神保町シアター

これまでの特集企画

没後十年 木下惠介の世界


1. 花咲く港

風光明媚な天草地方の小島に現れた二人の詐欺師と、島民たちの間で巻き起こる騒動を描いた喜劇。大型新人の登場と世を驚かせた鮮やかなデビュー作。

2. 陸軍

幕末から三代にわたって立派な軍人を育てることが悲願だった一家の物語。田中絹代が、出征するわが子をどこまでも追うラストシーンは映画史上の名場面。

3. 大曾根家のあした

戦時体制下に台頭した軍部が、敗戦によって醜く落ちぶれるさまを一軒の邸宅の中のドラマとして描く。『陸軍』が当局ににらまれた木下の見事な戦後復帰作。

4. 破戒

信州の澄みきった大気の中で展開する真摯なヒューマンドラマ。有名な島崎藤村の原作を久板栄二郎が大胆に脚色し、シンプルかつ力強い構成となった佳作。

5. お嬢さん乾杯

新藤兼人の脚本による木下喜劇の代表作。没落華族の令嬢と、独力で財をなした成金青年が見合いをしたことから始まる爆笑恋愛篇。唯一の原節子出演作。

6. 破れ太鼓

坂東妻三郎を主演に迎え、家でも会社でも暴君を貫く叩き上げの土建屋をユーモアたっぷりに描く名作。次男役で出演した実弟忠司の披露する主題歌も楽しい。

7. カルメン故郷に帰る

日本映画初のカラー作品。浅間山麓を舞台に、自分を芸術家と信じて疑わないストリッパーのリリー・カルメンをめぐる喜劇をオールロケで描いた名作。

8. カルメン純情す

カルメンが女たらしの画家に恋をする。斜めの構図の中でギャグと風刺が冴え渡る秀作。三好栄子演じる、再軍備を目指すヒゲの生えた女政治家がすごい。

9. 日本の悲劇

戦後、女手ひとつで二人の子を育て上げた女の悲劇を描く名作。重い題材だが、適材適所の豪華俳優陣と、卓抜で堅牢な構成によって、片時も目が離せない。

10. 女の園

京都の厳格な女子大を舞台に、自由を求める学生たちと学校側の軋轢が沸点に達するまでを、華麗なオールスターキャストで描き、代表作となった大傑作。

11. 二十四の瞳

木下惠介の代名詞といえる国民映画。昭和初年から戦後にかけて、小豆島の分教場の12人の子供たちと大石先生が生きた昭和庶民史を綴る映画史上の名作。

12. 遠い雲

飛騨高山に帰郷した男が、未亡人となったかつての恋人への思慕に苦しむ。あまり知られていないがメロドラマの傑作。成瀬巳喜男ファンの方も必見です。

13. 野菊の如き君なりき

「野菊の墓」の映画化で、抒情派木下映画の頂点をなす秀作。古い写真のように楕円形にぼかされたフレームに展開する少女と少年の悲恋を回想形式で描く。

14. 太陽とバラ

貧しさを嫌って遊び歩く青年が、裕福な太陽族に目をつけられ弄ばれる。当時の太陽族ブームへの反撥が製作動機で「好きな作品です」と木下は語っている。

15. 喜びも悲しみも幾歳月

昭和7年から日本各地に赴任して、灯台守としての職務を全うした夫婦の年代記。木下好みの題材を、四季折々の美しい風景の中に描き尽くした名作。

16. 楢山節考

姥捨て伝説に材をとった深沢七郎の小説の映画化。「風景の人」木下が一転、歌舞伎の様式美を取り入れ、オールセットで撮った名作。田中絹代が絶品。

17. この天の虹

八幡製鉄の作業員たちを主人公に、働くことの意義を問う作品だが、大企業の広大な敷地に生きる人々の「昭和の社宅物語」としても出色のおもしろさ。

18. 風花かざはな

封建的な旧家で生きるしかなかった女の20年を、年代を自在に交錯させながら描く野心的な傑作。信州・善光寺平の美しい風景の中で、3人の女優が美を競う。

19. 惜春鳥せきしゅんちょう

会津若松を舞台に、白虎隊の剣舞を共に舞った幼なじみ5人組が再会する青春抒情篇。純情と打算が交錯する若者群像を描き、これぞ木下惠介といえる作品。

20. 今日もまたかくてありなん

島崎藤村の詩の一節をタイトルに冠し、世捨て人となった旧軍人と帰郷した主婦の交流を、中軽井沢を舞台に描く。先代の勘三郎が自ら木下作品への出演を希望したことから実現した作品。

21. 春の夢

会社社長の豪邸で、焼芋売りの老人が倒れたことから始まるシチュエーション・コメディ。社長一家や老人の隣人たちが舞台劇のように入り乱れる野心作。

22. 笛吹川

白黒画面に特殊な着色を施した実験的映像で展開する戦国絵巻。半農の足軽一族の年代記から、甲斐・武田家の隆盛と滅亡を描き、最高傑作との声も高い名作。

23. 永遠の人

相愛の仲を引き裂かれ、無理やり結婚させられた夫を憎み続けた女の物語。日本映画離れした激情の応酬が、年代記として綴られる木下の傑作のひとつ。

24. 今年の恋

出来の悪い弟を持つ者同士の男女がやがて結ばれるまでを描く、楽しい「喧嘩友達もの」恋愛映画の秀作。水を得た魚のような岡田と豪華脇役陣も見もの。

25. 二人で歩いた幾春秋いくはるあき

山梨を舞台に、道路工夫とその妻の戦後史を綴る。酒好きだが実直で、黙々と年輪を刻んでいく主人公の造形が素晴らしく、佐田啓二の代表作に推したい作品。

26. 歌え若人達

大学の寮に住む学生たちの青春群像を描く。ひょんなことから俳優デビューした学生が、佐田啓二ら松竹スターのレビューに登場する楽屋落ちもある正月映画。

27. 死闘の伝説

敗戦間近の北海道の山村に銃弾が飛び交う悲痛な活劇。特異な状況下に爆発する集団の狂気をサスペンスたっぷりに描き、封建的な村社会の醜さを暴き出す。

28. 香華こうげ

淫蕩な母に芸者に売られた女が、花魁となった母と再会する。母と娘の愛憎渦巻く昭和史を綴った傑作大河ドラマ。大ヒットを記録した代表作のひとつ。
(途中休憩あり)

29. 衝動殺人 息子よ

テレビ界で活躍していた木下が本格的に映画に復帰した感動作。一人息子を通り魔に殺された老夫婦が、被害者保護を訴え全国を行脚する。高峰秀子の引退作。

30. 父よ母よ!

全国を行脚し、不良少年少女たちを取材する新聞記者を狂言廻しに、様々な非行の実例を紹介し、親たちの責任を問う。子供らへの愛情に満ちた真摯な力作。

31. この子を残して

長崎で被爆した放射線科の医師の手記をもとに、原爆への怒りを静かな日常描写を積み重ねながら描く。終幕に展開する原爆の地獄図が圧倒的な晩年の代表作。

32. 新・喜びも悲しみも幾歳月

装いも新たに、80年代の灯台守の哀歓を描いた作品で、57年版のリメイクではない。植木等が主要な助演男優賞を独占したことでも知られる晩年の佳作。

33. 父

大言壮語はするが、何事もうまくいかないダメ親父を息子の視点から描く。遺作となった小品喜劇で、TVの「木下惠介アワー」的な世界は思わぬ贈物だった。