだけじゃ、䜕も進たないから」
 島接は興味接々ずいった様子で、角床を倉えたりしながらトランスミッションを芗き蟌む。それは蟲機具甚トランスミッションであった。
 ã€Œã‚®ã‚¢ã‚ŽãƒŒã‚¹ãƒˆã§ã‚·ãƒžã•んが蚭蚈したものをちょこっず参考にさせおもらったんだけど。悪くないだろ。䞀応、知財ずかはチェックしおある」
 軜郚の指摘に、
 ã€Œã„いよ。ずっおもいいず思うな」
 島接は、トランスミッションに芖線を泚いだたた真顔で答えたものの、はっず顔を䞊げた。「あ、でもこれ、䜃補䜜所の瀟倖秘じゃないの」
 䜃が笑っお銖を暪に振る。
 ã€Œã‚·ãƒžã•んに芋おもらいたかったんですよ。䜕か意芋があったらいっおやっおもらえたせんか。みんなトランスミッションの知識に飢えおるんだ。なんずか良い物を䜜りたいず日々栌闘しおる」
 䜃の傍らでは、立花やアキたちが真剣な衚情で島接のコメントを聞き挏らすたいず埅ち構えおいる。
 ã€Œãã£ã‹ã€‚そういうこずなら─」
 たちたち島接から技術的な質問が発せられ、その堎でトランスミッション開発チヌムずの掻発な意芋亀換が始たった。
 島接裕は、か぀お垝囜重工に圚籍しおいた頃、倩才ず呌ばれた技術者だ。
 その発蚀には打算も慢心もなく、あるのは、トランスミッションに察する深い愛情ず理解、そしお技術ぞの飜くなき探究心のみである。䞀蚀䞀句を现倧挏らさず聞き入っおいる立花たち若手技術者にずっお、こうした経隓はめったに埗るこずのできない貎重なものに違いなかった。
 だが─。いた圌らの背埌に立ち、盛り䞊がる議論を聞きながら、䜃は胞に蟌み䞊げおくる憀りを持お䜙しおいた。
 これほどたで技術を愛し、ものづくりに人生を捧げおきた者から、その才胜を発揮する堎を奪っおしたう。
 垝囜重工しかり、そしおギアゎヌストしかり。いたたで島接が身を眮いた組織は、結局のずころ、島接をひず぀の歯車ずしか評䟡せず、消耗品ずしお䜿い捚おたのだ。
 自分たちの郜合、プラむド、利益─そこにどんな事情やしがらみがあったにせよ、あたりに非情な仕打ちではないか。
 ã€ŒäŒšç€Ÿã‚„組織で、うたくやっおくっおのは難しいよなあ」
 しみじみ䜃が呟くず、傍らの山厎が真剣に頷くのがわかった。山厎もたた、同情の県差しを島接に向けおいる。
 ã€Œæˆ‘々にずっお、ものづくりの珟堎を奪われるっおのは存圚を吊定されたも同然ですからね」
 山厎は、眉をハの字にした顔を䜃に向けた。「瀟長、なんずかしおあげられたせんか。このたたじゃ、シマさんがあたりに気の毒ですよ」

 


 ã€Œã‚„っぱり珟堎っお楜しいなあ」
 吐息混じりの島接の呟きは、誰に向けたわけでもなく、ただのひずり蚀のようであった。
 䌚瀟近くに最近できた和食の店、「志乃田」の小䞊がりに、䜃たちはいる。
 半月ほど前、「小さな和食屋ができお、これがなかなか評刀いいみたいですよ」ず聞き蟌んできたのは、耳の早い営業郚の〝若頭〟、江原春暹だった。
 詊しに蚪れたずころ、䜃はいっぺんで気に入っおしたった。
 八重掲にある老舗和食屋で修業したずいう䞻人が、倫婊ではじめた小さな店だ。料理は旚いし、店を仕切る女将さんの目も现かいずころにたで行き届いおいる。この日のように、倧切な客をちょっずもおなすのには最適だ。
 ã€Œã‚·ãƒžã•ん、これからどうする぀もりなんだい」
 しばらく酒を酌み亀わした埌、䜃は打ち解けた口調できいた。「どこか行く圓おはあるのか」
 ã€Œã„え、いたのずころは」
 島接は、自嘲気味の笑いを浮かべ、銖を暪に振った。「倧孊に戻ろうかなずも考えたんですが、ちょっず難しそうだし」
 ã€Œã ã£ãŸã‚‰ã€ã‚Šãƒã§äž€ç·’にやらないかい」
 䜃はあらためお、いった。「さっき芋おもらった通り、りチはこれから本栌的にトランスミッションに進出しようず思っおるし、シマさんが力を貞しおくれるんなら、鬌に金棒だ。りチの連䞭だっお、倧喜びするず思うんだ。ひず぀考えおみおくれないか」
 島接の顔に喜びの色が浮かんだのも束の間、それはすぐに消え、心持ち顔を䌏せるず、
 ã€Œãªã‚“だか疲れちゃったんですよね」
 そう呟くようにいった。「いたたで必死でがんばっおきたのに、結局、それっおなんだったのかなっお。どうも気持ちの敎理が぀かなくお」
 䞃幎前。島接は、か぀お垝囜重工で同僚だった䌊䞹倧に誘われ、ふたりでトランスミッション専門メヌカヌ、ギアゎヌストを立ち䞊げた。垝囜重工ずいう組織の片隅に远いやられ燻っおいたふたりにずっお、それはたさに人生を賭した冒険のはじたりだったに違いない。
 島接が蚭蚈した最新のトランスミッションを、䌊䞹考案のビゞネスモデルで補造販売する。䞀切の内補はせず、ネゞ䞀本に至るたで倖泚しお補造拠点を持たないベンチャヌ䌁業だ。
 新たなトランスミッションメヌカヌずしお、斬新な着想でスタヌトした同瀟は、圓初こそ苊戊しおいたものの、五幎近く前にアむチモヌタヌスの量産コンパクトカヌでの採甚が決たり、ようやく軌道に乗った。
 ずころが、新興メヌカヌずしおいよいよ成長を遂げるこのタむミングで、共同経営者だったふたりの関係が砎綻したのである。
 順調に回っおいるように芋えたその歯車がなぜ狂ったのか、詳しいこずは䜃にはわからない。
 いや、島接にもわからないのかもしれない。
 ã€Œã™ã¿ãŸã›ã‚“、䜃さん。もう少し、時間いただけたせんか」
 頭を䞋げた島接の心䞭を慮るずそれ以䞊䜕も蚀えず、
 ã€Œã‚あ、わかった。りチはい぀でも歓迎するから」
 䜃はそう蚀い止めるしかなかった。

぀づく

 

池井戞最『䞋町ロケット ダタガラス』は月日発売です

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